ロンリー・トゥ

アジサイ、という花があるらしい。基本的には群生し、いくつか細かい種類はあれどダイヤ形の花弁でできた小花が集まったような、結果としてドーム状にこんもりと、見ようによっては海月のような外見が特徴的らしい。雨を好むらしい。色合いは様々で殊に紺青が美しいとのことだが、それは流石に君の嗜好だろうと私はその話をしてくれた異国の風来坊の口を止めずにはいられなかった。しかして、私は大変興味がわいたので渡海してきた。そして今、早速かのはぐれ者に聞いたものと違う個体と出会って、かれこれ小一時間は悩んでいる。私にとっては幸いなことに、この国の土を踏んでこっち雨は降り続いてる。色は、青い。紺青ではないが青に分別できる。こんもりとしたドーム状の姿、これも明らかである。しかし。

「君だけか」

左右を見渡せど、仲間が見当たらない。それこそ、はぐれ者。地に根ざすものと語らうのは得意な方ではあるが、ちょうどこの国の淑女のように、孤独の花は寡黙である。知欲か情か、どうにもこの手のものには弱い。

「それなら、私とゆっくり話そう」

傘をさしかけた時、幽かな吐息が聴こえた、かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る