第9話

弥恵ちゃんたちに、この町の事を教えてもらってから、1週間が経った。生活にも慣れてきた。毎日、家の周りを散歩するのが習慣になった。

今日も、散歩するために家を出ると、家の前に、弥恵ちゃんと知世ちゃんがいた。どうしたの、と聞くと、弥恵ちゃん達はとても嬉しそうに、

「これから、洋服や雑貨がこの町に届くけど、沙月ちゃん、一緒に見に行かない?」

「この時期は、浴衣もあるのよ。明日は、夏祭りだから、今日選んで明日着ましょう。」

と言った。嫌な予感がする…。


トラックは町の入り口付近に止まっていた。町の入り口の前には警備員が5人ほど並んでいる。トラックから、雑貨が入ったワゴンや洋服が掛けてあるハンガーラックが次々出てきた。知世ちゃんが言った通り、浴衣もある。

「おーい、弥恵、知世、サツキちゃーん。」

後ろから声が聞こえた。振り向くと、秀くん、達也くん、キールくんがいた。

「知世達も浴衣を見に来たんですか?」

「ええ、そうよ。」

「……早くしねえと、甚平だけになるぞ。」

秀くんが、浴衣が置いてあるところを指差した。見ると、そこだけ人だかりができている。バーゲンの時の人だかりを思い出す。

「わー!浴衣が、無くなっちゃう!早く行こう!」

弥恵ちゃんがあたしと知世ちゃんの手を掴んで走り出した。

「え、あたし、甚平でいいよ。てか、洋服がいい…。」

「ダメ!」

「…はい。」

結局、あたしは弥恵ちゃんに連れられ、人だかりの中に突っ込まれた。もみくちゃにされ、選ぶ時間はほぼ無く、とりあえず目の前にあった浴衣を取り、急いで人だかりから脱出した。

「サツキちゃん、髪の毛すごいことになってるよ。」

男子3人は若干引き気味で、自分たちの浴衣を選んでいた。

「男子はいいね、ゆっくり選べて…。」

「まあ、着ないやつの方が多いからな。」

弥恵ちゃん達を探すと、まだ人だかりの中にいて、気に入ったものを探していた。手にとった浴衣を見てみた。黒地にピンクの牡丹の花が描かれた浴衣だった。

弥恵ちゃん達が戻ってきたのは、あたしが脱出してから20分後のことだった。その間、あたし達は雑貨を見たり洋服を見たりして、最終的には、少し離れた場所にあったベンチに座っていた。その頃には、浴衣は全て無くなり、甚平だけが残っていた。そうなると、人だかりは女性服のところに移動し始めた。弥恵ちゃん達は、浴衣をあたし達に預けて、洋服を選びに、また人だかりの中に入っていった。

「あの2人は、いつもあんな感じ?」

あたしは、人だかりに向かっていく2人を見ながら、聞いた。

「そうだね、基本あんな感じ。サツキちゃんは、そんな感じしないね。…てか、すごいお疲れだね。」

「そうね、ああいうのはちょっと苦手。できれば、二度とごめんだわ。」

「知世はともかく、弥恵はまた沙月を連れて行きそうですけどね。」

キールくんが苦笑いしながら言った。…ほんとに勘弁してほしい。

再び人だかりの中に入っていった弥恵ちゃん達が戻ってきたのはここに来てから1時間半後のことだった。

明日の夏祭りの集合時間と場所を決め、それぞれ帰路に就いた。

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