レイニーシンガーテイル

「-遠ざかる雷鳴に紛れて」。地面を激しく叩く雨の礫の中、人の脚は慌ただしく往来を跳ね回る。雨脚の強まるとともに、人の行き交いは少なくなって、紫陽花の株たちは少し雄弁になりながらのびのびと恵みを受け容れた。そんな彼らの隙間を縫うように、だぶだぶと流れるがままの排水のように、悠然と脚を濡らしながら往く影がある。上機嫌な彼女は雨音の伴奏で、随分と気持ちよさそうに歌っている。一際おおきな光と轟きに呼応して歌と笑顔は盛り上がりの最高潮を迎え、雷鳴光に人も紫陽花も気を取られている間にご機嫌な放浪人は姿を消した。彼女が雷鳴に紛れて、なにを、謳いあげていたのか紫陽花たちですら知らないそうだ。

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