2055年 9月20日(月)

第14話

「まさか……こんな抜け道が存在していたとはな」


 カツンカツンと足を踏み出すたびにブーツの踵が音を反響させる。

 じめっとした通気性の悪い道。明かりという明かりはなく、ビジュアライザーの投射する光源ホログラムがなければきっと数メートル先でさえ目視できないことだろう。

 ここは元東京都区画の地下に存在していた運送ラインのうちの一つである。

 2052年の東京都都市化計画に伴ったエリア・リミテッドが建造。それによって資源の運送や人事の移動は、原則としてイモーバブルゲートを跨ぐことはなくなった。

 それ故にアウターエリアとの連絡通路は必要ではなくなり、エリア・リミテッドの運送ラインは地上にすべて集中するようになったのである。

 リミテッドは街中に無数に高架が走っているため地下のラインは不要とされているのだ。


「だが、地下の連絡通路はすべて塞き止められてると聞いたことがあるんだが」


 延々と続く通路の先を見据えながら、時雨は防衛省に所属していた時代に聞かされたTRINITYの山本一成の言葉を思い出す。

 エリア・リミテッドは地上こそ物理障壁に加え、その上空に展開されている高周波レーザーウォールで外部からの侵入を防いでいる。

ㅤしかし一成曰く、それは地上だけに限った話で当然地下に連絡通路が存在していてはノヴァの侵入を許しかねないとのことである。まあそれは当然の話だろう。


「ま、その通りだな。でも厳密に言えば、その塞き止め政策によって陥落させられたのは、地下道、下水道、そして国内運送ラインだけなのさ。俺たちが今通ってるこの運送ラインは外国からの貿易専用のもんだ」


 この通路を通ることはもう慣れたものなのか、和馬は特に感慨深いわけでもないようでそんな説明をしてくる。


「あの防衛省がそんな穴だらけの調査で納得するか? 運送ラインの一つ一つまで網羅してるだろうし」

「まあそのことに関しては、少々つてがあってな」

「つて?」

「詳しいことはリミテッドの内部基地についてから話してやるよ。まあ簡単に言えば、俺たちレジスタンスの組織力は防衛省の認知をはるかに上回ってるってことよ」


 意味深なことを言って彼はこれ以上話す気はないと言わんばかりに肩を竦めた。

 しばらく歩を進めていると輸送車両が何台か配置されている地点に到達する。

ㅤこの地下運搬経路は23区地下全域に張り巡らされているわけで、当然徒歩だけで行き来するには骨が折れるわけだ。

ㅤそれ故に移動手段としてレジスタンスが常に定間隔で移動用の輸送車両を配備させているのだとか。

 レジスタンスが基本的にエリア・リミテッド内部における交通手段として、この地下運搬経路を用いていることは理解できた。

 車両に乗り込み、時雨はこの移動に同行している人員の様子を窺うことにした。車両自体は数十人ほどを収容できる巨大な物だが、搭乗している人間の数は少数でまばらだ。


「柊」


 レジスタンスについて更なる情報を得ようとライフルバッグを足元におろした唯奈に声をかけると、彼女は鬱陶しそうに視線を上げる。


「何?」

「……怒っているのか」

「別に怒ってない。ただ、改めてアンタに声をかけられるとこうムカついてくるというか。たとえ名字ででも呼ばれるのはなんかこう……」

「自分が名前で呼べと言ったんだろ」

「そうだけど我もの顔でこう呼ばれるのは……」

「ならワンストライカー」

「それ以上言ったら抉る」

「何をだよ」


 対面の座席に座りながら遠慮のえの字もない蹴りを足にぶち込んでくる。思わずその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。頭を下げれば顔面にその爪先がめり込みそうだったからだ。


「何故その、ワンス……そのあだ名で呼ばれてる? 見る限り自分でつけたようでもないわけだが」

「当然でしょ。誰がこんなセンスの欠片もないあだ名つけるもんですか」

「じゃあ和馬がつけたのか?」

「違う。レジスタンスの誰かがつけたわけでもない……そんなことより、アンタ私に何か聞きたかったんじゃないの? まさかそんなことを聞こうとしていたわけじゃないでしょ?」


