第11話

 午前8時25分、あたしは、昨日の広場に来ていた。朝ということもあって、広場には達也くんしかいない。

 ——……って思ってたんだけど、

「なんでいるの?」

 広場には、いつものメンバーがいた。

「沙月ちゃんがギターを弾いてくれるって、達也が教えてくれたの!」

「……あたしは、達也くんとしか約束してないんだけど。」

 大体、どうやって連絡したの? みんなそんなに早く起きてるわけ? 達也くんを睨むと、全く悪びれる様子もなく満面の笑みを浮かべている。

「沙月ちゃんも俺にだけ演奏するよりみんなにした方がいいと思って!」

 あたしも、満面の笑みで返す。

「わー、いい迷惑! 帰る!」

 と言って踵を返すと、弥恵ちゃんと知世ちゃんに止められ、結局、根負けして演奏する事になった。


 弾いたのは、魔女が出てくる映画の主題歌。あたしの1番好きな曲で、1番得意な曲。……ていうか、それしかまともにできない。楽譜はあるけど、独学で練習するのは結構大変だし。その上、あたしはものすごく不器用だし。中1までは、ギターを譲ってくれたおじさんがよく家に遊びに来てくれて、練習に付き合ってくれたけど、おじさん、遠くに転勤になっちゃうし。友達にギターが弾ける子いるけど、あまりの不器用さに呆れちゃって、付き合ってくれなくなっちゃうし。最近はギターに触ってなかったし。

 曲を弾き終えて、目が合うのが恥ずかしくて瞑っていた目を開ける。見ると、みんなは固まってる。

「……そんなに酷かった?」

 達也くんが頭を振る。

「逆だよ! すごく良かった! ギターもだけど、歌も上手いんだね。」

「まあ、合唱部だったし、それに……。」

「それに?」

「歌手になりたかったの、あたし。」

「ここじゃ、一生叶わない夢だな。」

「……そこは嘘でも、お前ならなれるって言って欲しかったわ。」

 秀くんを睨む。本当のことだろ、と言われて何も言えなくなった。その事は、この町の事を教えてもらった時に気づいていた。なりたい職業に就けないどころか、まず仕事というものがない。

「——……この町の人はすごいね。あたしみたいになりたい職業があった人もやりたい職業に就けていた人もいるはずなのに、昨日見た限りでは、それを悲観している人はいなかった。あたしには無理だな。諦められないもん。」

「最初は、落ち込む人ばっかりよ。段々、この生活に慣れて、気持ちを整理するの。私もここに来た頃は将来の夢があったもの。」

 知世ちゃんが、少し哀しそうな顔をして言った。達也くんがあたしの隣に座り、頭を撫でた。

「俺と弥恵は、この町しか知らないから、よく分かんないけどさ、別に諦めなくてもいいじゃん? そのうち、この町でできるやりたい事が見つかるよ。」

 あたしは頷き、ありがとう、と言って、達也くんの手をゆっくり払った。




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