第93話

「現状アイドレーターの居場所は特定できていない」


 ソリッドグラフィを囲って会議は進行していた。進行役の棗はホログラムを指先で操作しながら解説を続ける。

 

「柊奪還作戦の際、俺はレッドシェルター内部に出現した倉嶋禍殃くらしまかおうの動向をこのソリッドグラフィで追っていた。奴はシール・リンクがLOTUSにデバックウィルスを打ち込み、高周波レーザーウォールを無効化していた内に潜入したものだと考えられる」


 時雨たちの潜入と同時期か。


「シール・リンクが解除した高周波レーザーウォールは南部方面だけだ。だが、俺たちにも防衛省にも気付かれずに潜入することは不可能ではなかっただろうな」


 棗の解説に和馬と船坂はそれぞれ思考を巡らせる。


「倉嶋禍殃は風間泉澄の監禁されていた監獄エリアに侵入し、看守を殺害、そのまま逃亡を図った。ここで疑問なのが、何故奴は風間泉澄を連れて逃げなかったのかということにある」

「単純にそんな余裕がなかったんじゃねえのか?」

「その可能性も捨てきれないがそれにしても目的が不鮮明な以上、疑問は残る」


 確かに言われてみればその通りである。倉嶋禍殃は時雨を殺せる余裕すらあったのに泉澄を奪還しようとはしなかった。

 禍殃の潜入の目的が泉澄の奪還であったことは間違いがないというのに。

 いやもしかしたら前提からして間違っているのだろうか。禍殃の目的が泉澄の奪還ではなかったのだとしたら。


「奴の目的が何であれ、俺たちの目的は変わらない」

「できれば、共闘したかったものだがな」

「ふん……連中が第三統合学院でノヴァによる襲撃を起こさなかったのなら、まだそれもあり得たのだがな」


 船坂の発言をくだらない戯言だとそう一蹴するものかと思ったが、幸正は肯定し腕を組んで眉間にしわを寄せる。


「アイドレーターの勢力がどれだけ広がっているかがいまだに判別できていないのが怖いな」


 学園への襲撃、また今回のレッドシェルター潜入に関しても禍殃は自分か風間泉澄の単独作戦を行った。輸送車両の襲撃にはその二人で現れたが。

 そこから考察するに構成員の母体数はそこまで多くないはずだ。


「確かに学園では、スタビライザーと呼ばれる薬物を出回らせることで、学生に暴動を起こさせていたな。あの行為自体はアイドレーターの布教的な意味合いもあったのだろうが……規模は大きくなさそうだ」

「とにかくアイドレーターは明確に俺たちとは指針を違えていることを表明した。俺たちにとって害悪であるノヴァをフォルストと呼称して信仰していることが、何よりもその証拠だ。何かが起きてからではまずい。早急に連中を叩き潰す必要がある。……だが根本的な問題として、現状何も奴らの情報を得ていない」


 棗のその言葉に皆が押し黙る。そうだ。アイドレーター日報なる物から、泉澄が第三統合学院に潜入していることは憶測できた。

 その学園自体が陥落し今は使い物にならなくなっている。泉澄も禍殃も姿を晦ましその存在は闇の中だ。


「一応私の方からも報告しておくけど、防衛省の方でも何も掴めていないようだねぇ」


 それまで黙って会議の進行に身を任せていた妃夢路。サングラスを指で押し上げつつ電子ファイルを反対の指でめくりながら呟く。


「私は妃夢路様のように諜報員的な役割で、レッドシェルターに籍を置いているわけではありません。ですのでもとより情報網は狭いのですが、やはり何もめぼしい情報は見受けられませんでした」

