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 彼らに辿り着くことができたのは、今や「連続」テロが全国「同時多発」テロになったという、その事態のためだった。それはテロの「連続性」を担保していたものが無くなって、「同時多発」テロと化したことを意味している。それは奥崎謙一が、全国の同志への〈還相抑制剤〉の供給を、一挙に停止したことを意味している。

 そして、それは――奥崎謙一が初期の目的を達成し、別の目的を持つようになったことを意味している。

「アレッポから〈地下物流〉で帰国した奥崎謙一が国内で活動するためには、2つの条件が満たされていなければなりませんでした。1つが〈還相抑制剤〉の安定供給です。これは〈三博士〉の1人、鳥栖次郎が解決しました」

 そうだ――と、岩井悦郎が後を引き継ぐ。

〈とはいえ、《還相抑制剤》の供給は副次的なものに過ぎない。彼はこの国に実装されているセキュリティ・システムの事実上の構築者だ。彼が奥崎に与えたのは、この国の中で自由に移動する力と自由に移動させる力だ。ところで、彼がそんなことをしているのは何故だと思う?〉

 今ここに至るまでの思考の過程を思考する過程が突然に休止し、窓の外を流れる風景の色彩の豊かさを直に味わう。質問の意味がわからなかった。質問に対する答えがわからなかった。

〈通信を切ろうか?〉

〈待って――〉

〈敵を過小評価してはいけないよ。大丈夫だね?〉

〈ん――〉

「さあ――。動機は重要ではありません。少なくとも、私に、我々にとっては。動機は――行為の後で遡及的に構成されるものです」

 お前がニーチェ主義者だったとは……と岩井悦郎は笑いながら言う。

〈しかし、私が言っているのは動機ではないのだよ、四宮。動機では、ない。理由、だ。お前は理由がわかっていない。だからお前は力を欠いている。だからお前は敗北する〉

「全てを理解しなければ行為できないのならば、トマトは今も観葉植物ですよ」

〈我々は皆、因果関係の奴隷なのだ。理由がわからなければ、同じことを繰り返し、敗北し続ける〉

「仕事の話をしませんか?」

 言って、息を呑む。息を呑んだことに気づき、口腔が乾く。

? 私は別にお前と会話を楽しむために無線通信を行っているわけではない。これは交渉だ。さて、それで、奥崎謙一が国内で活動するためのもう1つの条件とは何だ?〉

 言い淀むことなく話さなくてはならない――。強い規範意識が心理的重荷そのものと化して、四恩の歯と歯、唇と唇を貼り合わせる。

〈慈悲深い私が答えを先に言ってやろう。奥崎謙一が国内で活動するためのもう1つの条件とは、金、資本の安定供給だ。それも、膨大な、莫大な。彼はそれを、殺しを請け負うことで調達してきた。まずは反粛軍派から請け負い、次に〈地下物流〉組織から請け負い、そして我々137から請け負った。もう理解できたな? 今や、奥崎は、我々が飼っているんだ。今や、粛軍派も、反粛軍派も、〈地下物流〉組織も、いや、それどころか内閣も、我々が飼っているんだ。お前の冒険はここで終わり。お前の負けだ、。直ちに車を止め、森山を引き渡せ。そうすれば――〉

「切りなさい、三縁」と東子。アクセルペダルを踏み抜きつつ。

〈ぼくもそれが良いと思うな。どうも、負けを認められるほどには彼は聡明ではなさそうだ。四恩ちゃん、どう?〉と三縁。

 粛軍派の虐殺によって反粛軍派に自分の価値を証明した奥崎は、次に反粛軍派を虐殺することによって、〈地下物流〉組織に自分の価値を証明した。反粛軍派の軍人達が彼を飼い馴らすことができると信じたように、〈地下物流〉組織もまた、彼を飼い馴らすことができると信じた。だが、それが誤り。完全に、完璧に――。

 奥崎には、彼らに飼われるつもりはなかったのだろう。彼はこの長過ぎる戦争が〈地下物流〉を通して蓄積した富に手を伸ばそうとしていたのだろう。動機は――わからない。ともかく、それは半分、成功した――。その富を〈137〉と分け合うという形で――。

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