第188話

ㅤ今の状況には名前の付けられない点が多すぎる。

 真那の心拍が安定しているのを確認してから、尻目に運転席に座りハンドルを扱う棗と、その脇でマガジンに弾丸を装填している幸正を伺う。

 つい数十分前までこの二人は敵対していたはずだ。いや幸正の裏切りが確信できていなかったため、正確には同じ勢力に属したままであったのだが。それだのに棗はどうしてこうすんなりと幸正の存在を受け入れているのか。

 それ以前の問題だ。棗はU.I.F.の取り締まっていた一般車両に乗り込んで時雨たちの救出に乗り出してきた。

 幸正がその地点で護送車両を下道に転落させ、時雨たちを逆境から救い出す計画。それをあたかも事前に知っていたかのような救出劇だったのだ。

 ここから推察できることは一体何か。可能性はいくつがあるが、有力なのは彼らがこの逆境を経て信頼を再度深め合ったわけではないという可能性だ。

 今回の作戦以前から結託していた、いやあるいは最初から幸正の裏切りのことを知っていた──プロバビリティ。


「……ッ」


 最悪の可能性に行き着いて、反射的に先ほど幸正に預けられたアサルトライフルに手をかけようとする。がそれもいつの間にか座椅子から消えている。

 ハッとして車内に視線を張り巡らせると幸正の脇にライフルが移動しているのが見えた。どうやら気付かぬ間に回収されていたらしい。

 ならばとホルスターに手を伸ばすが空を掻く。アナライザーは回収されたままだった。

 

「アナライザーならここだ」


 こちらに一瞥すらくれることなく幸正がアナライザーを掲げてみせた。てっきり一成が持っているかと思っていたが、護送車両を運転していた彼に預けられていたらしい。

 この状況を瞬時に脳内で分析する。手元から回収された武器弾薬。そして先程の逆境下であってもそれを時雨に渡そうとしなかった事実。

 それにU.I.F.が時雨らから離され追跡すらままならないというのも気になる。棗の職人じみた運転技術を持って敵勢力を翻弄したという事実もあるが、それでも天下の防衛省、光学迷彩技巧も何もない一般車両を追跡できないわけがない。

 ここから察するにどうやら逆境は未だ抜け切れていないようだ。それどころかさらに苦境の深奥へと歩を進めているらしい。

 確信する。この車両内部にいる真那以外の人間全てが敵だ。


「今後は奪われないようにすることだな」

「──は?」


 内心で憤る憤怒や、改めて発展しかけた最悪の事態に対する僅かの恐怖心。それを払拭したのは助手席の幸正だった。

 彼はなんの躊躇もなくアナライザーと特殊弾帯を後部座席に放ってくる。思わずそれを手に受けて、だが爆発物のたぐいでも仕込まれているのではないかと遅すぎる懸念が湧き出す。その懸念も何も起こらないという現状が否定した。


「……何のつもりだ」

「烏川、君の考えていることは手に取るように解る。だがまず言わせてくれ。俺は君の味方だ」

「貴様が皇の寝返りを疑った理由は俺と皇の関係の不透明性が故だろう。だが貴様が想像しているような事実関係はない。俺が貴様の救出劇の布石を投じた、それだけの話しだ」

「……どういうことだ」


 アナライザーを返却され僅かの安堵がぶり返してくるものの気は抜けない。すぐにでも反撃できるよう細心の注意を張り巡らせながら返答を待つ。


「時雨さん、信頼してください」


 あまつさえ無線機からHQたる昴の声が電信されれば。彼もまた今回の救出作戦に関わっているということになる。ジオフロントの彼が関わっているということは、酒匂は勿論伊集院やその他の人員も幸正の参戦について認知しているということ。つまりこれが棗一人の独断行動でないことは明らかなわけだ。