「シエナ様の言うとおりだが」


 強いて言えば倉嶋禍殃が元防衛省の人間であり、かつ階級もちだったという情報くらいだ。とルーナスが補足をする。


「倉嶋禍殃は、もともと科学開発局ナノゲノミクス局長だったようですね。今は佐伯・J・ロバートソン様がそこに籍を置いているようですが」


 シエナとルーナスの提示した情報は時雨も知っている。実際時雨が救済自衛寮に孤児として在籍していた時、彼はよく自衛寮に赴いてきていたのだ。

 その目的は、おそらくは救済自衛寮にて養成した身寄りのない子供を研究の材料に使うため。研究というのは十中八九ラグノス計画に関わることだ。


「ですがそれ以前の階級は、陸上自衛隊将補。階級もちではありますが、そこまで高級ではないというのが実態でした」

「なんでその倉嶋禍殃とかいうインテリ白衣野郎が、そんな大事な局の一番偉い人に選ばれたんかね」


 シエナの情報に和馬が疑問符をその顔に張り付けて対峙する。

 通常自衛隊の昇級などそう簡単にできるものではないだろう。リミテッド新法が交付されてから時雨は防衛省に属したため、詳しいシステムは分からないが。


「それは現状ではよく解りかねますね。研究内容が関係していたのかもしれません。ただ気になることに、今局長をしている佐伯・J・ロバートソン様なのですが……その頃は、補佐であった山本一成様の部下であったという情報が見受けられました」

「階級が下位の人間が、上司よりも高級になることは珍しくはない」


 例のごとく妹の発言に兄の補足が入る。


「だがナノゲノミクスといえば、防衛省の研究科の筆頭である局だ。その局の役員がここまで大きく変動したという記録は、見過ごすには少々目に余る事実だといえる」

「そうですねお兄様。それに倉嶋禍殃が、防衛省をやめて、アイドレーターに所属してる理由も気になります……」

「いろいろと気になる事案ばかりだけれど、それも現状では憶測の域を出ないことね」


 考察が繰り広げられる中、このままでは堂々巡りであると判断したのか真那が節目を設けた。

 どれだけ考察しても倉嶋禍殃が明確な敵であることには変わりないのだ。

 ならば今すべきことは巡り続く懸念や果てしのない勘考などではない。アイドレーターの行動を抑えるためにその殲滅をするしかない。


「振出しに戻るな」

「ああ、確かに今俺たちが立ち会っているのは振出しだ。ここまで紛争の域が広がってしまった前の、アイドレーターの脅威性を見抜けていなかった時と同じだ」


 時雨の心労を棗は肩を竦めることで同調してくる。


「今私たちがすべきこと、それは他ならないわ。まずアイドレーターの居場所を突き止めること。それも今度は潜伏先ではない。本拠点を突き止めて根本から叩き潰すこと」

「そうだな聖。そのためには今後も情報収集が必要だ。同時にこれまでよりもさらに慎重を期す必要が出てくるだろう。俺たちは既にほとんどの人員が防衛省に顔割れしている。まだマスメディアなどで公開されていないにせよ、どこかで俺たちの情報が漏れている可能性もある。今後は民間人の目すら気にして行動しなければならない」

「厳しいわね……」

「俺たちの置かれている状況が、本来あるべき状態に移行しただけだ」


 これまでレジスタンスは表舞台にほとんど立ってこなかった。しかし今後は違う。完全なる革命には周囲の反発はつきものである。


「レジスタンスが本格的な蜂起を開始すれば、それだけ民の目に触れることにもなる。こうなるのは必然だったといえるだろう」


 彼の発言に皆が神妙な面持ちを浮かべた。そうだ、最初からこっち側の人間だ。一般人に理解してもらうために活動しているのではない。諸悪を断つために戦っている。

 周囲の目など気にしていてはこんな大仰な目的は達成できない。今が踏ん張りどころなのだ。


「また、例の侵入者に関してはいまだに消息をつかめていない」

「侵入者ってのは、旧東京タワーに出現したあの反応のことか?」

「そうだ。あれ以来定期的な施設内の捜索に励んではいるが、今のところ何も不審物は見つかっていない」

「……そういえば、そのことに関して少し話すことがあったんよ」


 幸正の言葉を聞いて大事な要件があったことを思い出したのか。和馬が柏手を打って話を切り替える。


「いろいろなことが重なりすぎて失念していたんだけどよ。昨日燎に支援物資を供給しに行ったら、おかしな話を聞かされた。柊奪還の作戦決行時、この施設から見慣れない人物が出ていくのを目撃したらしい」

