イムラと白湯

「つまり、あれだ。悪意を込めた言い方でいうと、「わしの囲うとる女の仕事の世話ぐらいしてくれったて罰当たらんで?おおん?眉毛剃るぞこら!」ということだな。」


「話、聞いてました?」


市長であるイムラに事情を話しましたが虫の居所が悪かったようで、会話になりません。


「あれだよ、君。血税というものはね君が女を囲うために集められてるわけじゃないんだ。そんなものに現を抜かして仕事が疎かになるようなら私としても断固とした態度を取らねばなるまいよ。許して貰いたければ、そこにいる秘書のサラちゃんに対する口説き文句を考えることだね!ただし、例文中に必ず、ストッキングが伝線してるよ、を入れること!分かったか、このおたんこなす!」


サラさんというのはどうやらこの前白湯を持ってきた職員の女性のようです。一体どんな口説き方をして怒らせたのでしょう。


「それで、結局のところ仕事はあるんですか?」


「うーん。それがねぇ。」


イムラは自分で入れた白湯を啜りながら言葉を濁します。


「ほら、うちってさ月末になるとその月の書類を整理して、色々な会計報告出してって忙しいんだけど、それ以外のときって案外暇なんだよね。」


ついこの前はてんやわんやって言ってましたけどね。


「だから、即戦力としてはありがたいんだけど、月末だけ働いてもらう感じになるよ。それでもいいかな?」


「うーん。でも、他に出来そうな仕事もありませんしね。選択肢は無いかと思います。」


「そうね。どちらにしても来年以降にしか出発できないわけだし、そんなにしっかり働かなくてもね。それで、その娘は来てんの?ここに。」


「はい。ロビーで待ってもらってます。クロエさんがいては話しづらいこともあるかと思って。」


「正解だな。それにしても、どうするよ?いつまでもお前のとこに泊めとくのも大変だろ。住み込みで働けるところ探そうか?」


「ええ。それもいいですけど、何か複雑な事情もありそうですので親方のところに預かって貰おうかと。あそこなら親方の娘さんもいますし。」


「ああ、ジェシカか。適任かもな。」


ジェシカさんは私の一つ二つ年下ではありますが、しっかり者で男勝りなので子供の頃はイムラと私を子分に従えて、違うグループの子供達と血で血を洗う抗争に明け暮れていました。一方で私が父の世話をしているときは本当に色んなことを助けてくれたよく気の利く女性なのです。


「でも、確か、前に来てた変な甲冑野郎って親方のところで働いてたよな」


「え、そうなんですか。」


「これでその女の子も世話になったら矯正施設みたいになるな。補助金でも出そうかな。」


なんだか親方に私の仕事の後処理を押し付けているようで申し訳ない気持ちになりました。それならいっそ私の方で、


「でも、結局さ、その娘が決めることだからな。そこんとこ勘違いするなよ。」


イムラは見透かすように私を諌めました。


「ま、とりあえず、俺が面接してやるよ。後のことはそれからだな。早く連れてこいよ。そのボインちゃん。」


この男、何か勘違いしているようです。

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