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〈活躍の園〉の境界を踏み越える。外から、内へ。後ろに、安堵した者たちの深い吐息を聞きながら。ほぼ、溜息。
まずは1台目。正面衝突。少女がトラックに轢き殺されるのではなく、正面、衝突。カムパネルラの小さな手がトラックの車体に触れた同時にその内燃機関は停止した。運転手が彼女に向かって何事か叫んでいる。まだ現実否認して故障を疑っている彼に、彼女は現実を教えなくてはならない。
カムパネルラの両手足が膨れ上がる。化石燃料を爆発させて作り出したエネルギーを吸収したがために。膨張が止まったのは、実に彼女の手足が1本の長い触手にまで整形された時だった。
そして膨張の終わりが殺戮の始まりだった。その中程にサンダルを恭しく飲み込んだ2本の長い触手とさらに2本の長い触手とが4本の長い槍と化して、彼女の鼻先で停車するトラックの運転席に殺到した。4トントラックを150km/hで動かすためのエネルギーは、防弾の窓ガラスを突き破ったのみならず、車内で蛇のように荒れ狂い、ついにトラックそれ自体を12の金属の塊に切断した。
細切れになった運転手の身体がその塊を紅に染めあげたのもつかの間、空を舞う金属の塊が火花を散らす。火花と漏れ出た石油の化学的結婚が炎を産む。
「『下部へ、下部へ』」
槍が触手へ戻り、触手が少女の手足へと戻る。セーラーワンピースにはやはり、この形状の肉の方がよく似合っていると、カムパネルラは思った。
「『根へ、根へ』」
炎の舌が彼女の周囲を舐め回していた。その中で、彼女は汗一つかかず、立っていた。その代わりに、彼女の頭部全体が、燃焼熱のエネルギーを吸収し、蓄積し、波打っていた。
「『花咲かぬ処へ、暗黒の満ちる所へ』」
無数のトラックが彼女の能力の行使に依らずして、エンジンの駆動を止めた。運転手たちの青ざめた顔を見る。彼らがこれ以上の燃料と命とを彼女に与えまいと、自発的にエンジンを切ったのだ。
必ずしも彼女の望まぬ展開。
もっと私を攻撃しろ、とカムパネルラは思った。もっと私を追い詰めろ、とも思った。そして、もっと、四宮四恩を攻撃するためのエネルギーを私のために浪費すべきだ、と思った。
〈これはどういう能力だ?〉
男の、震えるような声が聞こえた。三島三縁が敵の無線通信を傍受し、彼女に共有している。
〈さぁ……〉
対照的な声。三島三縁とはまた違った、透明度の高さ。少女とも少年ともつかない。
〈専門家だろう、お前は!〉
〈いや、僕はただの、高度身体拡張者だ。ただの、一つの、戦争機械だ〉
これが奥崎謙一の声……。
カムパネルラは何となく、四宮四恩がどういう類の人間を好むのかをわかりかけたが、あまりにも下世話な想像であり、四宮四恩への裏切りのように感じたので途中で考えるのを止めた。
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