「君が護送されているとわかった時点で、レジスタンスは選択を迫られた」

「レジスタンスの被る被害を鑑みて、俺を見捨てるか、あるいは発信機回収のおまけで俺を救出するか、という選択肢だろ」

「話が早くて助かる」


 否定はしないらしい。元よりこのレジスタンスのリーダーにそんな情緒を求めてはいない。そもそもそんな感情は改革において不要の産物なのだ。


「全く……素直じゃないやつめ棗よ。前者の決断は最悪のケースに発展しないかぎりはありえない、と前提的に述べていただろうに」

「とにかくだ。救出するにしても、被害を最小限にまで抑えるための作戦を講じる必要があったが──敵の護送包囲網は完全だった。レジスタンスの軍事力では介入しようのないほどにだ」


ㅤそれ故にと昴は夏目の解説を取り次ぐ。


「まずはその包囲網を瓦解する必要があったわけですが──航空機、ましてや地上からの接近などでは1キロ圏内に入ることすら赦されずに爆撃されてしまう。それ故に、包囲網を無力化するためにはその網の内側から、何かしらの力を加えるしかなかったのです」


 それが幸正による反乱であったわけだ。

 包囲網を脱するために下道に転落させ助手席の同伴自衛隊員を抹殺、混迷に陥った状況を利用して離脱を図ったということ。


「だが皇、アンタが峨朗の決行タイミングを事前に把握できていた理由にはならない。峨朗の裏切りが発覚した時点で全体周波数は全て変更しただろ、情報漏えいを防ぐために。どうやってコンタクトを図ったんだ」

「モールス信号だ」


 解答として出てくるとは思わなかった以外な事実だった。


「モールス信号とは可変長符号化された文字コードですね。トンとツーで構成される短点と長点のみの単調な伝達手段です」

「それは知っている」

「ソリッドグラフィを確認していた所、異変が生じたのです。表示されているユニティ・コアの反応に」

「君を護送していた防衛網内部のユニティ・コアの反応が明滅を始めたんだ。通常ユニティ・コアは常に稼働している。U.I.F.もA.A.もLOTUSからの信号を受け取れなければプログラムに基づいて行動不能になるからだ」


 それはA.A.等の暴走対策だろう。LOTUSという制御システムが無力化した時、人工知能を搭載した兵器がどんな暴動を起こすか解ったものではないからだ。

 

「つまりこの不安定性は人為的な現象にほかならない。そしてユニティ・コアに干渉する理由は、ソリッドグラフィでしかその異常を察知できないが故だ」


ㅤ以上の理由から、レジスタンスに対し何者かが防衛省にすら気づかれない方法でコンタクトをとっているのだと判断したのか。


「その時点で、峨朗が絡んでいるという推察はついていたんだ」

「時限式のユニティ・ディスターバーをすべての車両に設置しておいた。プログラムと可変長コードを事前にインプットし、それを断続的に稼働させることでユニティ・コアを瞬間的に無効化、有効化させた」

「なるほど考えたものですね。その手段なら確実に防衛省に察知されない。ユニティ・ディスターバーの発動タイミングと作動時間を調節すれば、U.I.F.とA.A.の異変を察知される前に、ユニティ・コアを再駆動することが出来ますから」

「ユニティ・コアの無効化・有効化の変化はトン・ツーの可変長コードで表すことが容易です。峨朗さんが端的な作戦の伝達をモールス信号でこちらに示してくれたおかげで、護送防衛網の所定地への到着時刻と、作戦決行タイミングを正確に測ることが出来ました」


 なるほど、たしかにそういう手段と過程があったとすれば、棗が幸正と結託して裏切りの段取りを踏んでいたという疑いは解消される。

 しかしこれで懐疑心は全てではない。もっと前提的な疑念が存在するのだ。助手席にてHQと交信を図る幸正。彼が裏切ったという事実は未だ解消されていない。


「……昴様、どうして峨朗のことを少しも疑わない」


 猜疑心を執拗に駆り立てる事実は、何も幸正の予測不能な行動にのみ起因しているわけではない。

 幸正による奇襲を受けたはずの昴もまた、棗と同様に彼のことを既に受け入れる様な姿勢で物を語っている、その事実。


「昴様の右足から摘出された4.6×30mm弾、あれを撃ち込んだ犯人は峨朗じゃないのかよ」

「時雨さんの考えもわかりますが、とは言え本当に幸正様がレジスタンスを裏切ったのなら、こうして防衛省に刃向かうレジスタンスの時雨様を救出したりするでしょうか」

「そんな安直な考え方で良いのか、これまで何度レジスタンスの構成員に出し抜かれ、裏切られてきたと思ってる。今回だって防衛省の策の一環で峨朗が俺を助けた可能性だって無きにしもあらずだろ」


