番外編02 美味過ぎる料理と、賢者の抜け道
ワシが、『仕組み』への禁呪を使って1年くらい経ったかのう。
終末少年が大人になって、神としての力を得た時の備えは、なかなかの難問なんじゃ。時間がかかる。
ワシは、気分転換に、禁呪の代償で使えなくなった「神聖魔法」と「精霊魔法」を改めて使えるようにする方法を考えておった。
まだ、あおが生きていた頃のことじゃ。
――「獲得した知識や力を手放したくない欲が強すぎる。ある種の呪いだ。
呪われておっては、お前のように花の命を経験することはできぬよ」
ワシはこんなことを、口にしたことがあった。
そうじゃな、ワシの欲の強さは、ワシ自身を縛る呪いだ。
なあ、お前さん。呪いだって、使いみちによっては、力になるよな?
ワシは、苦労して得た、神聖魔法や精霊魔法を失うなど、我慢ならん。
この呪いで、ワシは突き進む。
「なあに、また難しい顔をなさって」
「考え事をするのがワシの仕事だからのう」
「はい、お食事の支度が整いましたよ。召し上がって下さいな」
ワシは、胃が小さい。鉄棍女王が王女の頃、とんでもない物を食べたことはある。
無理をすれば、一人前を口にすることも出来るが、
胃が張れば頭の動きの妨げになるよな。少しずつ食べることにしておる。
ある事情で、味覚もほぼ失われておるしな。
冒険者時代にエルフの里の長老から教わった、滋養の高い果物で済ますこともある。
食卓には、ワシの体に合せて、娘が幾つかの料理を、
ワシでも楽しめる量に絞って並べてくれている。どれもじつに良い香りだ。
「愛する娘や。今日も、目で見ても美しい料理だな」
「あら、嬉しい。冷めない内にどうぞ」
ああ、美味いな。この子は、いつ料理の腕を身に着けたのかのう。
「お前は、いつの間に、これほどの腕になったのじゃ?」
「夫とここで、何年も新婚生活(軟禁生活)を過ごしましたもの」
「婿殿の胃袋を掴んだのか」
娘はイタズラが見つかった子どものように、とつとつと語りだす。
「最初は前女王くらい下手だったの」
「あそこまで酷かったか」
「お料理なんてしたこと無いまま、妻になったのよ?
愛し方も、お部屋を快適な状態に保つことも、何一つ知らなかったわ」
「そうじゃろうな」
「でもね、明らかにマズイのに、脂汗流しながらイイ笑顔で『美味しいよ』って
言われたら、どうにかしたいじゃない」
「練習したのか」
「自分に経験値を入れてね、料理人Lv99にしちゃいました!」
「ん?」
「だから、料理人Lv99にしたの」
なあお前さんら。うちの娘が、また変なことを言い出したんじゃが。
「待て待て。ワシらは『戦士』『魔法使い』『神官戦士』等、
冒険者をする際に便宜上『職業』と呼ぶが、実際の職業にもLvってあるのか」
「ありますよ。例えば『父親』とか、役割にもLvってあるわ。
お父様、ステータス確認できるのに、ご存知無いの?」
「ちょっと見せてみなさい」
ほう。ワシに馴染みのあるステータス欄とは、別のページに表記があるのだな。
「いや、必要な箇所しか見なかった。全く気が付かなかった」
「あらあら。ちなみに、Lv99のお父さんだと、
押し入った強盗があまりの父性にひれ伏して
『父よ! まっとうに生きます』って勝手に改心するわね」
「ならば『賢王』等と呼ばれる存在も」
「うん。王Lv70くらいじゃない?
経験値与えるようなズルをしない限り、ダンジョンでLv上げできないでしょ。
それぞれの役割を通してしか、経験値は獲得できない職業よね」
「ズルという自覚はあるのだな」
「あら、夫を喜ばせる為に、私は力の行使をためらわないわ。
彼のために割く時間を増やせるなら、手段は選びません」
ちょっと今、めまいがするんじゃ。
でも、ワシ知ってる、老いては子に従えって奴じゃろ?
「素朴な質問なんじゃが、『娘』とか『妻』のLvは上げんのか?」
「料理は技術です。娘や妻は、ありのままの私を愛して欲しいの」
Lv99になってくれとは、この子に振り回されても、ワシも思わんしなあ。
「ちなみに、赤ちゃんLv99というのもあります」
「可愛すぎるのか?」
「夜泣きがひどすぎて、村中寝不足になるくらい声量もスタミナもあります。
でも、その子なら許しちゃう感じ?」
「誰じゃ、そんな阿呆なレベルを用意したのは」
「『母神』のユーモアなんじゃない?」
「それは、悪ふざけって言うんじゃ」
まあ、ワシでも気づかなかったステータスだからの。自分のステータスを確認出来ない、一般の民は、気付かずに一生を過ごすじゃろ。
娘は、食事の後片付けを手早く済ませると、「お夜食はここですよ」と言い残して、骸骨村の家族の元へ帰って行った。
娘との食卓も楽しいが、婿殿や終末少年も交えた食卓が恋しいな。
結論から言うと、ワシは神聖魔法と精霊魔法を使えるようになったぞ。
禁呪で失った物は、取り戻さないとなあ。
ワシが祈ろうと歌おうと、神にも精霊にも届かん。
しかし、神から見て、ワシとは無関係な者なら、祈りも歌も届くよな。
ワシはこのダンジョンで知り合った、不死族の若者の力を借りた。
「神から不浄とされる私が、神聖魔法を得るというのですか。
その反骨精神、気に入りました」
彼はワシが教えた祈りの言葉で神を呼び出す。
神は当然戸惑うよな?
だが、伊達にフルカンしてはおらんぞ。知恵なら売るほどあるわ。
不死族の若者は、ワシと相談しながら神を煽った。
「私はあなたを信仰しない。しかし、ある方の代理として
あなたへ呼びかけている。あなたは、あなたへ呼びかけることすら
叶わぬ者を見捨てる神か?」
現在、神が認識出来ない存在はワシのみじゃろ。
特例として許された。
精霊達は煽るまでも無かった。
「不死族の若者よ。精霊語の『歌』はどこで覚えた」
「あなたたちの認識出来ない方の、指導を受けた」
「習得が早いな」
「語学は得意でね。それで、私は認められるのだろうか」
「お前の『格』は面白い。『歌』もぎこちないが、心地よいぞ。
我らは、お前が
「興味が無いね。私は、ただ、『中継』するに過ぎない」
当面の措置だが、不死族の青年が居てくれれば、ワシは神聖魔法も精霊魔法も使えるようになった。彼には礼をしなければならんな。何を望むか、考えて貰っている。
さあ、失ったものを取り戻そうか。
それより先に、終末少年が安心して大人になれるように備えねばならんな。
そうそう。ワシもステータスを確認したら『父親』でLvが生じておった。だが具体的なLvは内緒にしてもいいよな。
娘で苦労した分、順調に経験値は入っておったんじゃ。
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