生徒指導室の闇

糸花

第1話

「ごめんなさい。」

彼は今までに一度も見たことのない真剣な顔で僕に謝ってきた。

「本当にごめんなさい。」

彼の母親もハンカチで涙を拭いながら僕に頭を下げる。

「これだけ謝っているんだし、許してあげたら?」

先生が僕に言う。なにそれ。

謝って済むなら警察はいらない。

いや今警察はいらない。

僕が欲しいのは"ごめんなさい"によってねじ曲げられたこの気持ちの行き場だった。

彼が僕に何をしたのか、そんなことはどうでもいい。もう終わったことだから。

謝罪の言葉なんか聞きたくない。

本当にそう思っているなら最初からこんなことしなかったでしょ?

今謝っているのは自分の為でしょ?

早く終わって欲しいって思っているんでしょ?

わかるよ、だって僕も君と同じ、汚い人間だからね。

だからこれはただの同族嫌悪なのかもしれない。

僕は彼が嫌いです。

多分死ぬまで嫌いで、このことは死ぬまで許さないし、死ぬまで忘れない。

それじゃダメなの?ねぇ、先生。

彼が僕を見ている。

早く家に帰って遊びに行きたい。そんな目で。

彼の母親が僕を見ている。

これだけ謝っているのだから許してあげてよ。そんな目で。

先生が僕を見ている。

黙っていないで何か言いなさい。そんな目で。

「わかりました。」

僕は死んだ顔でそう言った。

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生徒指導室の闇 糸花 @itoka_kotoba

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