第15話

「ここが……レジスタンスの内部基地、か」


 運送モノレールから降り地上へと出たレジスタンス一行。視界いっぱいに広がったものは本拠点だった。

 それが拠点であると事前に教えられていなければ、ここがレジスタンスの基地であるだなんて絶対に思わなかったことだろう。

 目の前に高く聳えているものは、エリア・リミテッド有数規模の電波塔。旧東京タワーである。


「防衛省が血眼になってもレジスタンスの拠点を見つけられないわけですね」


 ネイの感嘆を耳に挟みながら高く聳えるその電波塔を見上げる。この旧東京タワーは数十年前から運営が停止されている電波塔であった。

 2010年代に建造されたスカイツリー、それから40年間のうちに東京だけでなく阪神などの工業地帯にもこれを超える高さの建造物が建設された。

 それでもなおこのタワーはある種の貫禄にも似た荘厳さを醸し出している。

ㅤ実際に運営は停止されても、この旧東京タワーはそれから今までの数十年間ずっと東京の象徴的に奉られ続けた。

 2052年の東京都都市化計画によりリミテッドが生まれた後も、旧東京タワーは防衛省の管轄内にある。つまり一切の人間の立ち入りを制限された電波塔なのである。

 タワーの外周百メートル地点には赤外線センサーが設置され、誰も内部に侵入できないようになっている。それ故に防衛省はここがレジスタンスのアジトになっているだなんて想像もつかないのだろう。

 挙句の果てにはこの区画内には警備アンドロイドも探査ドローンも配備されていない。まさか地下の運搬経路を経由してここに出入りしているとは……。


「エリア・リミテッド有数の巨大電波塔であるここなら……防衛省の無線や様々な周波数をキャッチできるの」

「確かに旧東京タワーは……絶好の隠れ蓑だよな」


 傍で同様に見上げていた真那は時雨の言葉に答えることなく、先に内部へと入っていった構成員の後を追う。時雨もまた真那の隣に追いすがり内部へと足を踏み入れる。

 電気自体は通っているのか難なく動いたエレベーターを経由してたどり着いた場所は、言わずもがな大展望台。

 その場所には到底本来の展望台からは想像もつかないような改築がなされている。


「軍の管制室って感じだな……」


 展望ホールの中央には無数のコンソールが配置され、そして何より興味深いものが存在している。


「これは……エリア・リミテッドの立体ホログラム模型ですか」


 展望ホールの中央、直径5メートルほどの立体模型。ホログラムでできたそれはエリアリミテッドの構造そのものだった。


「ただの模型ではない。これは特定の人間の位置情報も観測し表示される……ソリッドグラフィだ」

「ある意味、レジスタンス最強の武器ってわけだな。こいつがあれば防衛省の内側が丸見えだ」


 なんという末恐ろしい最終兵器を有しているのだろうか。

ㅤしかし人間の位置情報を観測するという割にはその表示が少なすぎる。23区のうち中央のレッドシェルターに反応が集中していた。


「このソリッドグラフィが観測できるのは、正確には人間じゃなく探知マイクロチップだ」

「マイクロチップ?」

「お前さんの皮下に仕込まれていたあれな。つまりユニティ・コアだ」


 そう言えば時雨だけでなく防衛省のスタッフには皆マイクロチップが埋め込まれていると言っていた。U.I.F.の兵士や自衛隊員まで。

ㅤそれ故にレッドシェルターに反応が密集しているのだろう。

 

「とにかくだ。本日より、俺たちの活動拠点はこの旧東京タワー基地に移転する。各々の寝室兼待機室は、一階層下にある。さらにその下の階には集合待機室がある」

「ちょっと待て部屋があるのか?」


 船坂の説明に驚嘆を隠せない。いつからこの電波塔はアパートの真似事を始めたのか。


「当然だろ? 拠点にするからには寝泊まりできる設備じゃねえと。ここが基地になる時点で少々改築がなされたんさ。他の構成員は地下運搬経路内部に設営してる集合施設で過ごしてるけどな」


 信じられない話だったがそう言っているのだからそうなのだろう。

 

「今後の任務に関しては後程通達する。各々は待機室にて待機せよ」



 ◇



「あまりにも予想外のことが立て続けに起きるな」


 確かに存在していた待機室。自室として与えられたその部屋に入るなりベッドに倒れ伏した。

 色々なことがあって結局昨晩は寝ていない。だいぶ疲労がたまる一日であったことは間違いがなかった。


「革命軍の暴動、レジスタンスの拉致、監禁、脅迫。そしてノヴァの掃討。からのエリア・リミテッドへの潜入……自堕落に人生を無駄遣いしている時雨様にしては、なかなかに有意義な一日でしたね」

「本当にレジスタンスに入るべきだったのか?」

「今更くよくよしてんじゃないですよ見苦しい。それにほら、可愛い子いっぱいいますし」


 ビジュアライザーを指先で小突いて黙らせつつそのままベッドに転がす。今はネイの戯言に付き合える気分ではなかった。それよりも猛烈に眠い。

 任務についての伝達はそのうちあるだろうが、それまでに少しでも睡眠をとっていた方がよさそうである。そう判断し瞼を落とした。

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