3-2-16-2
視界の第二層に地図が表示された。四角い枠の中に幾つもの円が収まっている。〈活躍の園〉の地図を三縁が編集したものだろう。建築物の外周はライトグリーンだ。ちょうど真ん中に、小さな長方形がある。ライトブルーの明滅する円を囲んでいる。それが四恩で、これが彼女の今いる建物だ。そして、そのライトブルーは地図の右斜め上あたりにあるドクロのマークと点線で繋がっていた。
まるでゲームだなと、四恩は思った。
〈ゲーミフィケーションだよ。人生はゲームであるべきだから〉
〈人生はゲームであるべきだから、とは〉
紙のように折りたたまれた地図は紫の光を放って虚空に消えた。ライトブルーの点線が四恩の爪先から生じて、建物の外にまで伸びていく。
その線こそ、最も信頼できる者が置いたパンくずだ。四恩はただ、辿っていくだけでいい。途中、ドクロのマークで途切れてはいるが、そんなものは打ち払い、薙ぎ払うだけだ。この光がある間は、どんな深淵に入っても心配ない。
〈奥崎謙一。《高度身体拡張者》。能力は磁気の操作〉
建物の前の道路は正門を目指す人々が充満している。彼らは皆一様に血に塗れている。生気を失っている。ホモ・サケルの様相。個性といえば、歩き方だけだ。負傷の程度だけが、彼らの差異だ。
葬列にも似た人間の河の岸辺を、四恩は歩いていく。彼らは戦闘を停止し、〈活躍の園〉の外で拘束されることを望むほどに賢かった。こんな場所を平然と歩いている少女とは、コミュニケーションを取ってはならないことも理解できていた。
〈まさにシンプル・イズ・ベスト。能力の影響範囲は広く、汎用性は高い。イラク、レバノン、シリア。低強度紛争のある場所には何処であれ派遣され、兵士を救った。信奉者はすぐに増えた〉
フロートウインドウが静止画像を次から次へと切り替えながら表示する。砂漠を背景にしたストップモーション・アニメにも見える。実際、ほぼ全ての写真の背景が果てのない砂漠だ。写っているのは少年と数人の兵士たち。兵士たちの顔ぶれは画像ごとに変わるが、少年だけは変わらない。奥崎謙一の柔和な笑顔だけは変わらない。
〈キャリアの最後にはアレッポをたった1人で非戦闘地域にしている。まさに最強の《高度身体拡張者》だね〉
「でも、『わたしたち』の、敵じゃあ、ない――」
〈四宮さん、三縁ちゃんさん、お待たせいたしました〉
四宮さん! 三縁ちゃんさん! お待たせいたしました! お待たせ! いたし! ました!
骨伝導と空気の振動が同時に訪れて、四恩の鼓膜を揺さぶる。
権力欲に取り憑かれたナナフシ型ロボット、武野無方の法外な大きさの声だった。
そして疲れ果てた人々を掻き分けながら、都市ゲリラ戦のために開発された多脚戦車が四恩を先頭にして列を成した。
〈予算が審議を通りました。昨日付で、内務省特別査察局は総理直属の部隊を持つことになります〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます