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 そのことについては、彼ら五人と四恩は合意を結んでいた。彼女との距離が最も近かった男は、その鼓膜が少女の声で震えると同時に、呟く――。

「『嵐をもたらすものは、もっとも静寂な言葉だ』」

 呟きながら、踏み込む。さらに四恩との距離を詰める。かくして、彼は5人の兵士からなる一匹の獣の頭脳となる。直ちに、残りの4人が彼女へと殺到する。

 正面の男、ゆるキャラの描かれたエプロンを翻す。横回転――なんて模範的なソバット、と四恩は思う。隙だらけで、無防備な――。彼女は彼女の腹を目掛けて飛んでくる彼の右足の靴の裏をすら、見た。

 回避――。彼の伸び切った脚を支えにして、四恩もまた横回転。さらに、横回転。彼の眼前、すぐ目の前に、背を向けて立つ。獲物が自ら懐に飛び込んできた奇跡に喜んだ彼の顔に、裏拳を叩き込む。

 感覚器官の集中した顔面への攻撃は、彼の両手を彼の顔に貼りつかせる。四恩は暫しの間、背中の安全を確保する。

 両手を顎の前へ。戦闘態勢。

 蝶ネクタイの男、腰のベルトから鋼鉄の棒を引き抜く。振り回す。棒から棒が飛び出る。一本の電磁警棒になる。彼は四恩へと無造作にそれを突き出す。

 四恩、電磁警棒の先端と鼻先が接触する――その前に、蝶ネクタイの男の手を取る。捻る。電磁警棒の先端と彼の腹とが接触する――ぐええぇぇという声を聞く。彼が胃液の飛沫を飛ばすのを見る。

 見る――肉眼で、見た。それが、彼女の最初の失敗。その一瞬の隙を突き、さらにもう2本の電磁警棒が殺到。

 しゃがむ。片手の一本で身体を支える。そのまま電磁警棒を突き出してきた2人へ足払い。倒れる2人。まだ、まだ。もう1人いる。

 彼もまた電磁警棒を持っている。その贅沢な使い方ときたら――! クラブでボールを打つようにして、大ぶりのスイング。

 だが四恩を追い詰めるためなら、その判断は――正解。前後を挟まれた彼女は、上にしか逃げるための空間を持たない。

 跳躍。ゆるキャラの描かれたエプロンの男の頭上で姿勢を変える。脚からの着地。彼の背中を見ながら、直ちに次の動作へ移行――する前に、四恩はゆるキャラの顔をこそ見ている。

――?

 その惚けた顔の上には、四恩を見下ろしている男の顔がある。

 顔には笑み。笑みの意味は――今度こそは模範的なソバットを四恩に打ち込めるという確信。

 避けないと――という四恩の意識とは裏腹に、肉体は既に最善の選択を実行している――胸の前で腕を交差。ガード。骨の軋むを聞きながら、彼の靴底が胸に到達するのを防ぐ。それでも衝撃は相殺しようがなかった。彼女の片足はまだ地面を踏んでいなかった。

 背中から床へ叩きつけられる。

 小さく一回、バウンド。

 うつ伏せの格好になる。床を削り取るようにして、滑る。

 その最中に床を平手で打つ。仰向けに身体を戻す。ネックスプリングの要領で跳ね起きる。

 跳ね起きて――そのまま前蹴り。ゆるキャラエプロンの男の脇腹へ。エナメル靴の固い爪先が突き刺さり、彼の顔は四恩の胸を踏む潰す機会に恵まれた喜びから一転、苦痛に歪む。彼はたたらを踏みながら後退。

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