「見慣れないだと? それは燎鎖世にとっての見慣れないか? それとも俺たちにとって、か?」

「どっちもだ。燎は、そいつが白い服を着てたって言ってたな。白い服を着てんのは、レジスタンスじゃスファナルージュ兄弟くらいだが。その時は、柊の公開処刑までのタイムリミットが迫ってた時だから……おまいさん方はいなかったはずだよな」

「確かに、私とお兄様は、二十四日は唯奈様の公開処刑が勧告されてから、ずっとレッドシェルター内部にいました」


 棗より襲撃作戦の旨を聞き途中で合流をしたようだが、この本拠点には戻ってきていないとのこと。


「他に白い服なんて着てる奴いねえよな。それから、そいつは俺たちが使ってる地下運搬通路を経由せずに、直接タワーの外に出たらしい」

「そもそもとして、白い服などと曖昧な証言では何とも判断しがたい。何より、燎鎖世の言葉に信憑性があるのか? そこからして、私は疑問でならない」


 ルーナスは疑いを乗せた言の葉を放つ。

 実際に鎖世に接触していない隊員も少なくはない。そう言った人間からすれば、いまだ鎖世はその目的が不明力な危険因子に映るのだろう。

 しかして、もはや鎖世はレジスタンスに敵対するような立場にはない。彼女の威厳と尊厳のためにも時雨はその旨を告げる。

 

「これまで何度も助けられてきたし敵ってことはないだろ。少なくとも俺たちを貶めようとしての虚言ってことはないはずだ」

「ふん。そのような楽観が混迷を招くのだ。とはいえその証言は気になるな」


 白い服の男が施設から出るのを目撃した、と教えてくれた時の鎖世。

 基本的に何を考えているのかわからない異次元ポエマーであるため、実際のところどこまで確信を持っていたのかは判断しえない。

 だがもし彼女の言っていたことがすべて事実ならば……、


「ふむ。話を伺った限りですといまいち確証は持てませぬがな。以前ソリッドグラフィで観測したという侵入者と、同一である可能性がありますな」


 豪快な髭をごつごつした太い指でさすりながら唸る酒匂。巨人を思わせるその体躯だがそのたたずまいはどうしてか紳士的にうつる。

 酒匂の推察にシエナは小さく頷いて同意を示す。


「そう考えると、その侵入者は観測した時からずっと旧東京タワーに潜伏しているということになりますね。もしくは常にこの施設に出入りしているか」

「最近はこの拠点に滞在することも少なくなっていた。俺たちの不在を狙っての侵入という線ならばあり得ない話ではないだろう。そうだとして、侵入者の目的は一体何なのか」


 気になるところは結局そこだ。侵入者は一体どこの所属の者か。防衛省かアイドレーターか、もしくは一個人か。

 いずれにせよこの拠点に侵入する目的といえば、十中八九レジスタンスの内部事情を探ることが目的となるだろう。他には物資などを外部に流す目的か。

 

「しかし拠点にある非常食や軍備品、弾薬などは全て記録されています。報告なしに持ち出すようなことがあれば、すぐにわかるはずなのですが……」

「一切持ち出された形跡は見当たりませんな」


 物資の保管・管理などを任されている昴たちが頭をかしげる。ならばレジスタンスの内部情報を盗むことが目的か。そうだとしてもいくつか疑問点が残る。


「この拠点には確かに俺たちの所有する情報などすべて保管してはいる。その保管用デバイスにも一切アクセスした形跡がない。そもそも、それが目的ならば定期的に、もしくは滞在してここにとどまる必要性が存在しない」

「まったくもって、目的に見当が付きませんな」

「何かしらの目的があることは確かです。そうでもなければ、こんな場所に忍び込む意味がありませんから」


 とはいえ外面的には潜入されたような形跡すら見当たらない。もしかしたらこのタワー内部に爆弾でも仕掛けられているかもしれない。

 念入りに再度拠点内部の捜索を決行すべきか。というのが昴の意見であるようだ。


「東の言うとおりだな。これより役割の分担をする。各々、現状で受け持っている任務の確認をしたい。いまだ完遂していない、もしくは不履行に終わった任務があれば報告しろ」