 詳細を言及されたくないのか彼女は時雨の言葉を遮るように話を切り替えてくる。時雨もまた追及するべきではないかと判断し小さく頷いた。


「この地下運搬経路は、エリア・リミテッド内部に続いてるんだろ? つまり内部の基地に行くわけだ」

「そのとおりね」

「中に行くということは、防衛省に対して何らかの攻撃を仕掛けるつもりなんだろ? だがそれなら俺たちだけの潜入というのは……人員不足じゃないか?」


 今回内部へと向かっているのは時雨、和馬、唯奈を含め、船坂、幸正、真那、凛音、クレアの8人だけである。

 真那はレジスタンスのメンバーは400人ほどいると言っていた。それら全員を投与する必要はないにせよ、防衛省を叩き潰すための運動ならば時雨たち数人でどうにかなる話ではない。

 司令官である皇棗すら現地には今回出向かないのである。

ㅤ聞いた話だとクレアは戦闘人員でも何でもないという(齢十代前半の少女に戦闘をさせるわけもなく)。ほかの構成員たちも交えて内部基地に向かった方がいいのではないか。

 

「馬鹿ね」


 呆れたように肩を竦める。戸惑って彼女を見やるとすでにその視線は自身の足元へと向けられていた。


「私たちはレジスタンスよ。つまり改革者であって明確な蜂起軍や暴動先導ではないの」

「どういう意味だ」

「つまりは、頭を使えってこと」


 そう言って時雨の額に向けて女性的な細い指先を向けてくる。頭突きを食らわせろという意味ではあるまい。


「敵とあらば銃火器を振り回して弾丸を振りまくような団体なら、私たちがやっていることは無作為大量殺人や、非人道テロ組織と、そして防衛省と何ら変わんない。銃撃戦を繰り広げるだけが戦いじゃないわけ」


 考えてみれば時雨が拉致られた原因である目黒区シトラシアにおける暴動。あれはレジスタンスによる物ではなくその他の一般革命軍による蜂起であった。

 彼らとレジスタンスとに横のつながりがあったという発言は一度として耳にしていない。つまり彼らは暴動以外の目的であの場に出向いていたということになる。よもや暴動の鎮静化が目的だったのか。


「直接攻め込むわけではないということか」

「当然じゃない。レッドシェルターの軍用A.A.の壁。それから高周波レーザーウォールは、ある意味明確に壁として成り立ってるイモーバブルゲートよりも突破困難よ。こんな抜け道なんてないしね」

「直接攻撃を仕掛けても、突破は難しいということか」

「難しいというかほぼ無理。最悪死者が出るわ」


 確かにレジスタンスが時雨を防衛省から引き抜く結果につながった経緯も、それを考慮した上でのものであった。

 革命軍の暴動に便乗し自分たちの機体を防衛省の機体に見せかけ時雨を拉致した。実際問題、まんまと引きずり出され彼らの思惑通り拉致られたわけであるが。


「具体的にはどんな作戦があるんだ?」

「質問が多いやつね……まあ新入りだし仕方ないけど。でも私はアンタみたいな新入りの監督官なんて御免よ」

「頼む」

「はぁ……」


 呆れたのかもしくは諦めたのか。それは解らないが折れたと言わんばかりに首を小さく振るう。


「なぁなぁおぬしら、いったい何を話しておるのだ?」


 会話が流れ出ていたのか彼女の脇に腰掛ける凛音とクレアが興味深そうに小首を傾げる。

 

