(彼女のこと)

 ――あるいはそれは単純に、彼女の容姿によるものだったのかもしれない。

 簡単にいってしまうと、彼女は整った顔立ちをしていた。どこかで不意に見かけたら、思わず振り返ってしまいそうな、そんな容貌。

 もちろん、それは彼女が例の奇妙な発言をするまでだった。その言葉が彼女の口から発せられると、大抵の人間は目をそらし、関わりあいになるのを避けた。……まあ、それも無理はないと思う。

 とはいえただ黙ったそこにいるぶんには、彼女はやはり可愛らしかった。

 黒い、まっすぐの髪をしていて、全体にやや華奢な体つきをしている。目つきは、性格のせいかいくぶん涼しすぎる感じではあったけれど、その瞳は星空の瞬く夜空を映しているように澄みきっていた。

 ぼくは女の子のことについて特に詳しいわけではないけれど、彼女は化粧もしていなかったし、自分の容姿についてとりわけ注意をしている、というわけでもなかったと思う。たぶん自然体で、彼女はそんなふうだった。

 それでも彼女にはある種の化粧をしているような、そんな雰囲気があった。それは春の装いとか、秋の彩りとか、そういうものに近かったような気がする。彼女の中でもっとも人をひきつけたのは、そういう部分だった。

 時々、ぼくは自分でも気づかないうちに彼女のことを眺めていることがあった。

 彼女を見ていると、何故だかいつも静かな月の光を眺めているような、そんな不思議な気持ちになった。

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