第7話

次の日、言われた通りあたしは中学校の前に来ていた。約束の時間の10分前、秀くんはまだ来ていない。校舎のほうを見た。今日は平日だというのに、学校には人がいる気配がない。

「学校、お休みなのかな?」

「俺らが卒業してから、この中学は誰も通ってないぞ。」

後ろを振り向くと、秀くんがいた。秀くんは、よう、と言って校門をくぐった。

「まあ、3月に卒業したばっかだけどな。ついて来い。」

それだけ言うと、秀くんは学校の入り口に向かった。あたしは後を追った。

正面玄関を入り、靴を下駄箱に入れ、近くにあったお客さま用スリッパを履き、廊下を進んだ。階段を上り三階へ。階段すぐの右側の教室に入った。

教室には、昨日会った弥恵ちゃんとその友達らしき人が3人いた。弥恵ちゃんの右隣にいる男の子は金髪の外国人。左隣はおさげの大人しそうな女の子。その隣は、チャラそうな男の子。

「あ、来た来た。」

弥恵ちゃんは、座っていた机から降りて、あたしの方に来た。

「おはよう。沙月ちゃんだったよね?みんなを紹介するね。向かって右から、達也、知世、キール。みんな、この子は沙月ちゃん。日曜日に引っ越してきたんだって。」

弥恵ちゃんが話し終えると、チャラ男、じゃなくて達也くんが壇上に上がった。

「よし、自己紹介も済んだし、この町の説明でもしようか。」

と、言いだした。正直この人が説明すると思うと不安しかないんだけど…。

「ちょっと〜、サツキちゃん。俺じゃダメなわけ〜?」

「いや…、ダメなわけじゃ。」

ヤバ…、顔に出てたみたい。

「大丈夫よ。達也はああ見えて、人に教えるの上手なのよ。」

知世ちゃんが言った。ちょっと信じられないけど、このままだと話が進まないので、達也くん、お願いします、と言って説明してもらうことにした。

達也くんと弥恵ちゃんは壇上に。残りはそれぞれ席に座った。あたしの隣には、知世ちゃん。通路を挟んだ隣に秀くん。知世ちゃんと通路を挟んだ隣にキールくん。

「まず、サツキちゃん。こっちに来てからスマホは使ったかな?」

「使ったよ。メールの返信をしたかったんだけど、できなかったよ。」

達也くんは、満足そうに頷いた。

「そう、この町にいると、外部との接触はできない!」

達也くんがそう言うと、弥恵ちゃんが黒板に外部との接触不可、と書いた。

「ただし!外部からこちらへの接触は可能!」

「こっちが返信できなかったら意味ないですけどね。」

「キール。お口チャック!」

キールくんは、口をチャックする動きをして、黙った。

「次に、篦懸町についての説明をしよう。」

この話については、異常に長かったので、達也くんの話を要約すると、

・人口は約3000人。

以上である。知世ちゃんは、達也くんは人に教えるのが上手だと言ったけど、ここまで話を脱線させられると、例え上手でも嫌だな。

知り合いの人の話を延々に話されても、あたし、わかんないし。

「……と、いうわけだ。わかったかな?」

「あ、はーい。わかりましたー。」

返事だけは、ちゃんとしておこう。

「よし、じゃあ、ここからは大人しか知らない話をしようか。」

教室の入り口から、声が聞こえた。長身のインテリっぽい男の人が立っていた。

「なんで、兄貴がいるんだ?」

「弥恵ちゃんに呼ばれたんだよ。…君が、新しく来た子かい?はじめまして、僕は夏衣かい。秀の兄です。」

「はじめまして、沙月です。」

夏衣さんは秀くんとは違い、とても優しそうな雰囲気だった。

夏衣さんは壇上に上がり、説明を始めた。

「まず、この話はこの町の人を除くと、成人していないと聞けない話だ。この篦懸町は、毎年不定期に無作為に行われる抽選によって選ばれた人とその家族が来る町だ。沙月ちゃんも、突然引っ越すことになったでしょう?そして、この町に来ることは、社会から自分たちの存在を消されたことになるんだ。ちなみに、その抽選は公平に行われている。だから、どんなに素晴らしい学者や政治家だって、その抽選に選ばれたら、この町に来て、社会から忘れられる。この町から、僕たちが出られることはない。町の周りには防犯カメラがあって、町に入るときに見たと思うけど、警備員がずっと監視しているんだ。さっき達也くんが言っていたけど、携帯は使えない。でも、外部と接触が全くできないわけじゃない。手紙はオッケーだよ。もちろん、内容はチェックされる。この町には高校、大学はない。義務教育まで教えたらそこで終わりさ。農業、商業は禁止。定期的に来るトラックに色んな商品が乗っていてその中から好きなものをもらえたりするよ。僕らはお金を持っていないからね。その商品ってのは、店が処分しようと思った服や雑貨とか、国が集めてきたもの。食料は国から支給される。ということを、成人式の時に聞かされるんだ。何か、質問あるかな?」

あたしは、とりあえず今は大丈夫です、と答えた。もしかしたら、頭の中で答えただけかもしれない。あまりの衝撃で頭がまわらなかった。

「何かわかんないことがあったら、遠慮なく聞いてね。じゃあ、僕はこの後用事があるから、失礼するね。」

そういうと、夏衣さんは教室を出ていった。

その日は、これで解散ということで、あたし達も中学校を出た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る