【番外編】女神の騎士

女神の騎士

  

 誰しも、本当は永い旅路の空の下。



  * * *



 可愛い白い手が触れて言う。


「大好きよ」


 目を覚ますと、そこには微笑み。

 雪の結晶とよく似た、儚げな笑み。


 俺は彼女の華奢な手を握り返して、すっかり冷えきったその耳元に囁き返す。


「ああ、大好きだよ」


 柔らかな身体を抱きしめると、温もりが肌に滲む。

 熱い、惑わしい彼女の吐息につい意識が眩んだ。


「ねぇ、騎士団「白い雨」に入るって本当なの?」


 彼女が俺の胸の中で顔を上げ、円らな目を瞬かせた。

 黒い真珠のような彼女の瞳は、俺の大のお気に入りだった。


「ねぇ、どうして? 貴方はもう、とってもすごい魔術師なのに。ずっとここにいれば、お家も継げるのに。どうして?」


 俺は彼女の問いに、素直に答えた。


「守りたいから。君を」



  * * *



 …………そう、守りたい。

 嘘じゃない。


 俺は強くなりたい。



  * * *



 蜜の香が漂ってくる。

 真夏の街には、柑橘と蜜の入り混じった甘酸っぱい匂いと感情がひしめき合っている。


 俺は騎士になり、街の宿舎で暮らしていた。


 酒場ばかり立ち並ぶ狭くて騒がしい街は、あの時分にはとても楽しかった。


 故郷で禁じられていたことには大体手を出したし(たっぷり後悔を味わった)、

 故郷で楽しかったモノは、逆に街で流行らせたりもした(ちょっと都会人には強過ぎたみたいだったが)。

 

 そうして毎夜あけすけに遊んでいるうちに、気の置けない親友も出来た。

 彼は俺と同じように、身分を隠して故郷を飛び出してきた男だった。


「あんな片田舎で一生を終える気はない。俺は世界を見に行くんだ」


 騎士になれば、必然いろんな場所に引っ張り出される。

 代償は安くないが、そのために育まれた命なのだと、彼は酒で顔を赤らめていた。


「クラウス。お前はどうなんだ?」


 勧められた酒を煽って(それは故郷の蒸留酒と比べたら、信じられないほど薄い水のような酒だった)、俺は答えた。


「まぁ、そんなところ…………かな」



  * * *



 本当のところ、故郷を出た理由は自分自身にもよくわからない。


 もっと強くなれるはず。

 もっと強くあれるはず。


 理想とも願望ともつかない熱が俺を浮かせ、前へと歩かせる。



  * * *



 たまの休みには、ガールフレンドを連れて広場へ出掛けた。


 薄茶色の彼女の髪が、柔らかな陽を浴びて優しく輝く。

 俺はその何気ない横顔が愛しくて、そっと彼女の手に指を絡ませた。


 彼女は少し驚いて、それからすぐに弾けたように笑った。


 じゃれて絡み返してくる、日に焼けた手の動きはどこかあどけない。


 剣も、えげつない魔術も、この手にはまるで似合わない。


「ねぇ、ずっと一緒よ?」


 はしゃぐ声に応えて、俺は指先にキスをする。


「…………ね、約束よ?」


 不安そうな指先を、さらに強く握り返してやる。


 本当はもっと確かなやり方で語りたい。

 もっと深いところで安心させてやりたい。

 けれど、今の俺にはこれが精一杯。


 俺はまだ、駆け出しに過ぎない。



  * * *



 強く、もっと強く。


 守りたいものが増えるだけ、

 守りたいものを知るだけ、

 剣は重くなる。


 それに見合うだけ、強くありたい。


 はやく、俺もあんな風に笑いたい。



 * * *



 戦が無い時の騎士の仕事は地味だった。


 嵐で崩れた街道の整備に駆り出されたり、

 近所に出没した害獣を駆除したり、

 街で働く自警団の仕事を手伝ったり。


 俺のような下っ端は、西へ東へ走り回ってそんなことばかりしていた。


 一番格好良い仕事は、魔物の討伐と、パレードの演武。

 そして子供の遊び相手だ。


 「精鋭隊」ぐらいになると、貴人の警護や、大魔導師の接待、果ては時空を超えて異国への斥候と、色々と派手にやるらしいけれど。


 俺は今日もだだっ広い空の下、東奔西走、大雨で浸水した街道に土嚢を積む。


 山ほど積む。



  * * *



 やがて小隊をまとめるようになって、上官である貴族出身の騎士とよく顔を合わせるようになった。


 これまで自分の出自は出来る限り隠してきたのだが、ある時ついに上官が俺を見咎めた。


「お前! バレーロ家の夜会で見たことがあるぞ。確かフラウリールス家の…………。

 そんな名門の出が、一体なぜこんな所にいる?」


 言い逃れも面倒なので、俺は正直に答えた。


「実は俺、魔術以外はからきしなんです。だから剣と性根を鍛え直そうと思って、それで」


 しかし、これは悪手だった。


 上官はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべると、「そうか」と短く呟いて、その日から、ここぞとばかりに俺をこき使いだした。


