1-1.ルールを説明しよう

「ルールを説明しよう」


 ヤーコプがパチンと指を鳴らすと、どこからともなく、ホワイトボードが現れる。

 そしてそこにはすでに、何かが書き込まれてあった。



 <1>

 アンデルセンチーム 五名

 グリム兄弟チーム 五名


 まず五名ずつ戦う者を選抜する。


 童話作家らしく、それぞれが自信を持って書いた作品の主人公から選りすぐりの強者を選抜する。


(※主人公が二人の場合は、二人で一人としてカウントしてもよい)



 <2>

 戦いの舞台はルーレットで決める。

 ルーレットは、現時刻より二四時間後に自動的に回る。それまでに強者が五名揃っていなかった場合は、その時点で負けが決まる。


 ルーレットで作り出した舞台を、仮想空間として出現させ、そこに強者たちを放つ。


(※ただし各強者たちは固まって放つわけではなく、ランダムに出現させる)



 <3>

 どちらかの五強のうち、ひとりが勝ち残るまでのバトルロワイアル。


 禁止技は特になし。

 生きるか死ぬかの、命がけの戦い。


(※ただし、仮想空間内で死ぬだけなので、作品は現世に生き続ける)



 ▽


「以上だ。そんなに難しいルールでもないだろう。何か反論はあるか?」

「異議はありません。とっとと始めましょう」


 アンデルセンは、ザックリとしたルールを確認すると兄弟に背を向けると、その視線の先に一枚の扉を出現させる。アンデルセンはその扉に向かい、本を握りしめ歩き始めた。コツコツと靴の音が響く中、ヴィルヘルムの言葉はその靴音を止める。


「待って、アンデルセン。これだけは言っておきたいんだけど」

「なんでしょうか」


 アンデルセンはその場で止まると、顔全体を振り向かせるのではなく、少しだけ顔の角度を変え、ヴィルヘルムの言葉に耳を傾けた。


「この戦いに勝った方が、世界一の童話作家――それで文句ないよね」


 アンデルセンは「はんッ」と笑いを吐き出すと、体を大きく反転させ兄弟へその顔を向けた。その表情はまるで悪魔のような歪んだ顔。あの頃、グリム兄弟を慕い、生涯共に生き続けたアンデルセンの姿はどこにもなかった。


「ありませんよ。ぜってえぇ、勝ってみせますからね」


 そしてそのままアンデルセンの姿は、扉の向こう側へゆっくりと消えていくと、その扉も光跡を残し、跡形もなく消える。この真っ白な空間に、アンデルセンの高笑いの余韻を残して。


 それをいっときも目を離さず視界に収めていたグリム兄弟。


「くはは。兄さん、『ぜってえぇ』だって。笑っちゃうね」


 と、余裕な表情を浮かべ、余裕の冷やかしの時間を楽しむヴィルヘルム。

 その表情は、でかい図体をした意地悪な子供のよう。


 そして腕を組み、薄気味の悪い笑みを浮かべるヤーコプ。


「はん。こちらとて、ぜってえぇ勝ってみせるよ。僕たちが最強だ。僕たちがこれからの歴史を作っていくんだ」



 その空間に、兄弟の笑い声がいつまでもいつまでも続いていた。



 ――戦争開始まで、あと僅か。

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