Rain

 ここはどこだろう……。

 ぼくは死んだのかな。

 だったら、あの子に会えるかも。

 って、そんなわけないか、だってぼくは……。

 ところで、この雨はどうして赤いんだろう。


 ◇


 ほんの少しの勇気があれば、あの輪に入れる。

 ぼくはそう思っていた。

 一声「入れて」と言えばいいだけ。けどできない。

 もし、嫌がられたらとか。

 もし、無視されたらとか。

 そんな事を考えてしまう自分がいた。

 要は勇気がないから。

 そのせいか、ぼくはずっとひとり、隅っこで遠巻きに楽しそうなみんなを眺めてみるばかりだ。

 うらやましい……。

 そんな風に思っていた矢先。

 1人の女の子がぼくの方へ近づく。

 女の子はぼくに手をさしのべ。

「おいで、いっしょにあそぼ」

 あの子の笑顔は天使のように輝いていた。

 それからというもの、ぼくはあの子のグループと行動を共にするようになった。

 そのグループは常にあの子中心で、あの子はリーダー的存在だった。

 あのグループの中は、とても楽しくて、居心地良い。

 つまりひとりでいるよりも、幸せと感じていた。

 何年と月日は経ち、心にある変化が起こる。

 ぼくはあの子のことが、好きになっていた。それは友人ではなく……。

 気づけば、あの子ばかりを目で追ってしまう。

 ぼくはしばらく、この思いを胸に押しこみ、何事もないように振舞う。

 だが、時間が経つにつれ、辛く苦しくなる。

 ひどい時には、息が出来ないほどにひとりで泣いていた。

 もう限界だった。

 ぼくは、あの子を呼び出し、自分の気持ちをありのまま伝える。

 だけど結果は……、ダメだった。

 まあ、そうだよね。

 頭では分かっているけど、やはり心の中は穏やかではなかった。

 あの子は、ぼくに何か言っているが、ぼくの耳には何も聞こえない。

 無反応なせいか、あの子が心配そうな目でぼくの顔を覗く。

 それが、嫌なぐらい癪に障った。

「ふざけるな」

 ぼくはあの子にゆっくりと詰め寄る。

 突然ことで、とまどい逃げようとするあの子。

 さらに追い詰める。

 瞬間、あの子は足を滑らせ、倒れると同時に頭を地面に打ちつけてしまう。

 ぼくは我に返り、頭を抱える。

 そして前のめりに倒れ、地面にひれ伏す。

「ごめんなさい」

 無駄だった。息をしていない。

 空から雨がぽたぽたと降り始める。

 水だまりが出来上がり、ぼくの姿がうっすらと映し出す。

 ああ……、そうか。

 そういえば、ぼく女の子だったんだね。

 忘れていたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る