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「さぁ……神様?」

 四恩はそれが最も蓋然性が高いように感じたので、深く頷いた。けれども、彼にはそのようには思えなかったようだ。鳥栖二郎がその場にいないかのように、東子へ怒鳴り続けている。

「私だ! お前に労働を割り当て、お前に存在理由を施してやった、この私のおかげだろうが!」

「大佐、私の存在理由が名もなき英雄たちの墓を暴くことなら、私は存在すべきではないと思います」

「そうだ! お前は存在すべきじゃあない! お前は車椅子の上で唾液を口から垂れ流していればよかった」

 彼女たちが「この」鳥栖二郎の場所を見つけ出すことができたのは、今もまだ現実を否認するために喚き続けている禿頭の「元」大佐のおかげだった。彼は東子の前の上司であり、つまり、〈地下物流〉組織の物証を挙げるために、彼女に墓掘りを命じた男だ。そして、この一連のテロルは〈地下金庫〉を巡る内戦に過ぎなかったのだから、必然、彼もまた清廉潔白な士官ではなく、〈地下物流〉組織の何らかの恩恵を受けていた者に他ならない。それも、現役の管理人をスキャンダルで失脚させようとする類の、極めて野心的な――。後はただ、テロルの終息によって行き場を失った彼が、鳥栖二郎に保護を求めるのを待つだけだった。

「博士――、あなたは、何処へ――?」

合衆国ステイツだよ」

 国内のあらゆるパトロンに反旗を翻した鳥栖二郎が最後に頼ることになるのが国外のスポンサーであることは論理的帰結だった。

「紅の国からもオファーはあった。しかし恥ずかしながら中国語の学習歴がなくてね。それで、君たちの用事はこれだけかね? このケースを私にくれるのかね?」

合衆国ステイツに。あなたの、プロジェクトの、失敗の――証として」

「プロジェクトは成功だよ。『この国に混沌を作り出すこと』。大成功じゃあないかよ。君も、ただの子どもに過ぎなかったな。ニューロコンピュータの1台のために、内務省が全てを握り、統制する機会を潰すなんて。よく覚えておきなさい――、君にまだこの世界で生きていく余地があればの話だが。この世には玉虫色の解決など、ないのだよ。あるのは犠牲者と、全てを獲得する者の二者だけなんだ」

 足元のケースを、そして3人の少女をも見ることなしに、鳥栖二郎はタラップに向かって、レッドカーペットを歩き出した。その後ろを「元」大佐が背中を丸めてついていく。海外視察へ行く主人とその使用人の趣。

「ドクター、先に行ってください」

 その先ではダークグレーのスーツを着た、サングラスの男が待っていた。彼の口から出てくる流暢な日本語と彼が白人男性であるという事実の対照に四恩は一瞬、戸惑う。素朴な人種的偏見が自分の中にあることを彼女は理解した。

「君は乗らないのかね?」

「日本で急用ができまして」

 そうかね、とだけ鳥栖は言って、飛行機の中に入った。使用人も、また。

 かくしてテロの予告を理由に封鎖された空港の滑走路へ向けて、鳥栖二郎のプライペートジェットが移動を開始した。傍目には、完全に貸し切り状態だ。彼のプロジェクトの成功を全てが祝福しているようにも見える。

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