 時雨に課されていた任務はすでに満了している。正確には、片や遂行しもう片方は実現不可能になった。

 すなわち織寧重工での商談に伴った潜入に備えての紲との親交を深めること。そして校内に潜入していたアイドレーター構成員を割り出すこと。

 後者に関してはもう後の祭りだ。次の任務は特定などではない。その殲滅なのだから。


「皇、貴様に指示されていた任務に関してだが」

「M&C社との外交か、どうなっている?」


 幸正の言う任務とはM&C社からの物資の援助に関することだろう。

 あれだけ悪戦苦闘してM&C社にコンタクトを取ったのだ。あの苦労と犠牲に見合った対価が望めなければ、あの事件で命を落とした者たちに顔向けなどできない。


「物資運送に用いる輸送用機だが、洋上船ではなく潜水艦ということで間違いはないな?」

「どうして潜水艦なのです?」


 父の任務内容に関して何も聞かされていないようでクレアは恐る恐る尋ねる。

 それに答えたのは棗だ。


「洋上では、防衛省に観測される可能性があるからだ。防衛省がイモーバブルゲートに搭載している電波探信機は、イージス艦に搭載しているSPY-1レーダーと同等だ。半径450キロ以上の地点までの移動物を観測できる」

「水中を移動する潜水艦ならば、ソナーでも搭載されていなければ観測できん。それゆえの潜水艦だ」

「でも、ここまで運ぶには、結局海場に上がる必要があるのでは……」

「黙れ」

「ひうっ……」


 質問の多いクレアを窘めるように幸正は一喝する。一喝というような激しさはなかったが、小心者のクレアには覿面てきめんのようで。毎度のことながら娘に厳しい父親である。


「それに関しては心配ありませんぞ。リミテッドへの入港の仕方は、何も洋上からに限った話ではありますまい。23区都心南部の末端、台場メガフロート貿易港には、洋上だけでなく海中からも物資を運搬できる経路があるのですぞ」

「水中貿易ラインですね」


 酒匂の説明に昴が補足する。しかし時雨の認識にそのような貿易ラインは存在しない。


「基本的に交通ラインは高架モノレールで賄われています。ですがリミテッド建築以前、日本は地下運搬通路を用いて、物資の搬入などをしていたことはご存知ですか?」

「ああ、知っている」

「どうして地下を使っていたかというと、それは海外諸国との貿易を簡略化させ、合理化させることが目的でした。地上での運搬は道路の交通状況によって遅延したりしてしまいますから。それに対し、地下に蜘蛛の巣状に張り巡った運搬ラインならば、そういうストレスなく物資の運搬が可能だったんです」


 レジスタンスが普段活用している地下運搬路。そもそも人間が交通には用いない地下に、あんなものがあることを不思議に思ってきたが。


「地下がメインで貿易に使われていたことからも解るように、一度洋上で港湾に輸送船を停泊させるのは非効率でしてな。結果、船から降ろす行程などを一切省くために、重要物資などは潜水型輸送艦を使い、海中からそのまま日本国に運搬できるシステムが搭載されたのですな」

「な、なるほどなのです……」


 詳しくは分からないが、つまりM&C社からの物資調達はそのルートを用いるということか。

 確かにその方法ならば、防衛省に観測されずに物資を輸送してもらうことができる。物資を日本に届けてさえもらえばもう地下を経由してリミテッドに持ち込むことができるわけで。


「それに伴って、先方から懸案の連絡が来た」

「詳しく話してくれ」

「リミテッドの防衛網は突破できるにしても、別の問題があるということだ」

「別の問題?」

「運搬の弊害になる物だ。海にはリヴァイアサンが生息している」


 それを聞いて納得する。リヴァイアサンはノヴァの中でも最も殲滅力の個体値が高い。第三統合学院の一件でもアイドレーターが顕現させたのはそのリヴァイアサンだった。

 もちろんあの時の個体は災害級ハザードと呼ばれる通常よりも巨大な存在だったのだが。そうでなくとも一体で一個中隊並みの戦力があると踏んで間違いはない。


「何の保険もなく、リヴァイアサンの群生の中を進むのはリスクが大きすぎる、ということだ」

「当然の判断だな。その点は既に対策を練ってある。東、例の物は調達できたか?」

「はい、指示されました通り、用意できています」


 一体なんの話をしているのか。


「デルタサイトです。海外諸国が日本の防衛省から配布されたデルタサイトは、領域全土を護るには不足しています。それ故に余剰が存在しないのです。ですのでぼくたちの方から、それを与えるしか方法がなくて」

