第5話
起きたのは、11時過ぎだった。居間に行くと両親がいた。おはよう、と声をかけ、顔を洗いに居間を出た。
遅めの朝食をとり、部屋に戻って着替えを済まし、また居間に戻って、お父さんに声をかけた。
「荷物って、いつ届く?」
「え、ああ…、いつかな。午後じゃないかな。」
「じゃあ、届いたら連絡して。それまでこの辺散歩してくる。」
あたしは立ち上がり、わかった、というお父さんの返事と、いってらっしゃい、というお母さんの声を聞きながら家を出た。
やっぱり、夏だというのに、この町は涼しい。これだけ自然に溢れていると、暑さも変わるんだな。なんて思いながら歩いていると、向こうから人が歩いてくるのが見えた。歩いてきたのは、おばあさんだった。こんにちは、と挨拶をすると、こちらを向いてにっこり笑った。
「おや、見ない顔だね。」
「はい。昨日の夜にここに引っ越してきたんです。」
あたしがそういうと、おばあさんはそうかそうか、と頷きながら言った。その声は、少し震えている。
「こんな若いのに、かわいそうに…。」
涙を拭きながら、おばあさんは言った。
「あー!やっと見つけた!!」
あたしの後ろから声が聞こえた。声がした方に顔を向けると、あたしと同じくらいの歳の女の子と男の子がいた。女の子はショートカットで鼻の頭にそばかすがある可愛らしい顔をしていた。男の子は、仏頂面でなんとなく近寄りがたい雰囲気のある感じだ。
「あら、弥恵ちゃん。それに、秀くん。どうしたの?」
「もー、どうしたの?じゃないよ、おばあちゃん。急にいなくなるから、お母さんたち心配してるよ。出かけるなら、声かけてよ〜。」
「あら、言ってなかった?」
「言ってないよ!もー、ほら、帰ろう。」
弥恵ちゃんと呼ばれた子は、おばあさんの手をとった。ここでやっとあたしに気づいた。
あたしの方を見て笑ったので、あたしも笑い返した。その笑顔は、どことなくおばあさんに似ている。
「こんにちは。」
「こんにちは。新しく来た人?」
頷くと、弥恵ちゃんは、秀、と男の子を呼んだ。
「あたしは、弥恵。で、こっちは秀。あなたは?」
「あたしは、沙月。」
「よろしくね。じゃあ、あたしはおばあちゃんと帰るから。なんかわかんないことは、秀に聞きなよ。じゃ、またね。」
そういうと、弥恵ちゃんとおばあさんは帰っていった。秀と呼ばれていた子をみると、ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「別に、聞きたいことはないから、帰っていいよ?」
そういうと、さらに嫌そうな顔をした。なんでよ。
秀くんはあたしの方を向き、口を開いた。
「おまえ、この町に来て、何か変だと思わないのか?」
「変?あー、商店街がないなとか?」
そう、昨日から思っていたけど、この町にはお店がない。ここから、隣町までかなりの距離があるから、お店があってもおかしくないはずなのに。
「他は?」
え、まだ聞くの?今度は、あたしが嫌そうな顔をした。
「うーん、町に入るとき、警備員さんがいた。町の周りもなんだか塀に囲まれてる感じがあった。…そんなところかな。」
「…能天気ってわけじゃねーんだな。」
バカにしたような笑みを浮かべて、そう呟き、弥恵ちゃんたちが帰った方に歩いていった。失礼なやつだな、この仏頂面!
秀くんが突然振り返った。まるであたしの心の声が聞こえたかのように、タイミング良く。
「おまえんちの荷物、ほとんど届かないぞ。せいぜい、服ぐらいだな。あとは全て処分されるはずだぜ。」
「は?」
言われたことの理解が出来ず、立ち尽くしていると、秀くんは、またな、と言って歩いて行ってしまった。
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