キネマティック・リアルメルヒェン
白百合の君、ならぬ、紫陽花の臣は石畳の緩い坂を上がりきった広場でキネマよろしく長い脚を持て余していた。少女は、家の裏路地に残った花弁をパン屑のメルヒェンのように目印にして、此処へ辿り着いた。色素の薄い肌や髪の中で煌めくダークアメジストの瞳と、足元や腰掛けた噴水に子供部屋みたく散らかした花花、花。小さな片の寄り集まって出来た青や紫のそれらと、彼の風貌が物語る。
「貴方ね、朝からあんな素敵なショー」
切らした息を整えながら近づくと、急ぎながらもきちんと選んできたローヒールのリボンシューズが誇らしげな音を立てる。青年はく、と片眉を上げて応え、それがまたキネマじみているのだった。
「お花屋さん?道化?まさか童話のフェアリーなんてね」
「見えるままで構わないよ」
「そんなこと言われたら本当にフェアリーみたいだわ」
「口説き文句なのかな」
「そっちこそ」
浮世離れした会話はテンポがよく、彼女は久方ぶりに「本物のウキウキ」を実感した。自分ひとりの頭の中じゃない、本物の現実遊戯のなんと甘いこと。蜜に引き寄せられる蝶の舞は止められない。
「ね、知ってるでしょ。わたし、退屈が嫌いよ」
風に吹かれて行方を失うブックマーカー、それが始まりを告げた。
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