「だが、どうやってデルタサイトを?」

「幸い、防衛省に皇太子として隔離されていた時も、デルタサイトの情報は取得していましたので。事前に数十機ほど回収していました」


 文化祭でノヴァが大量出現した時に新しいデルタサイトを搬入できなかったのは、レッドシェルターから上層部に感づかれることなく運び出すのに相当面倒な手続きがあったためという。最近ようやく拠点まで運搬できたようだ。


「M&C社が資源運搬に用いる船は、バージニア級原子力潜水艦ですな。全長は100メートル超ですが、輸送用の貯蔵スペースは巨大です。それを六艦用いての運送となりますから、デルタサイトもそれだけの数は必要でしょうぞ」


 さしあたっての問題は解決ということか。そのデルタサイトをどうやって海外に届けるのかもはなはだ気になるところだが、何かしらの対策は取っているに違いない。

 それよりも気になるのは持ち込んだ物資をどこに用いるかだ。


「皇、いい加減教えてもらえると助かるんだが……M&C社からの軍事物資は、一体どこで活かすというんだ?」

「そうね、そろそろそれについても話してくれると助かるわ」


 基本的に棗の指針に口を挟まない真那もさすがにしびれを切らしていたようで。


「何度も聞いてはぐらされてきた。だがもう軍資源が届くまで時間がない。あと数日ってところだろ」

「M&C社のバージニア級原子力潜水艦が台場、海中貿易港に到着するのは、10月29日の23時だ」

「明後日ね」

「皆も知っているようにこの拠点は旧東京タワーだ。当然タワー内部に拡張できるスペースはない」


 とはいってもタワーの外周区資源を配置するのも不可能だ。

 確かに周辺数百メートル圏内は更地になっているが、それは監視体制によって生み出された空間。軍用車両の一台でも置けば速攻で防衛省の連中に目をつけられる。


「本当に物資の使い道はあるのか?」

「案ずるな。それについては明日全体に話すつもりだ。今は準備段階なんだ。君たちに独断専行に走られても困るからな」


 そう言われては言い返すことなどできなかった。

 納得はできないものの確かに棗の懸念も理解できる。極力不安の種は摘んでおくべきだ。


「脱線していたが、各々の役割に関して指示を出す」

「俺は予定通り、M&C社関係か?」

「ああ、峨朗はそうしてくれ。船坂と妃夢路、東と酒匂は防衛省の情報網からアイドレーターの足取りをこれまで通り探ってくれ」


 コンソール上で棗が手を払うと、それぞれのビジュアライザー端末に向けてホログラムの圧縮データが送信される。


「聖と和馬、峨朗凛音はこの拠点内部の侵入者の捜索をしろ。燎鎖世の証言時点から何者かが拠点内に改めて侵入していないのであれば、もう誰もいないはずだが痕跡が残っている可能性がある。ほかの人員には、ソリッドグラフィにて部外者が侵入していないか逐一確認させる。峨朗クレア、君はその者たちの指示に従い、雑務をこなせ」

「は、はい」


 幹部の娘というだけでこの会議に参席しているクレアは、基本的に何かしらの指示を出されることはない。だが今回に限ってはあくまでも監視というごく簡単な任務を与えられていた。

 これは彼女を戦闘員として動員するための布石というわけではあるまい。それほどまでに人員が足りていないということだ。


「俺は?」

「烏川、君はまず身辺処理をするのが先だ。第三統合学院での一件、そして今回の事件。いろいろな人間といざこざがあっただろう。その解消に励め。他の者を引き連れても構わない」

「はぁ」


 何故棗がそんな気を利かせてくれたのかはわからない、が。話をつけなければいけいない人間は沢山いる。いい機会だろう。

 オフにしてもらった今日のうちに、そう言った処理は済ませておいたほうがよさそうだ。

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