3-2-18-1 太陽砲
最後の水の一滴が四恩の靴のつま先で跳ねた。跳ねて、弾けて、消えた。戦闘開始の、それが号砲だった。奥崎の顔からチェシャ猫の笑みが消えた。実に一瞬のことだった。だが、四恩には永遠にも等しい時間だ。彼女はもう既に、表情を廃止していたのだから。彼女は先手を取った。
床を蹴って奥崎へと肉薄する。〈還相〉による身体能力の拡張がなければ、弾丸にも見えたはずだ。
彼が現存する最強の〈高度身体拡張者〉であることを、四恩は疑ったことがなかった。彼女が次に床を踏んだのと同時に彼の側頭部へ放った上段蹴りは彼の細長い指先の動きだけで止められていた。
「僕の能力を忘れたの?」
ばっちぃっん――。
白光。奥崎の指先で生成されたその力が彼女のエナメル靴から彼女の全身へと拡がった。剣を振り下ろす間もない。蹴り上げた脚を電流によって強制的に戻される。ああう、と喉を絞られて声を出す。続いて身体が浮き上がり、回転して地面へ叩きつけられる。うっ、と肋骨への圧迫のために声を漏らす。そのまま体勢を立て直すまで回転し、彼から距離を取る。
「僕を倒す方法はただ一つしかない。飽和攻撃だ。
「それだけ?」
奥崎の瞼の痙攣を四恩は見た。
「それだけ、なんだ――」
四恩の微笑を奥崎は見ただろうか。
彼と彼女の戦闘の大部分は、この白亜の塔の内部ではなく、外部でこそ行われていた。彼と彼女は既に十全に〈高度身体拡張者〉としての能力を行使しており、今こうして互いに直接に為しうることは「それだけ」に限られていた。
奥崎の能力を四恩が忘れたことなどなかった。彼は最強だ。けれども、また、彼女は
そして結論した。
奥崎謙一の天敵はこのわたし――〈
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