 再びレジスタンスに潜入し内部からの工作を図ろうとしている可能性だってあるではないか。それだのに一体何を根拠に峨朗を信じようとするのか。全く彼らの思考回路は理解不能だった。


「まず思い出して欲しいのは、僕の足から摘出された弾丸が、レッドシェルター内部においてU.I.F.にも自衛隊員にも配給されていないものだという事実です」


 そういえばそんな話があった。件の弾丸が汎用性の乏しい弾丸で、リミテッドで生産されている武器で言えば短機関銃MP7A1にしか用いることができない。ただ、MP7A1はその弾丸の汎用性の低さもあって運用されていないのだ。

 唯一知っている間では泉澄がそれを有しているが、それも倉嶋禍殃の備蓄所以だ。それ故に幸正がそれを手にする手段はないわけだ。

 警備アンドロイドの銃殺執行機構にMP7A1が導入されているため、防衛省が兵士の武器に導入していないという可能性を失念していた。


「それ以外に峨朗さんを信用するに値する材料は、ここにはありません」

「そうだろうな」

「ですが、峨朗さんの行動を解釈するに足る事実関係は出揃っています」


 酷く抽象的な回答だった。


「話してくれ」

「峨朗さんがレジスタンスを離脱したタイミングですが、それは件の水底基地での一件、いえ正確には台場海浜フロートでぼくが何者かの襲撃を受けた直後でしたね。その事実関係だけ見れば、僕を襲撃した犯人が自分であると判明するのは時間の問題、それ故に離脱を図ったと考えてしまいます。ですが、それだけではないのです。幸正さんの離脱、その前後に起きた峨朗という血筋に深く関係する事案があるではありませんか」

「……凛音の発症ね」


 天慶が閃いたような真那の発言。どうやらいつの間にか目をさましていたらしい。

 彼女は手枷の付けられていた手首を擦りつつ、自身の側頭部に指先で触れ傷の状態を確認している。


「大丈夫か? 意識ははっきりしているか?」


 気絶からの覚醒直後のため今にも倒れ込みそうになる真那の華奢な肩を支えつつ容体の確認をする。あまりに過保護な対応に感じたのか、彼女は控えめに手のひらで時雨の胸元を押し出して意識がはっきりしていることを示してくる。


「ええ、頭蓋骨に釘を打ち込まれているような痛みはあるけれど。大丈夫よ。それより、幸正のおじさんがここにいることに動揺を隠せないのだけれど」


 少しも狼狽していない様子で真那はそう発言する。そんな彼女にこれまでの会談の一部始終を話し聞かせると、わずかに目を伏せ小さく息をついた。


「そう……自分からこの潜入作戦に参戦する意思を示したというのに、私はただの足手まといになってしまったようね」

「いやそんなことはない。真那の気転がなかったら危険な状態もあったし、そもそも装甲車両で離脱する時だって真那の協力がなかったらどうしようもなかった」

「そう」


 消沈でもしているのかと思って励まそうとするが、真那はとくに感慨もないように話を流す。

 どうやら頭の傷による精神不安定性も和らいだようで、時雨に支えられる形だった彼女は自分一人で座席に腰掛けられるようになっていた。

 

「それでさっきの発症の件だが……一般的なノヴァウィルスに感染するアレのことじゃないよな」

「ええ、凛音特有の獣化にともなう症状のことね」


 確かに真那の言うとおりだ。凛音の精神状態に異変が現れたのは、件の襲撃事件の起きた台場海浜フロートでの地鎮・追悼祭の直前である。

 そういった事案が発生し、その結果幸正とクレアはレジスタンスから姿を消した──そう解釈することも出来ないわけではない。

 ましてや中央区の隔離病棟施設で再開したクレアは言っていた。


「妃夢路さんがレジスタンスから離脱して、リジェネレート・ドラッグの供給ラインは遮断してしまっていたのです。なので、私は……」

「防衛省からお父様に連絡があったのです。その、指示に従わない場合、リジェネレート・ドラッグの供給を絶やすと」


 クレアの発言が事実ならば、幸正は凛音のためリジェネレート・ドラッグを供給する手段を得るために防衛省に接触していたということになる。

 だがそれを把握しても解答の見つからない疑念が一つ残っていたのだ。どうしてレジスタンスから身を引く理由があったのかと。防衛省からの指示だとはいえ、何も言わずに離脱すれば当然疑心の種が残された者たちに芽生えてしまうというのに。


