第34話
「校舎内に異常はなし、ね」
時雨たちが大学部に行っている間に姫夢路が台場にまで来ていた。一般寮や宿泊施設はないためこっちで生活するわけではないらしい。さすがに学生寮を使うわけにもいかないわけで。
彼女は時雨含む潜入人員の初日報告を聞いて案の定かと眉をひそめた。
「念のために下校時に、学生が皆いなくなった時点にインターフィアで校舎全体を探査してみた。だが、監視カメラや盗聴器の類はなかった」
「専用機器で確かめたけど特殊な周波数も存在しなかった。発信機の類もないみたい」
「となると、アイドレーターが大規模な作戦に出るのはしばらく後かもしれないね」
「あんな大胆な犯行予告をした後だ。さすがに今は防衛省の目も至る所に張り巡らされている。ある程度の期間が置かれるだろうな」
時雨の部屋に集まっている潜入人員、スファナルージュ兄妹、妃夢路、それから峨朗姉妹。皆して卓上に展開されているホログラムウィザードを囲んでいる。液晶には船坂の顔と棗の顔が映っている。
今のところめぼしい手掛かりは何もなかった。
「シエナ、地下について聞きたいんだが」
「地下ですか?」
「ああ、学園の地下に、かなり厳重なセキュリティで守られた扉があったんだがあれは何なんだ?」
「ああ、それでしたら、アイドレーターは一切関係ありませんよ」
「なんのための物なの?」
真那もまた同様にセキュリティゲートに関して気になっていたようだ。対しルーナスがシエナの代わりに口を開く。
「用途は不明だ。あれはもともと存在していたものだ。第三統合学院が建設される前からだ」
「ということは、数年前から台場公園の地下があったということか」
「ああ、もとよりあの厳重な扉で守られていたがな。あれは防衛省が設置したものだ」
「防衛省?」
「はい、知りませんか? エリア・リミテッドにはすべての土地に、一定の間隔で用途不明の地下空間が存在します」
その話は聞いたことすらない。
「時雨様はレッドシェルター内部で生活されていましたからね。真那様たちは、見たことがあるのではないでしょうか。時雨様が目にしたものに類似した扉を」
「もしかしてそれって、旧東京タワーの地下にもあったアレのこと?」
「ああ、烏川時雨が見たのって、あれと同じやつなのね」
時雨が話についていけない中、女性陣は納得したように柏手を打った。
「旧東京タワーの地下にも時雨さんが見たという地下への扉があるんです。そこだけでなく、他の自治体や施設の地下にもあるんです」
「先刻も言ったとおり、何のための扉か不明だ。中に何があるのかもな」
「あの扉は、開けちゃいけないんです」
クレアでも知っている事実であったようで時雨の無知さが際立つ。しかし今はそんなことを気に止めるときでもなく、それが防衛省の指定するものであるかの確認をとる。
「ああ、接触禁止区域SS指定だ。もしあの内部に許可なく入ろうものならば、警備アンドロイドによる銃殺処分が施行される。それ以前に、セキュリティレベルが最高のレベル8指定されている。レジスタンスの解析能力では開けることすら不可能だが」
「レベル8と言えば、LOTUSのセキュリティと同じじゃないか」
「ロータスとは何なのだ?」
聞きなれなかったのか黙っていた凛音が見上げてくる。
「レッドシェルター内部に帝城があるだろ」
「悪い奴らの本拠地なのだろ?」
「ああ。その内部に、超巨大なコンデンサがある。帝城の支柱になる形でだ。そのコンデンサには、LOTUSというAIがインプットされている」
「エーアイ? おサルさんか何かなのか?」
「人工知能のことよ。作られた意識って言った方がいいかしらね」
「ネイみたいな感じなのか?」
「仰る通りです凛音様。いかにも私はLOTUSと同じく、人工知能ですね。ですがあれと一緒くたにされては困ります。あれはただエリア・リミテッドのセキュリティシステムを制御することしか能のない人間に買われている家畜です。それに対し、私ネイには意思が存在します」
「お前意思あったのか」
「あんまりではないですか時雨様。私がプログラムされた情報だけで常に時雨様と会話をしていると? あれだけ常日頃から時雨様を罵倒し、下ネタまで挟んでいるというのにですか? もしそうならば、私を開発した人物は相当のマゾフィストであり、かつ変態野郎ですね」
「自分でそこまで言うか」
