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「戦争を外交の延長であると定義したクラウゼヴィッツは、しかし職業軍人らしく、戦争の秘められたる力を見逃しはしなかった。戦争はなるほど敵に自分を承認させるための手段ではあるが、と同時に、その勝利のためには、どちらかが絶滅されるまで続けることができるという態度、体制が要請される。でなければ、敵に、戦争に対するコミットメントの程度の低さを見透かされ、敗北しかねないからだ。つまり戦争は……現実的には国民経済の規模や外交目的によって制限されるが、理念的には彼我のいずれかの絶滅を目指す」
存在しない聴衆に向けて話し続けていた少年が一呼吸、置いた。四恩は彼の視線を辿り、ホールの階段を降りて舞台に向かって歩いてくる3人の男の姿を認めた。衣服はもうすっかり血に塗れて紅に染め上がっている。手に無造作にぶら下げたM16自動小銃だけが、紅を拒絶して黒光りしていた。四恩はその銃の異名が「ブラックライフル」であることを思い出した。
「カール・シュミットは『パルチザンの理論』でレーニンや毛沢東といった共産主義者たちが、『現実の敵』と戦うパルチザンから土地的性格を切り離し、ついに戦場で『絶対の敵』を見出したと言ったが、それはクラウゼヴィッツの警告の実現の兆候でもあった。そう、それはまだ兆候に過ぎなかった。けれども――」
「この女の子を殺せばいいわけ?」
ついに最前列の段にまで降りた男たちの1人が声を上げた。彼は何処かの地方自治体のマスコットキャラクターのプリントされたエプロンをしていた。近所のアンテナショップでの職務を放棄して、ここに来たらしい。
「いや、殺さないで。『ONLY ALIVE』だよ。それに、君たちでは殺せない」奥崎が彼に微笑しつつ答える。
「3人がかりでもかよ?」
言って、痰を吐いた男は黒いベストに蝶ネクタイをしていた。何処かのホテルで給仕をしていたのかも知れない。
「うん。君たちの装備では、殺す前に殺されてしまう。身体拡張者の死に際を見たことがあるはずだ」
男たち、自動小銃の安全装置を掛ける。銃身の側を持つ。その場でバットのように素振り。てんでバラバラな見た目の彼らの見事な協調行動。兵役経験者の面影。
「じゃあ、ハンデが足りないってことになりませんかね?」
背広にスーツ姿の男が手を上げて質問。その眼鏡のレンズは血に覆われていて、彼の目を見ることができない。
「そんなことはない。馬鹿で打算的な組織の利害のせいで、彼女は大量の〈還相抑制剤〉を投与されている。楽しめるはずだよ、君たちも、彼女も――。でももう少し、口説かせてくれないか? 僕の失われた青春に免じて」
「構いませんよ。まだ来てないのがいますし」
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