「以上の考察、間違いはありましたでしょうか、峨朗さん」

「……ふん」


 否定の言葉はなかった。


「これが峨朗さんの行動の解釈です。レジスタンスを裏切り、防衛省に寝返るためではなく、凛音さんのためにその手段を取るしか道はなかった……」

「結構な家族思いではないか、よきかなよきかな。後日信頼される父親像について伝授しよう」

「黙れ不貞親父」

「……だがその行動も、意味を持たぬ結果に終わったがな」


 幸正は流れ行くハイウェイを車窓越しに傍観しながら、どこか皮肉交じりの声音でそう独りごつ。


「どういう意味だ」

「全てが防衛省の手中に収まっていたということだ。リジェネレート・ドラッグがすべての原因だ」

「原因って……凛音の獣化に関して?」

「それ故に生ずる発症に関しての話だ」

「……なにか看過し得ぬ事態に陥っているようだな」

「簡潔に言う。凛音の発症を助長させている原因がリジェネレート・ドラッグだ」


 一瞬その言葉の意味を測りかねた。だが再度脳内で復唱してみれば、否が応でも理解せざるを得なくなる。


「リジェネレート・ドラッグが凛音に悪影響を? 凛音の発症を引き起こす要因に? だが待て、それなら俺はどうなんだ。肉体修復のために服用しまくっているんだ。凛音よりも頻繁に服用している俺が発症しないのは何故だ」

「貴様と凛音とでは根源的に相違点がある。貴様はあくまでもナノマシンの抗体を取り込んで肉体の改造を施されたにすぎん。それに対して凛音はナノマシンその物を体内に有している。その分だけ肉体内のナノマシン侵食濃度が顕著でも、何もおかしくはないだろう」

「そんなのは憶測の域が出ないだろ。それに、」

「それに、凛音が投与してきたリジェネレート・ドラッグと、貴様が服用しているそれとでは、本質的な違いがある」

「違い……?」


 新たな情報が提示されて思わず言及を収める。同じものではなかったのか?


「貴様は知っているはずだ、凛音のリジェネレート・ドラッグがどのようにしてレジスタンスに流通しているのかを」

「……防衛省からのフローね」


 台場メガフロートで確かに幸正とクレアが防衛省関係者からケースを渡されているのを目撃した。アレがリジェネレート・ドラッグの収められているものであったとしたら。

 考えてみれば以前自室で戸棚の中のリジェネレート・ドラッグをぶちまけた時、胸の中を這いずりめぐる焦燥感のような不安感に襲われた。自分の投与しているものとはなにか違う違和感。


「貴様達が目撃した俺と防衛省関係者との密会は、リジェネレート・ドラッグを入手するために必要なことだった」

「でもどうして? 何故密会のことを隠していたの?」

「聖、その疑念は最もだが、それが連中の思惑が故だったんだろう。連中が何を考えているのかはしらないが、目的のために敢えて峨朗との密会を継続していた。峨朗、君は峨朗凛音が必要とするリジェネレート・ドラッグを入手するために、連中の要望に応じざるをえなかった……そうじゃないのか?」

「……ふん」


 幸正はそれには答えない。その無口さが肯定を示していた。

 レジスタンスを裏切っていたことに変わりはない。だがおそらく幸正はレジスタンスの内情を防衛省に流してはいないのだろう。

 そもそも防衛省には妃夢路という情報源がいる。彼女が在生している以上は例え幸正が情報を漏洩しようと目論んだ所で、敵にとって有力なデータが新たに仕入れられるとも思えない。