「お前も俺みたいに、髭でも生やせば良かったんだ」


 自慢の顎髭を撫でる友に、俺は溜息を吐いた。


「それじゃあモテない。物事には優先順位ってものがある」

「お前の一番は女なのか?」


 俺はしばし悩んでから、答えた。


「一番じゃないけど、一番の中には入る…………かな」

「なんだ、そりゃ」


 友は豪快に俺を笑い飛ばした。



  * * *



 危険で見返りの無い任務。


 それは辺境の村々を襲う手強い魔物の討伐。

 高度な魔術的知識を要求される土木作業。

 終わりの見えない山岳地帯への物資運搬、等々。


 上官のいびりは、目に見えて苛烈になっていった。


 何ら縁故を結ばない、貧しい地域からの仕事ばかり俺の元に舞い込んでくる。

 

 しかも正直、どれも俺の手には余った。


 だが長引いた分だけ、人々が、そして部下と部下の家族が苦しむ。


 俺は一つ一つ、できるところから地道に潰していった。

 いかなる危険も面倒も、厭うだけ余計に手間と時間を食う。

 文句も愚痴も怒涛の如く吐いたが、仲間に恵まれたおかげもあって、俺はどうにか荒波の中で呼吸する術を心得ていった。


 図らずも、本当に剣と性根と、魔術の知識が鍛えられていった。


 上官は俺が仕事を終えてくる毎に、みるみる不機嫌になる。

 可笑しいったらない。


 荒れてすっかり口が悪くなった俺を、友がからかった。


「いい顔するようになったなぁ、お前。いや本当に、とても名家の坊ちゃんとは思えない荒みっぷりだ。その意気なら、今にあんな野郎は追い抜くぞ。

 まぁ、似合わないから髭は剃った方が良いと思うがな」


 俺はすっかり飲み慣れた薄い酒を喉に滝のように流し込み、夜の隙間を縫ってガールフレンドに会いに行った。


 どんな慰めや報酬よりも、人肌が恋しかった。


 街角で独り暮らしをする魔術師の女性は、そんな俺を時々諫めた。


「クラウス。何かを守りたいなら、まずは自分を大切にしなくちゃいけないわ。

 理想を追求するのは素敵だけれど、貴方の夢の中には、貴方がいないみたいよ…………」


 俺は彼女の胸に体重を預けてもたれかかる。

 彼女は困惑して口を噤み、愛情だか同情だかわからない眼差しを俺に注ぐ。


 彼女は俺の言葉に、いつも黙って耳を傾けてくれた。


「俺は…………貴女の傍に、ずっとはいられません。貴女だけじゃなく、故郷の家族の傍にもいられなかった。

 …………そういうヤツなんです、俺。

 貴女たちのような人の隣にいると、重さで潰れそうになってしまう。

 だから離れるしかない。

 でも、絶対に手放したくない…………」


 いくら格好悪くとも、歩みは止まらない。



  * * *



 長い雨の音がする、夏。


 土と草の匂いが漂う、古い貧しい村で。

 村の娘の素足が俺の部屋の床板を軋ませた。


 空一面を埋め尽くす灰色の空と、寝台を覆うシーツの青みがかった白。


 村の朝はやや肌寒い。

 その朝も深い孤独と平和が堀となって、村人たちを包んでいた。


「ねぇ、クラウス。いつまでいるの?」


 娘から滴る問いに、俺は答えた。


「午後には発つよ」

「北の森に出たあの魔物、相当手強かったんでしょう? 他の兵隊さんたちは、まだ怪我で動けないみたいよ」

「俺は平気だったから、先に戻らなくちゃ」

「何で!? 貴方も怪我すればよかったのに! 弱ければよかったのに!」


 掠れた叫びが一瞬だけ雨音を裂いた。


 潤んだ娘の赤い唇には、濃い憂いの彩り。


 立ち上がって彼女の震える肩を抱いたとき、濡れているのが唇だけでないと知った。


「…………行かないでよ。また私、独りになっちゃうよ」


 ポロポロとこぼれる熱い雫に、指を添える。

 俺は昨晩捧げた祈りをもう一度繰り返した。


「君に、恵みの雨が注ぎますように」


 額に口づけすると、聡い君は子供みたいに泣きじゃくった。



  * * *



 …………旅立たねばならない。


 どれだけ肌を重ねても、どれだけまじないを唱えても。


 人は魂にこびりついた寂しさからは逃れられない。


 誰しも、本当は永い旅路の空の下。


 救いの雨を待つよりも、自らの足で探し歩く方が良い。


 少なくとも俺はそう信じている。



  * * *



 ようやく昇進が叶い、ついに意地悪な上官から解放されたその日、故郷から一通の手紙が届いた。


 それは敬愛する姉からの便りだった。


 居所は知らせていなかったはずだが、騎士団での所属がバレたのなら、自然と知れるものなのだろう。

 俺はさっそく返信の筆を執った。


