明日の距離

makoto

第1話 5月3日 ルカ

 感じる、君を感じる。

 遠くにいる君を感じる。

 同じ空を見上げている。

 今、星が流れた。

 少し肌寒くなってきた。

 そろそろ中へ戻ろう、まだ外は寒い。


---



 感じる、あなたを感じる。

 外にいるあなたを感じる。

 風に吹かれている。

 本のにおいがする。

 少し暑い、窓を開けよう。

 夜風が涼しくて気持ちいい。


---



 「はっくしゅん」

 自分のくしゃみで目が覚めた。

 左腕を知らないうちに枕にして寝てたみたいだ、少し動かすだけでも腕がびりびりする。まるで他人の腕みたいだ。

 右手で肘や膝を触ると恐ろしく冷たくなっている。やっぱり関節は冷えやすい。

 「布団、蹴とばしちゃったんだ」

 普段は寝相いいんだけど、と思いながら枕元に置いた緑ぶちの眼鏡を掛けて、目覚まし時計を確認する。6時15分、目覚ましが騒ぎ出すのは一時間後ぐらいだ。

 「あー、マジで冷えた」

 のどが痛い気がする、今日は5月に入ったばかりのゴールデンウィーク初日、

 これが風邪なら、ドラッグストアに行くしかないなと思いながら、草薙くさなぎルカは足元へ蹴とばした布団を手繰り寄せた。

 そもそも、昨日の夜が問題だった。連休に入ることの高揚感から、ついつい夜更かしをしてしまい、気づけば午前2時を回っていた。急いでシャワーを浴び、髪も乾かさずにベッドにダイブし、今に至る。

 布団をかぶれば、失われた体温は戻るだろうと思ったが、これはだ。どう考えても、シャワーを浴びて体温を上げなきゃいけない。

 「うー、だるー」

 左手を刺激しないように、そろりそろりとベッドから這い出る。フローリングの冷たさを素足感じとる。ハードカバーの本に小指をぶつけて、痛たたたと、小声を漏らしながら風呂場へ歩を進める。

 ふわぁ、と大きなあくびをしながら独り言をつぶやく。下着を脱ぎ捨て、冷えた風呂場のタイルにさらに温度を奪われる。バルブをひねると元気よく水が降ってきた。

「冷たっ!」

 シャワーヘッドの角度をそっぽに向けるのを忘れていた。猛烈なお水さんの抱擁を浴びる。その際に左腕をぶつけて、悶絶してうずくまる。

「あぁ、もう最悪だよ」

 とほほ、と思ったものつかの間、お水さんはログアウトしてやさしいお湯さんが背中に降ってきた。

「あぁ、あったけー」

 自分でも独り言が多いなぁと思う。そして単純だと思う。

 うん、まぁ、今はなんでもいい、失われた体温が戻るなら。

「バイト、めんどくせぇ」

ゴールデンウィークは始まった。

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