3-2-2-4
〈綺麗?〉
「それに、安心する――ぐっすり眠っている――」
(エズミ、本当の眠気を覚える人間はだね、いいか、元のような、あらゆる機___あらゆるキーノーウがだ、無傷のままの人間に戻る可能性を必ず持っているからね)
〈ああ……夢を見ているからね……。部屋に女の子を呼び出したり、国立公園でデートしたりね……。それで、四恩ちゃん、どうしたの? ぼくに用があるんでしょう〉
強化硝子に手を触れながら、ゆっくりと三縁の身体の背中側に回っていく。釜石とカムパネルラがさらに部屋の奥へと進んでいくのを見る。「君がどこからどうやって本を入手しているのか、興味があるね」釜石が猫背になってカムパネルラに尋ねている。彼女の返事はもう聞こえない。
「手紙をくれたから――」
〈差出人を書いた覚えはないけれど〉
「あれは――三縁しか用意でき、ない」
〈誰の口座かわかった?〉
「わたしの――お母さん――」
〈うん。正解〉
「何の意味があって……」
〈うーん、そうだなあ、罪滅ぼしとか……まぁ自己満足なんだけども……。君が死亡保険受取人になっている契約書もあったよ〉
「そうじゃ、なくて――」
意味がないとわかっているのに、三縁の顔を見てしまう。皮膚を剥がされた顔を。唇の周りの筋肉を、特に。もしかすると動くことだって、あるかも――。この四宮四恩と話しているのだから――。動く、べき。
〈お母さんが君のことを考えてるよって、教えたくて〉
「なにそれ――」
〈望まれて生まれた子どもなんだよって、教えたくて〉
「捨てられた、のだけど――」
〈でも望まれて生まれた子どもなんだよ。それは変わらないよ。誰もまだ乳幼児の君の首を捻らなかったでしょう。ぼくは捻られたからね〉
やはり三縁の顔面の筋肉は動くことなく。それよりもむしろ、彼の喉を切り開いて挿入されたパイプの束が、その中を走る気泡のために動いた。
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