 だが、綴るべき言葉は全く思い浮かばなかった。


 とりあえず姉の結婚を寿ぐ。

 両家の益々の繁栄と、主の恵みのもたらされんことを祈って、云々。


 それから、俺にはもう家を継ぐ意思が無いことをどう伝えたものかと、ひとしきり悩んだ。


 実際のところ、まだ俺には旅立ちの本当の理由をきちんと伝えられない。


 もっと強くなれるはず…………。

 もっと強くあれるはず…………。


 それは終わりのない旅なのだと、わかってくれる人が果たしているだろうか。



  * * *



 日々は延々と続く。

 季節は連綿と連なる。


 それは繰り返しのようでもあり、果てない一本道のようでもある。



  * * *



 時空の扉を越えると、そこには別の国があるという。

 俺はまだ行ったことがないが、友はしきりに異国の話を俺に語って聞かせた。


 彼の異国への憧憬は、昇進につれて、いよいよ昂ってきていた。


「あと少しだぜ、クラウス。あと少し踏ん張れば「精鋭隊」に手が届く。

 そしたら、どんな異国へだって行けるぞ。俺たちの、思いも寄らない世界へだ!」


 息巻く彼の熱にてられて、俺も異国のことを夢見たものだった。


 彼から聞いた中では、「オースタン」という国の話が一番俺の気を引いた。

 同じ人間が住んでいながら、全く魔術を使わないという奇妙な国。

 俺たちの国よりも遥かに広く、大きく、それでいてどんな辺境の土地にも人が住んでいるという驚異の国。


「しかも酒もメシも、この上なく美味いときてる!」


 友は酒で赤らんだ顔を、ぐしゃぐしゃにして笑った。


「魅力的だなぁ! 気張らんとな。…………家族のためにも!」


 親友は真新しい白銀の指輪を、爽やかに俺にあてつけた。


「クラウス。家族はいいぞ! 気合が入る! 全然違う!」


 俺は肩をすくめつつ、指輪の白い輝きを不思議な憧れでもって見つめていた。


 ずっと傍にあるような輝きで、遥か彼方にあるような輝き。


 優しい、雨に似た光…………。



  * * *



 晴れた空は、いずれ曇る。

 戦争も、そんな風に起きる。


 ある年の暮れ、大きな戦があった。

 とある異国との長年の因縁の末の、避け難い戦だった。


 辺境の敵陣深くで、俺と親友だけが生き残った。

 熟練の魔術師たちに待ち伏せされて、なす術も無く部隊が壊滅したのだ。


 俺はかろうじて呼吸を続ける友を肩に担いで、近くの廃村へと逃げ延びた。


 夜通し風が唸る、朔の晩だった。


 俺は友の枕元で、延々と武具の手入れを続けていた。続けねばならなかった。


 磨き続けねば、すぐにだって斬れなくなる。

 穴だらけの鎧では、風からすら命を守れない。


 古ぼけたランプの明かりが、どうにも心許なかった。


「聞いてくれ…………クラウス」


 夜更けに、友が蒼褪めた顔で呟いた。


「俺は、もうダメだ。悔しいが…………もう寒くもないんだ。…………頼みたいことが、ある」


 俺が顔を上げると、友は火傷で皮の剥がれた手から指輪を外して、ランプの下に掲げた。


「レニに…………俺の妻に、これを」


 差し出しされた指輪を受け取ると、血と油にまみれた掌に微かな冷たさが沁みた。


 俺は指輪を握りしめ、言った。


「必ず届ける。…………何か、祈りがいるか?」

「いや、もう十分だ。お前は…………これから生きていくヤツのために祈れ」



 ――――生きていく者へ。



 俺が強く友の手を握ると、彼は弱々しく握り返した。


 明け方、友は眠るように息を引き取った。


 俺は彼の埋葬もせぬまま、急ぎ発った。



  * * *



 友から託された指輪を携えて、俺は一昼夜逃げ通した。

 身体はボロボロだったが、故郷で鍛えた魔術が命を繋いだ。


 俺はただ駆け、駆け、駆け、回らぬ頭で考えた。


 あいつらが魔物だったら良かったのに。

 俺が魔物だったら、もっと良かったのに。


 魔物と戦うのは、人と戦うよりも数段気が楽だった。

 魔物は怒るが、憎まないし、泣きもしない。

 だが人は違う。

 人は恨み、恐れ、慟哭する。

 

 俺も。

 相手も。


 そして俺は、初めて女の人を手にかけた。

 剣を取った者はいずれ剣に斃れる。

 彼女も紛れもなく、戦士だったから。


 血まみれになった女は、異国の言葉で怨嗟を吐いてあっけなくこと切れた。


 あの娘が魔物だったら良かったのに。

 俺が魔物になれたら、どんなにか楽なのに。



 ――――貴方も怪我すればよかったのに! 弱ければよかったのに!



