2-2-1-3
「誰も興味がないってことね」
〈うん、そう。誰も興味がない。それよりも重要なニュースが幾らでもあるからね。女優が不倫したとかさ――〉
東子の乾いた笑いの後で言った。
〈武野さんは何を追ってたの? あの人、反粛軍派の陰謀を確信しているようには思えないけど〉
〈我らの四恩ちゃんが奥崎謙一くんの存在を確信するようには確信していないだろうね。彼の目的は、本当に単に軍にちょっかいを出すことだけだもの。とはいえ、一定の捜査上の仮説のようなものは、あった。御厨さんや四恩ちゃん、東子が動き出すどうかは純粋に偶発的なものだからね。彼はその仮説に基づいて選択した数名の被害者の共通項を洗い出すことで、《次の事件》に先回りしようとしていた〉
〈先回りはできたの、彼?〉
〈できてたら《137》でナンパしたりしないと思うよ〉
「数名の被害者」の「共通項」は、しかし洗い出すことのできる性質のものだろうか。粛軍派/反粛軍派の区別はどの程度、普遍的なものだろうか。その区別の統一は、結局のところ、軍内部に不満分子を焚き付けようという武野無方という役人の、政治力学の方程式が充満した彼の、頭の中にあるだけなのでは――。
〈それなら、私達は?〉
「引き続き、加害者――謙一くん、奥崎くん、奥崎謙一、を――追う」
本当に長い間、口に出すことのなかった彼の名を出すために、彼女の口は過剰に動いた。言葉のインフレーションが必要だった。
〈ぼくたちの捜査方針に変更はないということだね〉
〈私は、キャリアも含めて大幅な変更だけど〉
方針に、変わりはない。いや、変えることはできない。もう、それしか――ない。死んでいるように見えるが生きている者を捕まえる――。
国内テロ事件の無味乾燥なデータを表示したスクリーンが雲散霧消するアニメーションの後で、四恩は奥崎謙一の顔を久しぶりに見た。
背景を透過するようにして、視界の中央に表示された、少年の顔は最後に四恩が見た時のままの姿をしていた。
短い髪の1点だけが、僅か彼のジェンダーを表象しているであろう、全て。その他は、奇跡的にも、あるいは幻惑的にも、男/女の区別の統一を脱構築している。
軍のIDにも使われているはずの写真だが、それは1枚のポートレートのようにも見える。
この写真は、全身のヘルスケアデータを登録するために全身の立体撮影を行った、その結果として出力されるものである。四恩にも、その撮影風景には覚えがある。彼女が入ったのは、無数の小型のカメラが壁六面全体に備え付けられた小部屋だった。彼女はそこで、自分の光感覚能力でもって、観察を観察し、それゆえ顔を引きつらせた。だが、この奥崎謙一には顔の引きつりなんか――ない。
無数のカメラの先、観察の観察の観察の……その無限後退の先、ラスト・オーダーの観察者を見ようとするかのような――。あるいは――見ている……?
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