「レジスタンスについて聞いていた。だが柊が面倒がって教えてくれない。代わりに教えてくれないか」

「いいのだぞ? 何でも聞くのだ」

「私にお答えできることでしたら……」


 快活に腕を組むケモノ耳の姉。控えめに姉より一歩距離を置こうとするガスマスク。正反対な少女たちだった。


「何について聞きたいのだ? ユイナのおっぱいの大きさか?」

「……は?」

「そのようなことを聞いたら、脳みそが爆散しそうなので遠慮しておきます」

「なんだ違うのか。清掃員のおじーさまは、毎日ユイナのスリーサイズに興味津々なのだ」

「ちょっとそれどういう意味?」

「毎日、清掃員のおじーさまの者が、リオンに聞いてくるのだ。今日のユイナの胸はどうだったかとか、匂いはどうだったかとか」

「……とんでもないことを聞いてしまったわ」


 大丈夫かレジスタンス。


「ユイナの匂いは、」

「そこ言わなくていい。……はあ、この子たちに任せていると話が進まないわね。仕方ないから今回は私が質問に答えるわ」


 最初から教えてくれるつもりだったのだろうか面倒くさそうな顔をしながらも目線で質問を促してくる。


「ああじゃあ」

「ちょっと待ちなさい」

 

 だが要件を告げる直前でそれを遮る。


「やっぱりアンタのためだけに質問に答えるだけってのも癪に障るわ。質問しただけ私の質問に答えなさい」

「はあ」

「ならリオンからの質問なのだ」


 なんだか嫌な予感を抱きながらも身構える。が脇から乱入する形で凛音が手を大きく上げた。


「シグレとマナはどんな関係なのだ?」


 気を抜こうとしたタイミングでの核心を突いた直球が来た。思わず言い淀み車両内部を見渡す。

 しかし話題に上がった当の真那は別の車両に搭乗しているようでここにはいない。どうやら凛音の声が届いたということはないようだ。


「真那とは……」

「昨晩告白する間もなく、片や盛大にフラれ片やフった関係ですよ」


 まったくネイはいつも状況を荒立てる。


「深くは詮索しないでおくわ」

「なんだか、ごめんなさいなのだ」


 唯奈はわれ関せずと言わんばかりに目を逸らし、凛音に関しては大きな耳を萎れたように項垂らせる。

 どうやらこの者たちはネイの言葉を率直に信じたらしい。その認識を改めようとしてやはりやめる。

ㅤこと今の状況に置いていえば勘違いしてもらっていた方がこちらとしては都合がいい。もしかしたらネイはネイで気を利かせてくれたのかもしれない。


「フラれた原因は出合い頭に真那様のお尻を鷲掴むように触り堪能したからです」

「デマ情報を吹聴するな」


 一瞬でも感謝しかけた自分が馬鹿みたいに思えた。


「幻滅する余地すらなかったけど、幻滅した」

「誤解だ。それより、さっきの口ぶりからして何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」


 質問に答えた分だけ答えろなんて要求、何か聞きたいことがあるとしか思えない。

 

「まあ、あるかないかで言えばあるわね。単刀直入に……アンタの使ってる武器に関する質問」

「俺以上にアナライザーについて理解と見識を有していなかったか?」

「確かにレジスタンスの情報源で探れるだけの最大限の捜査はしているわ。それでも、調べつくせないところもある」

「と言われても、正直この構造については俺も詳しくはないんだ」


 遠慮など知らずに唯奈は使えないわねと舌打ちをして見せた。しかしそのようなことをされても知らぬものは知らぬのである。

ㅤこれを開発した人物は防衛省直下組織化学開発部門局ナノゲノミクスという佐伯・J・ロバートソンを筆頭とした開発局であり、時雨は開発に一切の関与をしていない。


「私でよければお答えしましょう」


ㅤネイは普段からナノゲノミクスの人員とも時雨には理解不能な談笑をしていた。多少の見識はあるのだろう。


「アナライザーの基本性能は理解してる。通常弾を用いた射出機構。指向性マイクロ特殊弾を用いた機構。そしてインターフィア機構。二つ目の特殊弾に関してだけど、あのマイクロ波は弾丸の効能であってアナライザーの効能ではない。それなら、同じ口径の弾丸を用いるマグナムなら、特殊弾を撃てるってこと?」


