Garden
噴水が絶えず止まることなく四方八方へと水が噴出している。
その周りには花壇があり緑の中で花が咲き乱れており、何とも美しい。
ドーム状の天井は本物の青空と勘違いするぐらいの青さ。
僕は気が付いたらここにいた。
でも、何故こんなところにいるのだろうか。分からない。
それだけじゃない、自分のことさえも思い出せない。
しかし僕は独りではなかった。
目の前に一人の女性がさっきから花を可愛がりながら楽しそうに手入れをしていた。
「あの、いいですか」
僕が話しかけると、彼女は拒むことなく受け入れるように微笑む。
単刀直入に僕はここがどこなのかと彼女に聞く。
「ここは見ての通り、庭園よ。私が作ったの」
「そうですか、とても綺麗ですね」
この言葉に嘘はない、事実だ。
「良かった。あなたを待っている間に、この庭園を造り上げたの」
綺麗だけじゃない、この庭園にいると、何だかとても落ち着く。
そして安心する。何故だろう懐かしい気持ちになっていく。
僕はこの風景を見たことあるような気がする。いや、それはないか。
でもこれは、何か思い出すきっかけになるのかも知れない。
「ところで、どうして僕のこと知っているんだい」
それに、僕を待っていたということは、彼女は僕と何かしら接点があるのだろう。
けれども、彼女は黙ったまま、時が止まったかのように静寂になる。
しばらくたった後、彼女は冷たい眼で僕を見ながら、小さく唇を開き。
「その、言葉は本当なの」
本当だこの言葉に嘘、偽りはない。
そう言いたい、だけども彼女の眼を見るたびに頭が真っ白になってしまう。
唐突に、彼女は僕の方へ近づく、ゆっくりと近づく。
近づく度に、僕の手が震えだす。
その震えは次第に全身へと伝わっていく。
彼女が僕の目と鼻の先まで来る。
狼狽している僕を目の前にして彼女は口を開く。
突然、大地が揺れた。
地面が割れ、青空にヒビが入り、崩れ始める。
まるで、彼女の心情と共有するかのように……。
「あなたは、私に付き合ってと言い、付き合った。
あなたは、私に結婚してくれと言い、結婚した。
あなたは、私に好きだって、愛してるって、言ってくれたのに。
なのに、なのに、どうして……。あなたは私を――」
彼女が滝のように涙を流し叫ぶと、すべてが一気に崩壊した。
僕は、何も出来ず、瓦礫とともに奈落へと堕ちてゆく。
この暗闇に堕ちてゆく中で僕は1つだけあることを思い出した。
そして、それは何度後悔しても、取り返しのつかないこと。
僕は、彼女を、愛する妻を殺した。
◇
父さんが亡くなって1週間。
包丁で首を切り、出血多量で死んだらしい。
母さんは、お腹を刺されてた。
でも、奇跡的に救われ今は病院の個室でずっと眠っている。
ボクはその時外出していたから、惨劇に巻き込まれずにこうして生きている。
けど、2人に何があったのか分からない。どうして、あんなに仲が良かったのに……。
家の庭には、色とりどりに咲いている綺麗な花々たち。
かつて、血まみれになる前、母が宝物ように大事していた。
事件後は、何も手につけていないはずなのに、それでも尚咲き続けている。
まるで、見えない者が手入れをしてるかのように。
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