 いつだったか、女の子に言われた言葉が胸に刺さった。

 彼女がそんなつもりで言ったわけじゃないのは、良くわかっていたけれど。


 俺は…………


 傷つけば、戦わずに済んだのか。

 弱ければ、とうの昔に剣など捨てていたのか。


 戦うから、失うのか。


 故郷でも守れるものはたくさんあった。

 なのにわざわざ遠い地まで出張って、女を殺して、そうまでして手に入れたいものがあったのか?

 

 一体俺は、何を守っている?


 その晩、剣も魔術も俺の迷いを嘲笑うかのように冴え渡った。


 俺は深い闇の中を、数え切れない魂を屠って、生き延びた。



  * * *



 夜はいつも力強く、無情なまでに強引に明けゆく。


 戦の終わりを祝う街の片隅で、幼子を抱いた女性は深々と俺に頭を下げた。


 彼女は友の指輪を愛おしげに見つめ、寂しそうに俺に笑いかけた。


「どうか気に病まないでください。

 貴方が帰ってきてくれただけでも、本当に嬉しいのです。あの人も主の御許で、親友の無事を喜んでいることでしょう。

「アイツはきっと出世する。この国を守る最高の剣の一つになる」って、いつも言っていましたから。

 …………戦うことのできない私たちには、祈ることしかできません。

 剣でしか届かぬ選択を託すなら、貴方のような方が良いと、私は思います」



 ――――貴方に恵みの雨が注ぎますように。



 彼女は敬虔な祈りを主へ捧げた。


 彼女の腕の中では、幼子が無邪気な瞳をじっと俺へ向けていた。


 何気なく俺が手を伸ばすと、赤ん坊はきゅ、と面白そうに俺の指を握った。


 何も知らない幼気な笑顔が、明るい陽の下に咲く。


 俺は何を守ったのか。

 何を奪ったのか。



 ――――生きていく者へ。



 何ができるというのか。



  * * *



 月日は打ち寄せる波のように。

 突き進む光のように。


 俺は魔術の修行と、剣の鍛錬と。


 教会の教えと、騎士の本分と。


 矛盾しそうでしない、限界の線を辿っていた。


 強くなっていく自覚はあったけれど、同時に脆くなっていく感覚も覚えた。


 一つ知る度に、つぼみが綻ぶように新たな迷いが生じる。

 何も知らねば惑わなかったことを、ただ漠然と迷うようになる。

 時には足踏みし過ぎて、前も後ろもわからなくなってしまうことさえあった。

 

