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「具体的には? 彼女なら?」

 男の1人が鳥栖のすぐ前にまで出て、人差し指で宙を撫でる。半透明のスクリーンが2人を分かつようにして、天井から降りてくる。スクリーンには少女の顔が映し出されている。

 口を歪めるような、虚無的な笑みを浮かべた少女。火の点いた葉巻を咥えている。しかしよく見ると、八重歯が露出しているのがわかる。それに、その日本人形のような、線の細い顔。精一杯悪ぶって見せている。そんな風にしか、見えなくなる。

 東堂東子――全身機械の、生きながら朽ちていく少女。

「手足を切断しなさい」

 鳥栖が嬉々として殺し方の詳細を話している。

「脳と最低限の生命維持機構だけは残し、電力が無くなるまで放置したまえ」

「では彼女は?」

 スマートレティーナが男達が踏み締める床一面に新しいスクリーンを展開する。別の少女の全身像が投影される。ヒューッと誰かの口笛。彼等は靴底の汚れを彼女に押し付ける。でけぇオッパイ! エフはあるか? と誰かが言ったのを奥崎は聞く。

 壁に背を預けた少女が無数の足に踏み潰されながら微笑している。撮影されることに慣れている、完璧に表情を操作できる、そんな自信の表明として。けれども、よく見ると、その足は撮影者またはレンズに向かって縦に並んでいる。それにまた、その両腕は自分を抱いている。

 石嶺磐音――生物工学が忘却したがっている、失敗の歴史そのものとしての少女。

「髪にたっぷりと油を染み込ませるか、ガソリンを全身にかけて火だるまにするんだ。生きたまま、焼きなさい。丸焼きだ」

 火つけると変な踊りするから面白いんスよ、人間て――と誰かが鳥栖に教えている。それは結構なことだね! 鳥栖がかつて聞いたことのない声量で応じた。

「この女の子はどうしようか?」

 東堂東子の画像が細かなタイルに分解され、剥がれ落ちていくアニメーション――終わると、3人目の少女が姿を見せた。

 床に科学史年表と日本史年表と世界史年表と美術史年表を広げて、それを食い入るように読んでいる少女。積み重ねられた本と天井近くに小さな窓があるだけの、埃っぽい部屋の中心で。自分の毛先を触っている。靴下は片方履いていない。童女の趣。だがその目は、灰色のその目は見開かれている。一種の宗教的情熱をさえ感じさせる。

〈137〉が廃棄処分した高度身体拡張者の少女――名前すら不明――恐らくは全くの規格外の戦力――彼ですら多少の警戒が必要なほどの――。

「バスタブに閉じ込められないかな? 上から重しか何か載せて。そのまま餓死するまで放置だ」

 じゃあ彼女も手足を切断することにしましょう、と誰かが提案する。鳥栖がそこのところは君たちの自由さ、と穏やかに言う。

 足元のスクリーンで湧水のアニメーションが始まった。水滴が、石嶺磐音の全身をモザイクの向こうに追放した。

 全ての黒い霧が晴れた時、そこには石嶺磐音ではなく四宮四恩がいた。

 四宮四恩、四宮四恩、四宮四恩――!

「で、この子が本命なんでしょう? この子はどうしますか。とても良い声で鳴きそうだけれども」

「良い声で鳴きそうというのは、どういう意味かね? 興味があるな」

「女って、打つと結構、声が低くなるんです。それで萎えちゃって、すぐに殺しちゃうんですけど、でもこの彼女、この女の子はそうでもなさそうだなって」

「なるほどね。奥崎くん、どうだろう彼の意見は?」

 全員の視線が自分に集中したのを奥崎は理解した。理解しつつ、無視した。4人目の少女、四宮四恩の画像から目を離すことができなかった。自分の像を結ぶように集光しているレンズへ、手を伸ばしている彼女。それは彼女を見る者へ、奥崎へ、手を伸ばしているようにも見える。デジャ・ヴュが訪れる。

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