なんであれそのLOTUSというAIにアクセスできるセキュリティ。それもまたレべル8の権限なのである。
LOTUSは言うなればエリア・リミテッドの防衛機構全てを掌握している司令塔のようなものだ。イモーバブルゲートやレッドシェルターの高周波レーザーウォールを始めとした防衛網も、全てロータスの自己防衛システムが維持させている。
噂ではU.I.F.のアーマーに内蔵されているユニティ・コアも、LOTUSの発信する命令信号を受信するためのデバイスだという話もある。
あくまでも噂に過ぎないが、そうであるならば今のエリア・リミテッドにとってLOTUSは絶対に欠かせないツールということになる。
「そのLOTUSとやらはすごいのか?」
「レジスタンスの情報網では、そのLOTUSがノヴァを操作してるって可能性が挙げられてるわ」
それは初耳だ。まあ防衛省がそんな情報を構成員に流すはずもないが。
「しかしそんなセキュリティがかけられているとなると、アナライザーでサイバーダクト解析するのは難しそうだ」
「そもそもアナライザーでインターフィアすれば、その痕跡が残りかねません。その扉を調査されれば時雨様がそこにいたということが敵に察知されかねません」
「それはあり得ますね……あの地下への扉には自動発信プログラムが搭載されています。誰かが開けようとでもすればリアルタイムで察知されます。その危険を冒すのは得策ではないかと」
内部に何が存在しているのか。非常に怪しくはあるものの特定される危険を冒してまで解明する必要もなさそうだ。少なくともアイドレーターが関与していないのならば今はまだ保留でいいだろう。
「そう言えば、私たちのゼミにNEXUSのヴォーカルがいたわね」
「それは先ほど真那様から連絡をいただいた際に、リストを確認いたしました」
燎鎖世に関するレジスタンスの解釈として、防衛省の潜入させた人員であるとは考えにくいというものにおちついたようだ。
昨年度の入学式時点における名簿から燎鎖世の名前が出た。改竄の可能性もあるもののまったくの痕跡がなく。そこから考えてみても時雨のゼミにいたのは全くの偶然の可能性が有力だということらしい。
「燎鎖世への接触は?」
「以前に決定した通り、今は接触を極力避けるのが得策だろう。そのゼミにいたのが偶然だとしても、NEXUSの存在そのものが防衛省の手によるものの可能性は生きている。俺たちをおびき寄せるためのエサとしてだ」
「それが得策だろうな……」
「それでその、今後はどうするのですか?」
棗と船坂の問答が途切れるのを見計らっていたのか、控えめに脱線していた話の軌道修正をするクレア。
「NEXUSに関しては現状維持で構わないが、アイドレーターはそうもいかない。君たちで、特定することは可能か?」
「ええ。当初の予定通り、時雨のアナライザーの力を使うわ」
インターフィアによる、学生のビジュアライザー内部の情報解析か。気が進まないが、数十人の学生の中から構成員を見つけ出すには、それが一番有力な方法である気がする。
「でもどうやる気だい? 人前でインターフィアを展開するのは危険だろう? アナライザーは一見ただの拳銃だからねえ」
「まあ一応作戦がないわけじゃない」
「そうなのか」
「正直気は乗んないけど」
ため息とともに唯奈は床から立ち上がる。ベッドから足を投げ出している凛音の目の前に屈み、目線に合わせながら問いかける。
「アンタ、この作戦のためにどこまでできる?」
なんだその前ふり。
「どこまでもできるぞ? 皆のためになるのだろ?」
「この作戦のためには、まず解析する学生を他の学生たちから隔離する必要があるわ。インターフィアを他の奴に見られないようにね」
「そのために凛音か? 何をさせるんだ?」
「……釣るのよ、男子学生を。この峨朗凛音で」
一瞬その言葉の意図を図りかねる。
「私たちは学生たちからしてみれば相当不審な編入生よ。なんと言っても、理事であるシエナの力を借りて裏口入学したんだし。それだけじゃない。スファナルージュ・コーポレーションのマスコットである峨朗凛音も混じってる。私たちが普通に呼んだところで、何の不信感もなくおいおいと来るバカはそういないでしょうね」
熱狂的なファンの多い凛音の力を借りるわけか。凛音に呼ばれたとなれば興味本位や好奇心で会いに行く学生も多いだろう。