「当然だ、馬鹿者め」


 ある非番の午後、通りすがりの大魔導師がそんな俺の背中を小突いた。


 偉大なる魔導師はよく姿を変えるものだが、その時、その人は裾の長い深紅のワンピースを纏った妙齢の女性の姿をしていた。

 どことなく故郷の姉と面差しが似通っていた。


「クラウスとか言ったか。貴様の魔術には見所があるが、どうにも未熟だな。

 …………いいか。守るべきものを、弱さの正体を見誤るな。

 強くなりたければ絶え間なく考え続けろ。

 剣を振るのも良い。

 魔術を学ぶのも良い。

 だが、魂を磨くことこそが強さの本質であることを、ゆめ忘れるな」


 琥珀色の瞳をした魔導師は、俺の目をしみじみと見つめて言い継いだ。


「とは言え、そう深刻に思い詰めるな。

 いつも貴様がしてきたように、戦い続ければ良いだけだ。

 祈りの在り方は、いくらでもある」


 魔導師はそれからひとしきり俺の魔術にダメ出しをして、立ち去っていった。


 何だか御神託みたいだったなと、疲れ果てながら思った。


 空模様は時に雨の如く優しく、時に真夏の日差しの如く苛烈だ。



  * * *



 遠征中。


 異国の踊り子が見事な舞を見せてくれた。


 美しいと俺が褒めると、彼女は頬を上気させて答えた。


「美しいのは、舞の精霊ですよ」


 俺は彼女に似合いの、真っ赤な花束を送った。

 彼女は大層喜んでくれ、俺の手を取って、たどたどしい言葉で話した。


「貴方には、精霊の目があるのですね。

 それは目には映らない、とても尊いものを見つめる目…………。

 大事にしてください」


 俺は笑みを湛える彼女に、飾り気無しに返した。


「…………俺には、君しか見えないよ」


 踊り子は花束と同じ色に頬を染めて、ふるふると首を振った。


「いいえ…………、いいえ。

 貴方が見るべきものは、もっと奥に」


 言いながら、踊り子が俺の手を自分の胸へと導く。

 菫色の彼女の瞳が蜜となってとろける。

 脈打つ情熱が柔肌を滔々と伝ってくる。


 俺は誘われるままに、深みへと落ちていった。


 愛しさがいつものように、どこか深い場所へと流れ着いて、ポツリと芽生える。

 


  * * *



 姉から叱責の手紙が届いた。


「親愛なる弟へ


 お元気ですか?

 婚礼の日以来、一切便りが無いので心配しています。たまには実家に顔をお見せなさいね。


 ところで、貴方がついにあの「精鋭隊」に抜擢されたと聞きました。

 貴方の長年の努力が実ったこと、父も母も、もちろん私も、大変誇らしく思っております。

 聞けば特に魔術の才が買われたとのことで、苦労して仕込んだ私は感に堪えません。

 本当におめでとうございます、クラウス。


 …………ですが。

 今や貴方は騎士団「白い雨」の顔となったわけですから、これまでのような、だらしない振る舞いは許されませんよ。


 いいですか。

 朝夕のお祈りは欠かさずすること。(主は常に貴方を見守っていらっしゃいます)

 お食事は質素にすること。(お酒の飲み過ぎはいけません)

 お部屋のお掃除は、毎日きちんとすること。(出した物は必ず元の場所へ片付けること)

 お洗濯は丁寧にすること。(絹のシャツの洗い方は覚えていますね?)

 言葉遣いには気を付けること。(特に挨拶とお礼は欠かさないようにしましょう)

 魔術のお稽古は怠らずに続けること。(慢心は怪我の元です)


 それから、最後にもう一つ。


 いい加減、泣かせる女の子は一人にお決めなさい。

 とても大事なことですよ。


 それでは、また貴方の笑顔に会える日を心待ちにしております。


 貴方の姉、ソフィアより


 ――――貴方に恵みの雨が注ぎますように」


 さて、何と返したものかな…………。



  * * *



 正式な手続きを終えた後、俺は精鋭隊に異動になった。


 いくらか良い宿舎に移れるものと期待していたのだが、待っていたのは今までと寸分変わらぬボロ宿舎だった。


 宿舎は街を見下ろす高台にある。


 晴れて「精鋭」となった俺の最初の仕事は、荒れ果てた宿舎の庭の草刈りだった。


 魔術を使ってはいけないという不可解なお達しに、「なぜ」と尋ねると、「いいからやれ」という明快な回答。


 俺は仕方無く、地道に草をむしった。


 おかげで、久しぶりに暮れなずむ街の景色をゆっくりと眺めることができた。


 作業を終えて一休みしていたら、隊長がやってきた。


 隊長は常に、獣じみた張り詰めた目つきをしている。

 彼は相対する誰もを、金色に輝く鮮やかな瞳で容赦無く射抜く。


 彼は傷跡だらけの厳めしい腕を組み、淡々と尋ねてきた。


「我々の務めは、誰の手にも負えぬ魔物や、歴戦の戦士、強大なる魔術師と戦闘することだ。必然、今までとは比べ物にならぬ過酷な日常が待っている。

 出世のために血眼になって戦い抜く者もあれば、ただ戦いに餓え、剣を振り続ける者もある。しかし私はその是非を問わない。いずれにせよ、生半可な覚悟で務まる場所ではないからだ。

