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「思い出せ。お前はどうやって『我が真実に入門した』?」
金を密輸して消費税の還付を受けるという商売から中央銀行そのものへと発展した〈地下物流〉は、もはや彼だけに管理できるものではなくなった。それは、彼の不幸であったかも知れなかった。彼は巨大なものの一部になることを強いられた。そうでなければ、彼こそが軍法会議に送られるしかなかったのだから。
かくして創業者であるはずの彼は、幾人かいる〈管理人〉の内の1人になった。そして、彼以外の〈管理人〉は尽く死んでいた。いずれも、「無差別」であるはずのテロの、膨大な数の死者の1人として。だから、どのみち、彼に辿り着くには消去法しかなかった。
その給料では買えるはずもない高級車に乗っていた男は渋谷でのテロ攻撃で死亡した。
〈亀山亀夫さんね〉
亀山さんは――「たまたま」子どもを連れて道玄坂を歩いていた。彼は子どもを渋谷駅ハチ公口で待たせて、まだ非合法の喫煙所を用意している喫茶店に入った。
彼が2本目の煙草に火を点けた時に、店内が騒がしくなった。彼は血塗れの者たちが店内に駆け込み、シャッターを下ろせと喚く中、子どもを外で待たせていることを後悔しながら、急いで外へ出た。そして、その後悔は完全に正しいものであることが、彼の足元に彼の子どもの頭部が転がってきたことによって明らかになると同時、あるいは、その子どもの頭部が誰か他人の子どもの頭部であるはずだと現実を否認したと同時、今度は彼の頭が潰れることになった。
一撃だった。即死だった。
今や彼の身体そのものより大きくなっていた、身体拡張者の拳が彼を真上から押し潰したのだった。彼の頭部は、彼の胸の中へ、肺を押しのけて潜り込んだ。その遺体は現代アートと化した。題名は――内乱の予感、でどうだろう。
〈でも、そうするとダリの有名な作品と被っちゃう〉
不幸中の幸いは――そうなる前に、首の骨が折れて即死していたことだ。
そう――幸いだ。不幸中の、幸い――。もう1人は――。
〈落合越智夫さん〉
落合さんは――渋谷でのテロ攻撃が収束した後に、全身をフォークとスプーンで滅多刺しにされて死んだのだから。
フォークと、スプーン――。
〈管理人〉の1人である亀山さんが自分の子どもの頭部と自分の頭部とを、その身体の内部に潜り込ませながら死んだという情報を得た彼は、森山さんと短い電話をした後、都内を出た。何処かにセーフハウスの充てがあったのだろう。
何の興味もない――。
そして、そこで〈地下物流〉管理人としての貯蓄を回収し、何処か遠くへ行くつもりだったのだろう。
何の、興味も、ない――。
だが、それが失敗だった。彼は直ちに行けるところまで行くべきだったのだ。彼が逃亡者としては些か贅沢に思われる朝食を、長野県は軽井沢で摂ろうとした、まさにその時、あるいは朝食を摂るためにまずはお茶で喉を潤そうとした、まさにその時、彼の喉にフォークが突き立てられた。「珈琲はいかがですか」と言いながら近づいてきたホテルの給仕が、「貰うよ」と言いながら顔を上げた落合さんの喉にフォークを刺したのだった。
戦場で喉を晒すことは危険だと、授業で教わらなかった――?
三縁が手に入れた映像には、その後の顛末も記録されていた。
まるで人間をフォークで刺すために生まれてきたかのような執念深さで、給仕は何度も何度も彼の身体を刺突した。
乱れた音声――「死ね! 売国奴! くたばれ! 金貨のために戦友の魂を」――以下、落合さんの悲鳴があまりにも大きいため、四恩の拡張されている聴覚でも聞き取れず。
にゃああんにゃあああんあああにゃああああああああああああ――。
給仕の彼が折れたフォークに変わって、テーブルに置いてあったスプーンを手に取る。落合さんの胸の肉を抉り取り始める。落合さんの悲鳴が、ようやく途切れる。
「四恩さん、〈活躍の園〉の何処に財宝があるのか詳しく聞きたいのだけど、もう少し手荒なことをしてもよろしいでしょうか?」
「歯を取るのが良いと思うわ。1、2本で私達の欲しい情報を全部吐くでしょ」
東子が、「岩井悦郎――Sound Only」の文字列を見つめる四恩に代わって、そう言った。
答えになってない――。
「歯は嫌です。そうすると、わたくし、殿方の口の中に1日で2回も手を入れたことになりますわ」
「なら、爪か指にしましょ」
「四恩さん、森山さんの爪を剥いでもよろしいですか?」
もう質問の内容そのものが変わってしまっていたが、四恩は「よろしく候――」と言っておいた。
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