「まあそんな理由で呼び出すのは得策ではないけど、それとない理由を付ければきっとくるでしょ。男なんて単純だし」
「酷い言われようだな」
「だがよ、それで釣れるのは男子だけだろ? 女もそりゃ、そのちっこいのに呼ばれたら行くやつもいるとは思うが、全員は無理だろ」
「ええ。だからアンタにも協力してもらうわよ、和馬翔陽」
「……は?」
よもやこの話題の矛先が自分に向けられるとは思っていなかったのであろう。和馬は頓狂な声を漏らし反射的に後ずさる。
「協力よ、協力。アンタが女子学生を釣るのよ」
「は? 何言ってんだワンス……どうやって釣れってんだ」
「ワンストライカー呼ばないで。そこの峨朗凛音と同じ方法に決まってんでしょ。幸いアンタ、女子たちには人気だったみたいだし。私には理解できないけど」
教室で女子に囲まれている和馬を見て『丁度いい』と言った唯奈の意図が解った気がした。
「覚悟を決めた方がよろしいかと、翔陽様。まあそのチャラオな風貌から察しますに、常日頃から女性を暗闇に連れ込んでそうですが。あんなことやこんなことな遊戯カッコ意味深に興じられているでしょう? それを校内でやればいいだけです」
酷い偏見である。シエナも時雨と同じく和馬に対し同情心が芽生えたのか控え目に首を小さく振る。
「校内であまり低俗な方向に風紀が乱れるのは、理事としては看過しかねますが」
「常識人がいて助かるぜ」
「ですが面白そうなので、今回は見逃しましょう」
「おい薄情理事……はぁ、まあ分かったよ」
無責任なシエナの発言に和馬も覚悟を決めたようだった。
「えっと、決めることはこれで終わりです、ね」
「いやもう一つある。烏川、例の件はどうなっている?」
「例の……織寧のことか。まああんまり芳しくはないな」
接触しろとは言われたものの仲良くなることなど時雨は無理な気がした。
防衛省に入る前も時雨は救済自衛寮という閉鎖的な空間で生活していた。真那と言う心の通わせる相手がいたとはいえ、他に仲のいい人間なんて数えるほどしかいなかったわけで。
そんな交友関係の構築の基礎すら築けていない時雨に、いったいどうして棗はその任務を任せたのかと甚だ理解に苦しむ。
「そのことだが、期限がある」
「期限?」
「10月9日だ。その日までに交友関係を築け」
「9日って、あと半月か……何故だ」
「10月10日に織寧紲の力を借りることになる。そのための下準備と思ってくれ」
「おい待て、レジスタンスの活動に織寧を巻き込むのか?」
「安心しろ、そういうわけではない。織寧に接触する理由は、本人ではなく織寧重工グループに接触するためだ」
そうだとは思っていた。民間人に接触するということ自体が異例なのだ。
となると棗の目的はおのずと限られていた。言うまでもなく織寧重工グループへの接触だ。軍用A.A.や警備アンドロイドを開発生産する織寧重工グループは防衛省に繋がっている。そこから考えてみても棗の考えていることはなんとなく読めた。
「それから、もう一つ伝達事項がある」
「先日の、ホームレス隔離施設への潜入任務に際して、俺たちは防衛省の介入を受けた」
報告は船坂が引き継ぐ。
「TRINITYの山本一成の操作していたアンドロイドとドローンによってだ。その際に、あの施設に、レッドシェルター内部からナノテク弾頭が落とされたことは覚えているな?」
忘れるはずもない。あの時の判断が間違っていたら。指向性マイクロ弾による抹消に成功していなければ。時雨たちは全員ナノマシンの浸食を受け死亡していたことだろう。
「烏川が抹消した弾頭だが、その一部が、地面に到達していた」
「……!」
「安心してくれ、その規模は小さかった。質量にして2、30グラム程度のナノマシンだ。外気に触れ酸化することで、数十秒で消滅した」
重要なのはその時に死傷者が出ているのかだ。
「幸いあの区画のすぐ近隣には住民は生活していなかったからな。おそらく犠牲者はないだろう。だが、たった数十グラムでも、半径100メートル近くが浸食された」
「防衛省が扱っているナノマシンってのは、それくらい危険な物だってことさねえ」
電子タバコをふかしながら姫夢路は小型の据え置きホログラム投射装置を弄っている。
「これを見るといいよ」