 ただ、その訳だけは問うておきたい。お前は一体、何のために戦う?」


 …………何のために。


 俺は少し考えこんでから、答えた。


「…………守りたいんです。尊いものを」

「「尊いもの」とは何だ?」

「言葉では表しきれないものです」

「わからないのか? それとも隠したいのか?」

「いいえ、どちらでもありません」


 俺は訝しむ隊長の顔を仰いだ。

 夕焼けを一杯に浴びた壮絶に燃える街が、その向こうに見えた。


「戦うことでしか守れないものがあります。残酷ですが、俺たちは人間ですから。

 この世界で…………戦えない者は祈るほかありません。言葉にもならないような、ひたすらな願いを込めて、ただ生きるしかない。

 だけどそれは、尊いことです。

 俺はそんな命の営みの儚さを…………美しさを知れば知るほどに、強くなりたいと思ってきました」


 祈りは粉雪みたいに脆く、踏みしだかれれば、あっという間に崩れてしまう。


 だがその芽はいつだって、愛らしく。

 優しく。

 美しく。


 剣も血も似つかわしくない姿となって、俺の傍らに芽吹く。


「だから、俺は剣を取ります。

 俺は祈ったり願ったりは得意じゃない。生まれついての放蕩者で、あまり優しくもなれないですし。

 …………せめて、限界まで戦いたいんです」


 伝わったのか、あるいは戦士らしからぬ物言いに興醒めたのか。


 隊長は聞き終わるなり、無言で金色の瞳を閉じて去っていった。


 翌日から、俺は彼の任務に同行するようになった。



  * * *



 目が回るほど忙しい。

 文字通りの意味だとは知らなかった。


 この頃の俺は、ガールフレンドに会いに行く暇も無い。


 異国から異国へ、ひっきりなしに飛ばされる。

 干からびるんじゃないかってぐらい、魔力を行使させられる。

 怪我の処置がやたらと上手になっていく。

 武具とブーツをいくら新調しても、ちっとも追い付かない。


 剣を振るう機会には事欠かなかったが、帰ってなお鍛錬しなければ、他の隊員の腕についていくことができなかった。

 誰も彼も、化け物みたいに強かった。


 図らずも、俺は姉の忠告通りの生活を送っていた。



  * * *



 先日、貴人の護衛中に深手を負った。

 二晩死の淵を彷徨ったものの、何とか生還した。


 俺は病院で熱にうなされながら、密かに己を笑っていた。


 やりたいようにやって、力尽きる。

 心残りと言えば「もっと強くなりたかった」。


 呆れたものだ。

 放蕩もここまでくれば、立派なもんだろう。


 殺戮と祈りの道は、続く。



  * * *



 それからしばらく経ち、またもや俺は大怪我を負った。


 最早這う力も尽きて路上に横たわっていたところを、街の自警団の知り合いに助けられた。


 寝かされて手当てを受けつつ、俺は自分の額に当てられた冷えた手の心地良さに、つい瞼を上げた。


 ついでに見えたその可愛らしい手を掴む。

 擦り傷だらけの、働き者らしい手だった。


「あっ! ダメだよ、まだ動いちゃ。傷口が開いちゃうよ」


 優しい女性の声が俺を窘めた。

 彼女の澄んだ翠玉色の瞳は、萌木に茂る若葉のように柔らかだった。


「驚かせてすみません。でも、そんなに大した怪我じゃありませんよ。ですからどうか、そんな顔はしないでください」

「でも…………」


 彼女が伏し目がちに俺の手を両手で包み込んだ。


 看病のためか、いつも彼女が付けている派手なアクセサリーが今日は外されている。

 そのせいで彼女の腕の刺青が余計に目立った。


 俺は海獣を象ったその刺青の、美しい青と赤の紋様を目でなぞった。


「その刺青、綺麗ですよね」


 顔をこちらへ向ける彼女の掌を、指先で撫でる。


 そして俺はこれまで口にしたことの無いことを言った。


「その刺青は、貴女の家に代々継がれているものでしょう。見ていると、貴女と家族の深い心の結びつきが伝わってきます。…………少し、羨ましくなります」


 白い銀の光が、心のどこかで鈍く反射する。

 俺はその光を瞼の裏に閉じ込めて、また彼女を見た。


「貴女がここにいてくれるだけで、十分力になります。ですから、お願いですから、もっと明るい顔をしてください」

「…………わかったよ。でも、何度も言うけど、それならクラウスさんも敬語は止めて欲しいな。貴方ほどは強くないけれど、私だって自警団の精鋭なんだから。もっと気安く頼ってほしいよ」

「ありがとう」


 彼女がわずかに笑う。

 俺は安堵して、話を続けた。


「以前貴女にお世話になった時にした約束、まだちゃんと覚えているんですよ。一緒にお食事でもと考えていたんですが、どこか行きたい所はありませんか?」

「あっ、また敬語だし! そんな約束なんかより、早く怪我を治してよ。こんな状態でナンパなんて、まったくもう…………」

「貴女がもっと私と話してくれたら、もっと早く良くなります。…………君を遠くまで連れて行けるようになる」

「すぐ、そうやってはぐらかすんだから」


 怒った彼女の生き生きとした顔を見ていたら、嬉しくなった。


 最近の俺は何だか、昔より素直に笑えるようになってきた。


 彼女の去り際の言葉は、でも、ちょっと小憎らしかった。


「クラウスさん! そうやって笑っているけれど、いつまでもそんな調子じゃ、みんな怒っちゃうからね?

