トラベリングメルヒェン
窓際で頬杖をつく、行儀が悪いわと母親につつかれてもなんだかその習慣をやめることのできない娘は、いつも通りに空気の滞った裏路地の風景をおもしろおかしく眺める。向かいのおばさんが贅沢すぎる残飯をやって懐かせている猫の欠伸、あれが今日はどんな楽器で鳴るかしら。うちの時計が零分を報せるベルの直後に走り去る自転車の青年は、あの角の先でとんでもない出逢いをするかもしれない。それに道端の朽ちた柵、一枚浮いた石畳の道に、遠く街の中央から届く鐘の音。繰り返しの日々は、彼女の頭の中では彩り豊かにその日しかない一日に変わる。視界に舞い込んだ青と紫の花雨も、そんな妄想の産物かと思って目を擦った。ひらひら、ばさっと空からの来訪者は窓ガラス越しにも確かな質感をもって、現実の時を動かす。降り注ぐハイドランジア、貴女のこと、もっと教えてほしいわ!
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