 なるほど、つまりこのマイクロ波を用いた兵器をレジスタンスに流通させたいらしい。

ㅤ確かにマイクロ波は理論上如何なる物質の構造配列をも瓦解させ、消滅させることが出来る。

ㅤこれが基本武器になったのならば、レジスタンスも防衛省に楯突くことが出来るだけの戦力保持が出来るということになる。


「それは出来ません。特殊弾を単純な弾丸として用いることならばできますがね」

「どういうこと?」

「特殊弾の構造は通常の弾丸と同じです。なおモデルは.44マグナム弾ですので、この口径弾を装填可能なリボルバーであれば発砲自体は可能です。ただしマイクロ波の放出には、弾丸に内蔵されたセキュリティを解除する必要があるわけです」

「セキュリティって……暴発しないようにするための物?」


 ポケットから特殊弾を一つ取出し手のひらに載せて彼女の前に差し出す。

 一見通常弾と変わらないが外装には僅かな相違点がある。弾丸部と薬莢部の接合部分にデバイスが嵌めこまれているのだ。唯奈はそれを手に取りじっと眺め、その表情を思案顔に歪めて見せる。


「そのデバイスはアナライザーから発せられる特殊な信号を受け取るための物です。アナライザーシリンダーに装填され、トリガーが引かれた時のみ、そのデバイスはセキュリティを強制解除します。対象物に着弾し、一定以上の衝撃を鉛芯に受けた際、デバイスはマイクロ波を投射するわけですね」

「つまり、アナライザーに内蔵されてる何かしらの機能がないと、マイクロ波は使えないってわけね」


ㅤデバイスを組み込むにあたって薬莢内の発射火薬を少なくしているため、通常マグナム弾よりも物理的な火力は落ちる。

ㅤそれ故にただのリボルバーで用いても非効率的なだけだ。

 またこのアナライザーは誰でも使用できるわけではない。時雨のビジュアライザーに在中しているネイがセキュリティの解除をするため、現時点では時雨しか指向性マクロ弾の効果を発揮できないのだ。

 残念そうに唯奈は小さくため息をついて特殊弾を返してくる。

 

「ちなみに、私のスコープを壊した立華紫苑のアナライザーに関してだけど」


 またもや自分に責任を押し付けられるのかと時雨は反射的に身構える。

 確かにあの時点で時雨は立華兄妹とは仲間関係にあったが、かといって彼女の過失を連帯責任で自分のせいにされる謂れはない。そう言った意思表明を目線で示す。


「心配しなくても責めてるわけじゃない。その代償行為として、すでにスコープ調達の任をさせたしね。まあで、立華紫苑のアナライザーに関して。私はあの時、1ブロック以上離れた場所からこのライフルで狙撃した」


 唯奈はライフルバックを軽く叩く。あの時、狙撃ポイントから時雨たちのいたシトラシアまでは直線距離でも800メートルほどもあったはずだ。

ㅤよく航行するヘリの操縦士を的確に狙撃できたものである。感心するものの、唯奈は自分の正確さを自慢したいわけではないようで。眉間にしわを寄せ、その顔には納得がいかないとでも言わんばかりの色が張り付いている。


「で、立華紫苑の狙撃ポイントだけど、私がいた地点からシトラシアを軸に90度以上離れた場所を陣取っていた。対角線上にあるわけだし、理論上私の狙撃射程よりも広いということになる。ただのマグナムで1キロ近い距離を狙撃できたとは到底思えないんだけど」