 貴方は自分と仕事と、どっちが大事なの? もし「仕事」なんて答えたら、貴方なんかとは絶対にデートなんて行かないんだから!」


 きっと彼女は答えをわかって言っているのだ。


 俺は名残惜しみつつ、他の怪我人の元へと足早に向かう彼女に手を振った。



  * * *



 ちなみに、同じ精鋭隊の女の子にも、似たようなことでよく叱られる。


 俺は怪我の療養中、姉の言いつけ通り「魔術のお稽古」に励んでいるのだが、彼女はその度にいつも血相を変えて止めにくるのだった。


「クラウス様、お傷に障ります!」


 俺は慌てる彼女を、肩をすくめて宥めた。


「平気だよ。無理の無い範囲でやっているから」

「嘘です! クラウス様が私に仰ることは大概、嘘です!」


 確かに、戦い以外のことにはやたら疎い彼女をからかうのが楽しくて、たくさん嘘を吐いてきたが。(彼女はとびきりの美人で、しかも初心だった)


 俺は精一杯誠実に、彼女に弁解した。


「俺は、君や君の大切な人を守りたいだけだ。…………これだけは本当だよ」


 彼女は彼女の最も魅力的な特徴である、紅玉色の瞳をキッと光らせて俺を睨んだ。


「クラウス様。貴方は、最低です」

「最低? それはまたひどい言われようだな…………。どうして?」

  

 精鋭隊の紅一点である彼女は、俺の知っている女の子たちとは少し違っている。

 

 彼女は俺を、臆面もなく真正面から見た。


「貴方はとてもお強く、お優しい方です。いつも斜に構えていらっしゃいますけれど、本当は誰よりも努力していらっしゃるのを知っています。

 でも…………貴方は自分勝手です。世界一のわからずやです! 無責任です!

 貴方のことを…………他でもない貴方のことを、かけがえなく思っている方が大勢いらっしゃるんですよ!?」


 いつも気丈な彼女に涙ぐまれると、さすがに堪えた。


「…………ごめん。泣かないで」

「泣いてなんかいません。怒っています」

「もう嘘は吐かないよ」

「嘘です。クラウス様は、ご自分にだって嘘を吐かれるんです!」


 俺は降参し、すごすごとベッドに戻るしかない。


 ただ一心に、掛け値無しに身を案じてもらえるのは嬉しい。

 

 でも俺には、それは過ぎた情だ。


 あの子は少し苦手だ。

 あの子には、自分も誰かに守られているのだと、嫌でも気付かされてしまうから。



  * * *



 自分は本当に強くなれているのか。


 オースタンからやって来た勇者様は、酒場で愚痴る俺にこんなことを言った。


「理想が高いんだよ、君は」

「そう、でしょうか?」

「うん。しかも、その憧れを絶対に口にしないんだ。無意識に恐れてるみたいだ。理想が、理想のまま終わってしまうって」


 勇者様は酒を一口飲み、ちょっと考える風にしてから続けた。


「それに、君って案外、思うより先に身体が動くから。たとえその願いが叶っていたとしても…………ずっと後になってからじゃないと、気付けないんじゃないかな。

 俺が見る限り、君はもう十分に強いんだけど」


 酔っ払った勇者様は赤い顔で(多分、自分が何を言っているかもよくわかっていなかっただろう)、朗らかに笑った。


 俺はそんなものかもなと頷きつつ、彼の言葉を心の片隅に書き留めた。


 喜ばなかったって言ったら、嘘になる。


 勇者様はどこか俺の親友に似ていた。

 

