第1話
「沙月、明日引っ越しするから。荷物、ダンボールに入れといてね。」
なんの予定もない土曜日の朝、お母さんが言った。
「は…?」
今日は帰りが遅くなるから、夕飯、自分で作ってね。みたいな感じでさらっと言われたものだから、頭がついていかない。
「だから、明日引っ越しするの。」
いや、無理だろ。あたしは心の中でツッコミを入れた。
引っ越しって、そんな簡単なものだったっけ?
大体、ウチが引っ越す理由がない。お母さんは、専業主婦。お父さんは、小さな工場を経営している。引っ越す理由があるとすれば…。
「まさか、夜逃げ…。」
知らなかった、ウチはそんなにお金がなかったのか…。
「違うよ。」
英字新聞を読みながら紅茶を優雅に飲んでいたお父さんが口を開いた。時々思うの、これでもう少し服装に気を遣って、太っていなければ、完璧にかっこいいのにって。頭良し、顔良し、性格良し。ここまで揃っているのに、ほんとに惜しい。
「理由は、追々説明するよ。とりあえず、今日は荷造り頑張ってね。母さん、ごちそうさま。工場に行ってくるよ。」
お父さんは、立ち上がりリビングを出て行った。お母さんもお父さんの見送りに玄関へ。
「行ってらっしゃ〜い。」
あたしは、リビングから大声をあげた。
あ〜あ、何もしないでゴロゴロするつもりだったのに…。
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