舞台は近未来の東京。
SFやディストピアと聞くとつい『最終兵器は核を使用して世界が~という展開になるのでは?』と私のようなSF初心者は早合点してしまうのですが、この作品はさらにもう一歩先の世界――核抑止の均衡を崩し地球全体に脅威をもたらす存在として、ナノマシンが跋扈する世界――から物語が始まります。
世界を見通す高い見識のみならず、ナノテクノロジーやマシン、ミリタリーへの作者さまの造詣の深さはまさに特筆すべきものがあります。
専門用語を駆使した戦闘シーンや硬派な筆致の迫力ある描写など、30年ほど先の近未来を舞台にこれほど説得力を持って緻密かつ重厚に構築出来る人はそういないのではないかと思います。
また本格SFであるにとどまらず、本作品には毒舌AIやケモミミ少女、他にも魅力的なキャラクターが沢山登場します。配役のバランスの良さも相まってシリアスな中にもコミカルな明るさがあるので、私はむしろエンタテインメント作品として楽しく拝読しました。
けれど何よりもこの作品を魅力的にしているもの。それは作者さまのキャラクターたちへの愛情ではないかと思います。
創作物ですから、俯瞰的な視点なくしては描けませんし所詮テキストと言われればそうなのですが、この作者さまは俯瞰的な視点を忘れず、かつどんな時も一人一人のキャラクターに寄り添っていました。その愛情がキャラクターたちに確かな存在感を与え、生き生きとした躍動感を生んでいるのではないかと思います。
まるでキャンバスが広がるように、章が進むごとに謎やストーリーもスケールが広がっていくので読み進めるほどに続きが気になり親しみがわきます。さらには硬派な筆致が少しズレたときのなんとも言えないクセになる面白さ(笑)
ハラハラしたり、お腹抱えて笑ったり、過酷なシーンで投げかけられるふとした一言に思わず涙したり。
硬派な筆致で魅せる多彩な魅力を放つ本格SF×エンタテインメントの世界をぜひ、ご堪能ください。