2-2-2-3
光が文字通り光の速さで消え失せると、廊下に今一度薄暗さが戻った。その貧弱な照明の下、微粒子が舞い踊っている。四恩はその演舞中に、ビルから出ていこうと考える。階段を降りていくために、最初の一段目へと脚を降ろす。
「光を操作する能力なんですか? それとも……電磁波一般?」
殺傷能力のあるスタングレネードが炸裂した後でも、磐音の声は穏やかそのものだった。
「わたくしを傷つけるには……太陽炉とかどうでしょう。ほら、虫眼鏡で物を焼くみたいな……」
夕食のメニューを提案するような調子で、自分への攻撃方法を提案してくる少女の声を聞きながら、四恩は階段を倒立前転で素早く降りることにした。その過程で、彼女は巨大な爪の一振りが、水平に宙を薙ぎ払うのを見た。彼女の判断は正しかった。
踊り場に立つ四恩を、磐音は微笑したまま見下ろしている。
磐音の顔面、その敗れたスーツから露出する体表面には針のようにも見える剛毛が生え揃っていた――まるで高度身体拡張者のごとき、生成変化。軽くウェーブした長い髪の間からは、尖った耳が飛び出している。長い脚越しに、尻尾が揺れているのさえ、四恩は見た。
そしてさらに、間髪を入れずに、磐音の小さな顔の輪郭と剛毛のコントラストとを、すぐ目の前にしたのだった。磐音は一蹴りで四恩との距離を詰めていた。彼女は小さな口を開いたまま、四恩に飛びかかった。
小さな口の内部を見ることができのも、刹那のことだった。それでも、そこを満たす牙の無数は、はっきりとわかった。
四恩は、後頭部だけはどうにか守りつつ、しかし床に背中を打ち付けた。肺への圧迫感から自分でも信じられないほど低い声で「ぐっ」と呻く。その後で、彼女は自分の首の皮、脂肪、筋肉、血管を破壊する牙の冷たさを理解した。
百獣の王が獲物を狩る時にそうするように、磐音は四恩の首に牙を立てていた。
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