装置上には何やら直線型のホログラムが展開されていた。固定砲台のような外見だが、だがそのフォルムには無数の幾何学模様が刻まれている。二機一組のレールが上空に向けて掲げられている。
「デルタボルト、レールガン。ローレンツ力で、弾頭を加速し打ち出す装置さ。EMLとも呼ばれてるね」
「この大きさだと、かなりの射程がありそうだけど……」
「デルタボルトの射程は、使われる
「実際に対象に当てることを考えると、有効射程は400というところだろうが。だが、それでも……」
「当然、港区の私たちの本拠地も射程内というわけね」
妃夢路がウィンドウを消す。デルタボルトに対する懸案は何も払拭されていない。こんなものをぶち込まれたら本拠地は一瞬にして崩壊、消失してしまう。
「そういうわけだ。早めにこの危険物を排除する必要がある」
「潜入するのか?」
「対応策が講じられなければ、最悪その手段も選択肢に入れなければならない。覚悟はしておけ」
そうして船坂と皇の顔を映していたウィンドウを消灯した。
皆が顔を見合わせる。それぞれ複雑な表情をしていたが一様に困惑し動揺していた。当然の反応だろう。
「それじゃ、私はお暇させてもらうさ」
「私たちも失礼させていただきます。皆様、明日からの作戦の方、よろしくお願いいたしますね」
「さあシエナ様、早くこのような薄汚い部屋から出ましょう。シエナ様のお体に、烏川時雨のような下衆の醜悪な臭いがついてしまうようなこと、あってはなりません」
「もう、お兄様。ことあるごとにそうして時雨様に嫌味を言うのはやめてください」
そんな会話をしながら二人は妃夢路に次いで部屋から出ていく。いつの間にか真那もいなくなっていた。だが唯奈はデスク用の椅子に足を組んだまま立ち上がろうとしない。
「で、今更だけど、二号、アンタなんでここにいんのよ」
「ご、ごめんなさい」
威圧的でもない唯奈の問いかけだったがクレアは怖気ついたように縮みこまる。ガスマスクで顔を隠しそこから唯奈の顔色を窺っていた。
「別に怒ってないわよ」
「凛音さんがこっちに来てしまったので、お父様が、私が世話を見るようにと」
「ペットと飼い主かよ」
「まあ、あながち間違ってはないわね」
「で、結局どういうことなんだ? 凛音の様子見に来たのか?」
「はい、私も宿泊することになるみたいです」
なるほど凛音の通学を容認したはいいが、やはり本部の連中も懸念してるのだろう。凛音が何かやらかさないかと。その点クレアは内気だが凛音よりもしっかりとしている。凛音の世話係としては最適だろう。
「これでようやく峨朗のおっさんの目を気にせずに、安眠できるようになるわけだ」
「と、いいつつも凛音様の無防備な寝込みを襲えなくなることに萎え萎えな時雨様でした」
「アンタ、まさか」
「何もしてない」
「あの、それなんですが……ごめんなさい」
クレアはガスマスクを置いて何やら大きめな鞄を差し出してくる。申し訳なさそうにその鞄越しに時雨を見上げていた。
「私もその、時雨さんのお部屋に……」
「おめでとうございますロリコン野郎時雨様。夢のロリっこハーレムな学園生活が待っていますね。自首、いえ斬首してください」
「未遂だ」
「現行でUMN細胞数値の異常値を叩き出してるではないですか。おかしいですね、何故警備アンドロイドが来ないのでしょう」
そう言えばベッドが二つに増えていた。てっきり凛音の分で二つとシエナが気を使ってくれたのだと思っていたが。
「ちょっと烏川時雨、私と部屋交換しなさい」
「ここ男子寮だぞ……」
しかして流石に男子寮に少女2人を住まわせるのは風紀的にも問題である。そう言った理由から峨朗姉妹は唯奈に連れられ女子寮へと消えていった。
◇
「兄さん、怪我は完治したの?」
本日の軍法制作会議が終わると同時。席から立ち上がった薫に紫苑が問いかけた。
「アイドレーターとの戦闘でおった怪我か? 見ての通り完治だ」
そう言って薫は包帯のとれた首元を見せる。
アイドレーターによる奇襲。倉嶋禍殃の圧倒的な力を前に薫は一撃で戦闘継続不可能な怪我を負わされたのだ。
「どうですか立華くん。調査の方は順調ですか?」
「佐伯局長、それはアイドレーターの話? それとも……伊集院省長のこと?」
「どちらもですねえ。その返答からは読み取れませんが、進捗状況はいかほどで?」
