第6話

あの後、秀くんを追いかけて言葉の意味を聞いたけど、明日この先にある中学校の前に10時に来い、って言われただけで、それ以上は答えてくれなかった。

家に帰ると、荷物が届いていた。秀くんが言っていた通り、ほとんど届かなかった。服とおじさんが譲ってくれたギターが届いただけだった。

家には、家具が備え付けられていて、前の家で使っていたものはいらないな、とは思っていた。でも、荷物は別だ。友達が誕生日にくれたぬいぐるみや毎月欠かさず買っていた雑誌。他にも大事なものが沢山あったのに、全て処分しました、という紙切れ1枚が届いただけだった。

お母さんが、襖越しにあたしの名前を呼んだ。返事をすると、入ってもいいかと聞かれた。あたしは立ち上がり、襖を開けた。

「荷物、洋服だけだった?」

あたしの部屋に入り、まだ片付けていないダンボールを見ながら、お母さんは言った。

「あと、おじさんのギター。」

「そう。」

お母さんは洋服だけだった、と笑ったが、すぐに悲しそうな、寂しそうな顔をした。

ほんの数分間、沈黙が続いた。何十分もの間続いたかのように思えた。

今日会ったおばあさんがなぜあたしをかわいそうと言ったのか。なぜ、荷物が届かないのか。聞きたいことは沢山あるのに、どれも言葉にならない。

「ご飯にしよっか。」

先に沈黙を破ったのは、お母さんだった。

「沙月、手伝ってくれる?」

あたしは頷いて、お母さんの後に続いて部屋を出た。


冷蔵庫の中には、食料が沢山入っていた。家から持ってきたものでもここに来る前に買ったものでもない。まるであたし達のために支給されたような感じで、少しだけ、気味が悪かった。

麻婆豆腐とサラダを作り、夕食にした。


夕食後、お父さんに、どこの高校に編入するのか尋ねた。

「うーん、どこかな。聞いておくよ。」

と、言われただけだった。


部屋に戻り、ずっと開いていなかったスマホを手にとった。開くと、友達から沢山のメッセージが来ていた。急に引っ越したことに驚いたという主旨の内容だった。ただ1人だけ、運が悪かったね、とだけ送ってきた人がいた。優花だ。優花は、高校に入って初めてできた友達だった。頭の回転が速く、よく気の利く人だった。ただ、思ったことをそのまま言う所があったから、誰かと喧嘩になることがあったが、あたしは、優花のそのはっきり言う性格が好きだった。その彼女が送ってきたメッセージがすごく気になり、どういう意味なのか聞きたくて返信しようとしたが、なぜかエラーが出て送れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る