「周知のこととは思うが、ナノマシンにも種類がある」

「四種の型だな。対核兵器用に開発されたニュークリア型、医療発展目的のメディック型。確か烏川を筆頭としたサイボーグの服用しているリジェネレート・ドラッグはこれにあたったか」

「ああ。他には発電無限機関としてのジェネレーター型がある。そして最期にインフェクト型だ」


 これは確か人体をナノマシンに変質させる発症症状を引き起こす個体であったはずだ。

 ノヴァ自体がこれにあたり世界恐慌を引き起こしているものもこれに当たる。つまり唯一の軍事兵器型とも言えるわけだ。


「凛音のリジェネレート・ドラッグの主成分が、それだ」


 これには流石に肝が潰れる。気が動転し思考が一瞬停止した。


「つまり……凛音は、凛音がアナライトになる際に摂取させられた成分を獣化するたびに投与していたってことか?」

「そうだ。先日の凛音の発症が起きて、その可能性に行き着いた」

「それで、真実を究明するために防衛省に潜り込んだのね。レジスタンスから完全に離れたのは、防衛省に不審がられないようにするため……」


 そういえば凛音の発症直後、幸正が何者かに対して『アレは本当に機能しているのか』と無線で問いただしていたことがあった。

 今思えば、それは凛音の発症をリジェネレート・ドラッグが全く抑制できていないことに不信感を抱いたが故の発言だったのかもしれない。


「これは由々しき事態だな」

「ふうむ、だが幸いにもロジェの遺伝子は未だ人間のままだ。この事実究明があと数日でも遅れていれば最悪の事態に陥っていたかもしれぬが……今後は一切インフェクト型のドラッグを投与させなければよい話だろう」

「東、聞こえていたな、伝達を頼む」

「既に済んでいます。凛音さんには釘を刺し、万が一のためにクレアさんにドラッグの回収をお願いしておきました。レジスタンスの人員を数名送らせたので、じきに本部に格納することが出来るでしょう」


 これで一安心か。幸正の裏切りはなかった。凛音の発症の要因も断った。ハプニングばかりが連鎖していたが今回の作戦の進捗は間違いなく期待以上だ。

 そして何より当初の目的であった発信機の奪取にも成功したのである。これがあれば確実に防衛省転落という大命成就に一歩近づける。


「先ずは発信機を解析しなければならないな。ジオフロントに帰投次第、直ちに解析班に回そう。東、今回の作戦に強攻策として動員していた部隊の状態はどうなっている」

「……そうだ、風間は大丈夫なのか?」


 真那から発信機を預かりそれを丁重にアナログ格納器に収めた棗。彼の言葉を聞いてようやく失念していたことに思い当たった。

 強攻策が発動した時、泉澄は一成に押し負け地下運搬経路に叩き落とされた。あそこは海水が大量に雪崩れ込んでいたはずだ。命の保証が少しも出来ない状況にあるのではないか。

 

「風間殿の安否なら確認できていますぞ。地下運搬経路を流され陥落したターミナル周辺に埋まっているのを確認し、こちらの部隊を向かわせました。そろそろ先行がリリーフの伝達をしてくる頃合いですな」

「そうか……」


 最悪の事態を想定していたため安堵の息が思わず漏れる。


「そう言えば泉澄はキメラに乗っていたが……あれを動かせたのか?」


 記憶が正しければキメラは三段階セキュリティで稼働制限されていたはずだ。

 掌紋認証、網膜認証、声紋認証。倉嶋禍殃が設置したそのセキュリティを唯一解除できたのは確かに泉澄だったが稼働実行段階にまでは至っていなかったはずだ。


「土壇場で試したわけではないんだ。数日前から風間には試乗をさせ、戦場での実用段階にまで成長させていた。結局、山本一成には敗北したが」

「あの自称アダムのチャイニーズは、二足・四足歩行兵器の操縦に関しては文句なしのエキスパートですからね。仕方ありません」

「何であれ、今回の作戦でこちらの損耗もあったが、確実に状況打破に繋がる布石を得ることが出来た。後は解析班の解析を待ち……防衛省撲滅への快進を始めよう」

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