 俺は勇者様に、彼の出身地であるオースタンのことをたくさん聞いた。

 いつか案内してもらう約束も取り付けた。


 随分長くかかったが、ようやく友へ土産話ができそうだ。



  * * *



 月日はつつがなく流れていく。


 返事を出していない姉の手紙は、どんどん引き出しに溜まっていく。


 便りが無いのは元気な証と、それはそれとして友の墓に花と異国の土産を捧げる。


 友の息子はすくすくと育っている。


 女の子と遠出する暇は、相変わらず無い。



  * * *



 俺は任務の前、大抵毎晩、「姫」のことを想う。


 この国の全ての命を司る巫女にして、最高の魔術師である「蒼の主」。

 俺が仕える姫君のことを。


 精鋭隊に入る前、俺は姫から直接に洗礼を受けた。


 姫は俺が未だかつて見たことの無い、一途な眼差しをした女性だった。

 蒼い、遠洋を思わせる混沌と純粋を湛えた瞳が、

 北の星みたいに美しく冴えていた。


 俺は彼女の前に跪き、誓いを立てた。


 身を切るような冬空の下。

 墓場にも似た、白い聖堂にて。


「――――クラウス。どうか顔を上げてください」


 言われて、俺はほんの僅かだけ顔を上げた。


 仰げば真綿のように柔らかな笑顔が咲いている。

 かろうじてまだ彼女は女神になりきってはいないのだと、そんな風に思った。


 姫は俺に手を差し伸べた。


 陶器のように冷たく、滑らかな手。

 ほのかに薬草の香が漂っていた。


 姫は習いに従い、俺の額に口づけた。


「貴方に、永久に白い雨の祝福があらんことを」


 それから彼女は、こっそりと言い継いだ。


「…………貴方の孤独が、いつか溶けますように」


 麗しい蒼い瞳が、俺の胸を深く深く、刺し貫く。


 気付けば俺は、礼儀も忘れて彼女の手に激しく指を絡めていた。


 俺は姫の瞳に魅入った。

 彼女の奥に悠然とたゆたう、とびきり特別な何かが俺をそうさせずにいなかった。


 この国に灯る命が。

 か弱く根深い、無数の声が。

 唯一無二の魂の祈りが。


 彼女の瞳の奥に全て、宿っていたから。

 

 この姫の美しさこそが、俺の求めるものの顕れだと悟ったから。


 俺は思い切って、彼女に告白した。


「姫様。出会ったばかりで恐縮ですが、貴女を愛しています」

「えっ?」

「貴女の祈りの先にあるものを、私にも想わせてください。ずっと…………ずっと焦がれてきたんです」


 姫はややしてから、驚いた顔をふっと緩ませ、同じだけ力強く俺の手を握り返してくれた。


「…………わかりました。ぜひ一緒に、この国を紡いでいきましょう」


 それでも俺は、彼女の笑顔が物足りなくて、もう一度言った。


「姫。俺、本気です」


 姫は大きな美しい目をぱちりと瞬かせ、真剣な顔をした。


「わかりました。私も貴方の想いに応えられるよう、本気で務めを果たします」


 言うと、急に姫が普通の少女のようになった。

 俺は気が抜け、つい笑ってしまった。


「あ、あら? どうして笑うの、クラウス?」


 困惑した姫が絡めた手を緩めかける。

 だが俺は離さず、むしろ一層強く繋ぎ止めた。


「きゃっ、痛いわ」

「申し訳ありません。でもきっと、俺はもう二度と姫様に手を触れられませんから、今宵だけはどうかご容赦を」


 俺は立ち上がって姫をしっかりと腕に抱き締めた。

 姫は戸惑いと好奇心とが入り混じった、とても愛らしい表情で俺の胸に顔を埋めていた。


「姫。俺、嬉しいんです。願い続けていたことが…………やっと主に届いた。同じ夢を見る貴女と、出会えた」

「同じ夢…………」

「言葉にはできません。この世界に宿る…………かけがえのないものです」

「かけがえのない、もの」

「俺は貴女の、女神の騎士なんです」


 この晩の抱擁のことは、少なくとも今生では口にできない。

 話せば、永久に地下牢に繋がれてしまうだろう。


 だけど、それすらもう恐ろしくなかった。



  * * *



「親愛なる姉様へ


 お返事が遅くなり、本当にすみません。

 綴るべき言葉が長い間見つからなかったことを、どうかお許しください。


 精鋭隊での生活は概ね順調です。


 隊長は大変厳しい方で、いつも整理整頓についてはビシバシ鍛えられています。

 おかげでシーツもシャツも、驚くほど綺麗に畳めるようになりました。


 他の先輩方も、容赦は微塵もありませんが、非常に良く戦いの手解きをしてくださいます。


 ご心配なさっている魔術の稽古も、ちゃんと欠かしておりません。

 結界術など、とても上達しましたよ。もう魔法陣も印も必要無く、詠唱だけで発動させることができるぐらいです。


 そう言えば、少し前から気に掛けていらしたツイード家のご令嬢のことですが、こちらもご安心ください。

 同僚として、非常に健全な関係を築いております。

 

 最近では、彼女の主への贈り物を一緒に選んであげました。

 巷で噂の、「伝承の勇者」様宛ての贈り物です。


 …………そのうち実家にも顔を出そうかなと考えております。

 そろそろあの濃密な蒸留酒が恋しくなってきました。


 それでは、また夢の中で。


 貴女の最愛の弟、クラウスより


 ――――貴女に永久に恵みの雨が注ぎますように」



  * * *



 さて…………。


 また旅立たねばならない。

 送るべき手紙もしたためた。


 どれだけ肌を重ねても、どれだけまじないを唱えても。


 人は魂にこびりついた寂しさからは逃れられない。


 誰しも、本当は永い旅路の空の下。


 だけど人の祈りが紡がれる限り、弾けるように笑える日はきっと来る。


 救いの雨を待つよりも、自らの足で探し歩く方が良い。


 もっと強くありたい。

 だから、歩き続けよう。


 蒼き女神の傍らで。

 力尽きるその日まで。


(了)

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