第2話 5月3日 千夏

 まるい筒をを覗くと、微かな光が見える。

 その光は太陽から放出されたもので、何億年もかかけてその星に行き着き、反射して、私の目に入り込んでいる。

「まったくもって、スケールが違うわ」

 赤井千夏あかい ちかは、そう呟いて望遠鏡のしぼりを強くする。

 私は、春の大三角が好きだ。いや、春の大三角のおとめ座が好きだ。私の星座はおとめ座だし、一等星のスピカはいつ見ても明るく穏やかだ。自分も女性としてかくありたいと思う。

 さらに付け加えて言うなら、あの人の星座がしし座だと知った日から、もっと、おとめ座が好きになった。ディズニーでいうところの美女と野獣みたいだし、春の大三角ではお隣さんだし、それになにより二人が見えない糸で繋がってみたいではないか。

「お、また流れた」

 ちょうど、みずがめ座流星群の時期だ。今日見た流れ星は、これで7つ目だ。

「ほんとに晴れてよかった」

 丸い筒から視線を外して空を上げる。この時期の夜は少し冷えるが、お気に入りのモンベルの水筒に入ったコーヒーが体を温めてくれる。コーヒーを一口含むと苦さが口いっぱいに広がる。ふー、と息をはくとコーヒーの匂いが鼻腔をくすぐる。

 私はこの感覚が好きだ。深夜にだけ感じられる疲労感と独特と高揚感、さっき飲んだコーヒーのカフェインからが胃の中で暴れまわるこの感じが...

「お、また流れた」

 今晩は調子がいい、本当によく流れる。

 もう今日はここで野宿でもしようか、と思う。こんなきれいな丸天井の下で眠れるなんて最高じゃないか。

 そう思った瞬間に、携帯電話が私を呼び立てる。ディスプレイを確認する。知らない番号だった。

 私のゴールデンウィークが始まった。

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明日の距離 makoto @makotohanaoka

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