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次いで、残りの2人がその場にしゃがみ込む。
四恩が振り返った時には、彼等はもう自分の喉笛に銃口を向けている。肉の焼ける、小さな音。それから、銃声。
2人の男がそれぞれ崩れ落ちる頃には、残りの1人は眼窩における人差し指の回転で、眼球を殆ど液体にまで近づけている。
頬を流れていく、潰れた目と、血と、涙――?
もう、確認する術はない。彼が指を抜き取ると同時、失われた眼球を補償すべく、顔面の表皮の猛烈な膨張と炸裂と再生が始まったのだから。
〈デバイス利用者の近距離で、身体拡張者の《バーストゾーン》への移行を確認。このデバイスは警察機関への緊急通報を実行しました。装着者は直ちに避難してください〉
スマートレティーナが電子音声で告げる。その冷淡さに、四恩は冷静さを取り戻す。
〈悠長な緊急通報だなぁ〉と、三縁。
表皮の破壊と再生のプロセスは潰れた眼球を回復すべく、そして何よりも二度と視覚情報を失うことのないように、彼の顔面に無数の眼球を作り出していた。
〈還相〉は頭蓋骨のレベルで、肉体組織の再構築を実行したのだ。
まさに〈バーストゾーン〉の賜物。
浮腫のような眼球の数々は鼻や口といったその他の顔のパーツを顎や側頭部の方にまで押しやっている。
けんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇ――。
歪んだ口が紡ぐのは、呪詛か、悲鳴か。
〈バーストゾーン〉による彼の生成変化は止まらない。止められない。
一体どんな合理性のためか、彼の背中は激しく曲がって、彼の頭はちょうど腰のあたりにまで降りた。首が長くなったためか、そのまま正面を向くこともできるようだ。
腕の骨が軋む音が終われば関節の数が七の七倍にも増えている。
人間の面影が残るのは、もう二足歩行であること、黒光りする革靴のみ。
「止まれって言ってるでしょう!」
東子、上擦った声で叫ぶ。そして、拳銃の引き金を引く。引いてしまう。
とはいえ、その狙いは正確。
銃弾は身体拡張者の、腰にまで頭部に突き刺さ――らない。
けんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇけんぺぇ――。
今や蛇腹のようになった腕の先、五十本にまで増えた指で銃弾の全てを受け止め、掴み取っていた。
そしてその損傷はまた、〈バーストゾーン〉のプロセスを加速させる刺激となる。
彼は手近にあった2つの死体に手を伸ばした。
まだ流血の続く喉笛に噛みつき、体液を啜りだす。
体液を啜りだされて乾燥した人肉を、貪る。
〈バーストゾーン〉は、宿主から死を遠ざける代わりに、宿主を殺す。再生のために、一度、宿主をラディカルに破壊する。それゆえ、そのプロセスには膨大なエネルギーを要し、手近な人間の死体であれ、燃料にしてしまう。
その消費と、成果物のアウトプットは全く迅速に行われる。
その迅速さときたら――。
四恩が地面を蹴って跳び、彼の頭部を靴底で踏み抜こうとする、まさにその間だけで、彼はさらに生成変化し、五十本の指を膨大な数の触手へと分化させ、自分の周囲に肉の壁を作っているのだから。
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