佐伯はすました笑みを浮かべて紫苑に問うていた。薫はこの男の仮面のような表情が苦手だったが、とはいえそれを口に出したことはない。佐伯はそうさせるだけの言葉にはできないプレッシャーを持っているのだ。
「アイドレーターの方は、芳しくない」
「
「つかめたところで、どう潰すってんだよ。最悪TRINITYが崩壊するぜ」
リジェネレート・ドラッグを多量に用いた医療により薫の折れた肋骨は結合した。
力の差は歴然だ。圧倒的なあの力は薫がこれまで戦った相手の中でも桁違いだ。まともに戦って勝てる相手とは到底思えない。
「勝てるさ」
それまで黙って佐伯の後ろに立っていた山本一成がふっとそう呟いた。
「山本一成、テメェはTRINITYと言っても、武力掃討部門じゃねえだろ? どうやって倉嶋禍殃とやり合うつもりだってんだ」
「立華兄、僕のことはアダムと呼んでくれと何回言ったら分かるんだい?」
「きもい」
「その冷徹な視線堪らない。でもすまないね立華妹、生憎僕は匂いフェチなんだ」
バラをくわえて身もだえるその姿は先ほどまでの態度とは打って変わっている。
会議中は何もおかしな言動などはとっていなかった。伊集院の指摘に無難な返答を返すだけの機械のような存在だったというのに、今はまるで別人である。
この光景も見慣れたものであるが。
「まあとにかくね、僕たちなら禍殃にも勝てるさ、余裕だね」
「どっからそんな楽観が出てくんだ? そのからっぽで酔狂な頭からか?」
「いいから聞きなよ立華兄。知ってるだろう? 僕はね禍殃の同期なんだ」
詳しいことは知らないがなんとなくその辺の事情は理解している。倉嶋禍殃が、もともといま佐伯が担当している
「だから僕は禍殃のことは何でも知ってるよ。しかし、立華兄、かおる、だなんて君はなかなかいい名前をしているね。僕のフェティシズムが刺激されるよ」
「きもい」
「だけどまあ、僕の匂いフェチは君じゃない、たった一人の為だけに発揮されるのだけどね。……はぁはぁ、僕のイヴッ」
「気持ち悪い」
「きめぇ」
「確かにきもいですねえ」
バラを花に押し付けて嗅いでは意味不明な言語を発してもだえる山本一成。この男の意見はさっぱり参考にならなそうだ。
「まあとにかくだ、アイドレーターに関して解ってることはすくねえ。港区台場の第三統合学院に潜伏してる構成員がいるってことくれーだ」
「有力な情報ですよ、それは」
「だがその目的も特定も出来てねえ。動かなくていいのかよ」
「構いませんよ。先ほど伊集院省長が仰られていた通り、既に我々も動いていますので」
「潜入任務、か」
先ほどの軍法政策会議。そこで伊集院は防衛省の人間を潜入させていると言っていた。
詳しいことは話されなかったが。潜入先が大学部ということもあるから、未成年かあるいは成人したての構成員であるということになるか。
「だいたい読めた」
「アイツ、か」
なんとなく推測はつく。さっぱり会合にも参加しないあの人物が今回の任務には賛同しているというのか。なんとなく穏便に事が進まない気がする。
「伊集院省長に関してですが」
「そいつに関しては前に話したとーりだ。伊集院は、アンタとそこの変態を監視してる。俺と紫苑にもその命が下されたからな」
「デルタボルトを無断使用したのは、やはり疑うに足る根拠でしたかねえ」
「どうすんだ?」
「まあ今は現状維持でしょう、迂闊な行動はとれませんしね」
さすがの佐伯も迂闊な行動ばかり取っていては不審がられると判断しているのか、困ったように白衣の襟元を正してみせた。
「それから局長、別件だけど」
「ああ、立華兄妹、あなたたちにはもう一つ注意してもらいたいことがあります。最近、現皇太子の昴さんをのし上げようとする、皇太子擁立派の活動が活発化になっています」
「この間の輸送車両襲撃事件の話だね。レジスタンスとは別に未確認の車両があの地点に存在していたという情報が入っているんだ。おそらくは擁立派だと推測している」
「つうことは、昴の野郎と、酒匂陸上幕僚長の監視か」
「すべきことが多くて大変だとは思いますが、頼めますかね」
「俺たちがやるべきことは理解してる。クソめんどくせえが、やってやるよ」
「兄さん、何気に優しい」
「解ってねえな、その仕事おめえに押し付けンに決まってんだろ」
「……知ってた」
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