「紫苑様が用いている狙撃銃は、Bullet(S22)、対物ライフルです」

「アンチマテリアルライフル……バレットで対人ね」

「それに用いられた弾丸は、時雨様や薫様が用いる.44マグナム弾ではなく、通常12.7ミリ弾にデバイスを埋め込んだモデルです」


 時雨のアナライザーより数十倍以上の射程を持つBullet(S22)。完全にこのアナライザーの上位互換版と言える。

 ただし時雨に狙撃が出来るかと聞かれたら答えは否だ。それ故に、その上位互換版は正確性の秀でている紫苑に支給された。


「モデルが複数あるわけね……そのアナライザー、後で解析させてもらうわよ」

「使い物にならなくなったら困るんだが」

「別に解体するわけじゃないから安心してって」


 アナライザーの技術を今のレジスタンスが複製できるとは正直思えないが。


「一応言っておくが、一般人じゃアナライザーは扱えないぞ」

「知ってる。それにもセイフティが内蔵されてるんでしょ」

「……もういいよな。今度はこっちの質問だ」


ㅤ面倒くさそうに口角を吊り下げるものの仕方ないわねと渋々受諾してくる。


「さっきも聞いたが、今回のリミテッド内部への潜入の目的はなんだ? というより、どんな計画・作戦があるんだ?」

「詳しい話は後回しにするけど、まあそうね、早いうちにエリア・リミテッドの情勢をアンタに理解してもらう必要があるし……」


 少し悩む素振りを見せてから唯奈はビジュアライザーを点灯させる。ホログラムコンソールを何やら操作していたかと思うと、時雨に向けてファイルを払ってくる。

 スライドしてきたバインダーは時雨のビジュアライザー上に出現する。


「ちょ、いきなり送信されると圧迫されてしま」


 それによってネイが消失する。すぐに再出現した彼女は悪態をつきつつも唯奈に送信されたそのファイルをいじり始める。

 

「これは……エリア・リミテッド内部での総人口推移ですか」

「ええ、見てほしいのはここ数か月間の推移よ」


 彼女に促され着目してみると三か月間に渡って各月百数十人の減少が記録されている。


「そのうちの七十人ほどが消息を絶っているのよ」

「どういうことですか?」


 どうやら時雨以外にも作戦内容が告知されていない構成員はいるようで。クレアは時雨の隣にまで歩み寄ってくるとファイルを覗き込んでくる。しかしガスマスクをつけたまま器用なものだ。


「そのままの意味。その人口推移は、暴動やレジスタンスの動きを探るために防衛省が街中に配備させている探査ドローンと生体スキャナが観測したものよ」

「防衛省の情報だよな? どうやって仕入れてるんだ?」

「傍受に決まってんでしょ。探査ドローンを回収して解析プログラムを送信してるのよ」


ㅤそんな当たり前のことを聞くなと視線で示してくる唯奈に一瞬たじろぐものの、時雨の知能指数では質問せずに全ての情報を認知するのは不可能である。

ㅤ構わず消息がたっているという旨の発言の真意を問う。


「基本その人物が死亡した場合、探査ドローンは死亡推移も記録する。その記録とこの人口推移を照らし合わせてみたんだけど、どうにも数値がかみ合わないのよね」

「ドローンの観測ミスじゃないのか?」

「防衛省がそんな警備体制を容認してるとも思えない。でも防衛省は、こんな明らかな誤差があっても修正行動を起こす様子が見られないわけ」

「つまり……」

「この失踪は、防衛省の手によるものである可能性がある、ということですか?」


 クレアのその問いかけに唯奈は小さく頷く。

 

「失踪しているのは皆、ホームレスやみなしごといった身寄りのない者ばかりよ。そんなものたちが数十人いなくなっても、一般市民は気にも留めない……そもそも気が付かない」

「連中は気づかれないのをいいことに、その者たちを回収して……それで何をしようとしてるというんだ?」

「それが解らないから、私たちがこうして送り込まれてるんじゃない」


 なるほど。つまりは現地調査ということか。確かにそういうことならば、レジスタンスの構成員は少人数でことに及んだ方が効率的だ。

 レジスタンスの中には顔が割れている者もいるだろう。それならば少ない数で隠密に調査した方が安全だ。


「そろそろ目的地に着く。話はそれくらいにしろ」


 ハンドルを握る幸正が振り返ることもなく声をかけてきた。目的地がエリア・リミテッドにおけるどの地点なのか解らないが、もう着いたのかと前方を見据える。

 車窓の外には、地上へと出るためのターミナルが設置されていた。



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