3-2-16-1 相互浸透のシステムとしての愛
拡がった死体の数多は紅の絨毯だ。生者がその上を忙しなく行き交う。全くの文字通りに。死んでいるとは、生者の餌食になることだ。
貫頭衣をのみ着た痩身の男が銃弾で砕かれた両足の断面を手で隠そうとしている。彼の心臓が彼を裏切る。血飛沫が彼の震える手を押し返す。
同じ服装の女が血を吐きながら四つん這いになって歩いている。自分の吐血の量に慄きながら進む彼女には、腹部から臓器が漏れ出ていることに気づいていない。
彼女の前に立ちふさがった男は全身が赤と黒の混色に染められている。彼の皮膚が燃え上がって何処かへと消えたからだ。皮下組織が露出しているからだ。彼の手では、彼の溶けた皮膚と彼の溶けた拳銃が混ざり合い、もう離れない。男はまるで慈悲深き裁定者のように、ゆっくりと、腹の中身を地面に残しながら進む女の後頭部に向けて発砲し、続いて自分の頭の中に向けて発砲した。
ここは〈活躍の園〉。自由主義経済が夢見た複合福祉施設。あるいは社会保障制度改革の夢の成れの果て。しかし今では、1つの戦場そのもの。どれだけの命を食べても飲んでも満ち足りることのない、死の巨獣の胃袋。
正門を入ってすぐの場所にある受付用の建物の内部も、例外ではありえない。中では頭や腹を潰された警備兵の遺体が積み重ねられた。その山は、彼らからタクティカルベストと自動小銃を奪い取った者たちの労働の成果物だ。
建物内、来訪者対応をするための小窓から、少女が外を見ている。陶器のように白い顔に禅僧を思わせる半眼。棒のように華奢な体躯の彼女は 上から下まで黒に統一した服を着ていた。
黒いシャツ、黒いスーツの上着、黒いネクタイ。短いスカートも黒く、ニーハイソックスから靴まで黒光りしている有様。まるで白に対する強迫観念でもあるかのような趣。
〈もうそろそろだよ〉
彼女の体内に設置された骨伝導方式の無線通信機が、少年とも少女ともつかない声を響かせた。同時、その純粋なクリスタル・ボイスが彼女から疲労と予期不安を取り除いていくような感覚が訪れる。
いや――ような――では、なく――三縁の声には確かにそういう効果があると、四恩は思った。
〈ありがと――〉
〈どうしたの、急に〉
ところで、彼女の声は彼に不安を喚起したようだった。
〈わたしは、常に、そう、思ってる――。わたしの、素敵な、共犯者に――〉
〈Verweile doch, du bist so schoen! 〉
ふぇあゔぁいれどほ、どぅびすとぞーしぇん!
恐らく独逸語であろうということは四恩にもわかった。ただ、それだけだった。もしかするとドゥーは「君」とか「お前」だったかも知れない。ただ、ごめんなさい、ぼくとしたことが大きな声を……と今度はあまりにも小さな声で呟いた三縁に和訳を頼む気にはなれなかった。
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