2-2-5-10
勝負は一瞬、結果は永遠――。
白い光の反射だけがその存在を示している、細い、細い光の糸が三縁の鋼鉄の身体を絡め取っていた。
そのために、その激しい給弾と装弾と発射の予備動作は何も結果することがなかった。それどころか、その巨大な鋼鉄の身体は浮かび上がってホールの真ん中を漂い始めていた。四恩は、床と天井と壁とから迸る電気の流れを見た。そして、三縁の呟きを無線通信越しに聞いた。
〈まずいまずい〉
どう聞いても焦っているようには聞こえなかったが、あるいはそれは身体のない子どもらしい反応なのかも知れなかった。彼の身体はその内部で機械が火と煙とを吹き上げるに及んで、ついに床に叩きつけられて、機能を完全に停止したのだった。
最新式の兵器がただの鋼鉄の塊、もしくはそれ以下の物になり果てて、床を転がる。そんな事態を瞬きの間に実現した最新式の兵士は、もう獲物への興味を完全に喪失している――。
今一度、奥崎は腕を動かす。それは、四恩に手を差し出すための動作ではない。彼は小さく、彼女に向かって手を振る。
四恩は何をしていいのかわからない。
だから立ち尽くす。
黙って、見送る。
捕まえて――不可能、不可能。
弔い合戦――しかし、何故、わたしが水青や結乃の弔い合戦をする必要が?
組織において積み上げてきた全てを賭けて、組織の外に出てきた。が、何を実現した? 何も、何も。何一つ――。
奥崎と一緒に安住の地を目指す旅も、奥崎を捕まえて組織での地位を回復する旅も、四恩には重荷に過ぎた。
だが、何もしないことはできない。何もしないをすることになる――。
四恩は刑法理論上に不作為犯という概念のあることを知っていた。
それで、三縁が撒き散らした瓦礫の下から、5人の男が這い出て来ているということを、彼らが彼女の全身を舐めるように見ながら接近しつつあるということを、彼女を半ば嬲り殺しにした後で奥崎の下へと連れて行こうとしているということを、知ることができた。四宮四恩――何も選ばないことを選んだ罪で死刑。
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