第16話
朝8時、お母さんに起こされた。友達が来ていると言われ、玄関に行くと、弥恵ちゃんと達也くんがいた。
「どうしたの?」
「町の外でなんかあったみたいなの! 行ってみよう!」
弥恵ちゃんに手を引っ張られ、玄関に出しっ放しにしていたサンダルに片足を入れたところで、達也くんに止められた。
「弥恵、沙月ちゃんパジャマのままだよ。」
「お待たせしました。」
あたしは、急いで顔を洗い、着替えて家を出た。朝ごはん食べる時間まで入れると申し訳ないので、朝ごはんは抜いた。
町の入り口に行くと、沢山の人がいた。ていうか、沢山いて町の外が見えなかった。入り口の外からは、なんて言っているかは聞き取れないけど、大声を出しているのは聞こえた。人だかりから少し離れたところに秀くん達がいる。
「秀、外で何があったか分かった?」
「いや、今、兄貴とお前の姉さんが見にいってる。」
しばらく待っていると、夏衣さんと明美さんが帰って来た。
「なんだか凄いことになってるわ。この町の制度を廃止する運動を起こしているみたい。しかも、みんな中高生よ。」
あたし達は顔を見合わせた。同時にあたしは、おじさんが関係しているんじゃないかと思った。
急に大声が止んだ。すると、入り口の方から、声が聞こえた。
「内村沙月様は、いらっしゃいますか?」
声の主は、おじいさんだった。スーツを着ていて、とても上品な感じだ。おじいさんは人だかりの中を通り、声をかけ続けている。
「あたしです!」
手を上げながら声を掛けると、おじいさんはあたしの方を向き、にっこりと微笑み、こちらに近づいてきた。
「内村様、主がお呼びです。宜しければ、お友達もご一緒に。」
そう言われたので、夏衣さんと明美さんを残して、あたし達は、おじいさんのあとに続いた。案内されたのは、町の入り口から少し離れた林の中にある、古い洋館だった。
「あたし、ここには誰も住んでいないんだと思ってた。あたしと達也と秀で肝試しに使ったこともあるし……。」
弥恵ちゃんが、あたしにそっと耳打ちしてきた。
「今日は、昨日からあのような運動が起こっているので、こちらにいらっしゃいますが、主は、普段こちらにはいらっしゃいません。——……こちらの部屋になります。」
おじいさんが扉を叩いた。
「内村様をお呼び致しました。」
「入れ。」
扉の奥から声が聞こえた。若い、女の人の声。なぜか聞き覚えがあった。おじいさんが扉を開け、入るよう促す。部屋に入ると、こちらに背を向けて座っている人がいる。
「佐々木、ご苦労だった。下がれ。」
「はい。」
おじいさんが部屋を出て、扉が閉まる音がする。あたしを呼んだ人が、こちらを振り返る。
「——……久しぶりね、沙月。」
「ゆ、優花……?」
振り返ったのは、優花だった。あたしは、驚きで声が出ない。
「ふふっ、びっくりした?」
一か月ぶりくらいなのに、何年も会っていない人に会ったような感じがする。雰囲気が違う、口調が違う、高校にいる時の優花とはまるで別人だ。
「おい、お前の知り合いか?」
秀くんが、あたしに言った。答えたのは、優花だった。
「はじめまして、沙月の同級生の一条優花といいます。……あなたは、宮内秀くんかしら?」
優花はあたし達に近づき、他の人も分かるわ、と言って、次々と名前を当てていった。
「すごいでしょ? この町の人の顔と名前はちゃんと覚えているわ。一応、担当者だからね。」
「……担当者って、どういう事?」
あたしが聞くと、優花は微笑んで、やっと頭動きはじめた? と言った。
「私の家系がね、この町の制度を作って管理してるの。」
「……どういう意味だ。」
「そんな怖い顔しないで。順を追って説明するわ。——……まず、この制度を作ったのは高祖父よ。どうしてこんなのを始めたのか分からないけどね。私の家族はこの制度になんの疑問も持たなかったわ。私の両親も例外じゃなかった。両親は、私が中学に上がる頃に事故で亡くなって、それから私が佐々木に手伝ってもらいながら、この制度の管理をしているの。私はこの制度に疑問を持っていたし、どうにかこの制度を終わらせたかった。……でも、私みたいな子どもじゃ、大人には相手にしてもらえない。だから、この町の中から変えてもらおうと思ったのだけれど、町の人は、ここに来たことで諦めてしまっている人ばかり。だから、今回は抽選で不正をしたの。沙月、あなたをここに送るために。」
「あたしを……?」
「そう。高校で出会って4か月くらいだけど、あなたの行動力には何度も驚かされたわ。そして、思ったの。あなただったら、何かしてくれるんじゃないかって。」
これにはちょっと驚いたけど、と優花は笑った。そして、真剣な顔をしてあたし達の方を見据えた。
「中高生達の反対運動のおかげで、この制度は変わるわ。あなた達はもっと自由になれる。高校にだって通えるようになるはずよ。私は、少しずつここをただの町に変えてみせる。……今まで、ごめんなさい。」
優花は、あたし達に頭を下げた。
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