第二十六話 マシュー、けむに巻かれる

其の一

 その日は、特に何もない日だった。


 ザカールの街は万事において平穏。陰惨な殺人事件はおろか、喧嘩や小銭摺りなどの小事も無い。尤も、そんな日のほうがほとんどなのだが。そして州衛士隊の屯所もまた、その平穏を甘受していた。頼りに来る市民と言えば道案内程度、内勤の隊員たちは平和を通り越して暇さすら感じていた。



ゴーン ゴーン



 中央広場から鐘の音が聞こえる。正午を告げる鐘。これから一部を除き一時間の休憩だ。やる事が無かったとはいえ椅子に縛りつけられた状態で半日過ごすのも疲れるもの。ある者は大きく背を伸ばし、ある者は思わず大あくびをしてしまう。そして数人の隊員は、机の引き出しから何やら丸めた紙束を取り出し、燭台に近付け火をつけると、それを口に含んだ。そのまま口で大きく息を吸い、吐き出す。まるで物語に出てくる火竜のように、口から真白な煙が立ち上がり、あっという間に部屋中をそれで満たしていた。


「あぁ~、やっぱり仕事の後の一服はたまりませんなぁ。」

「これこれダンエルさん、まだ午後の仕事が残っていますよ。」

「ああこりゃ失敬。いやあまりにこの一本が美味かったもんで、つい。」

「本当にお好きなんですねえ、煙草。リラックスするのはいいですけど、あまり気を抜きすぎてベルモンドさんみたいになるのは勘弁してくださいね。」


 隊長のベアの会話に隊員たちは笑い声を上げる。今日は特に何かやらかしたわけでもないマシューは、部屋中もうもうとした煙の中、納得のいかぬ顔をしながらメイドたちがこさえた弁当を口に入れるのだった。




煙草―――それはこの大ラグナントにおいても大人の嗜好品として存在する。




 原産は南方暗黒大陸、伝来は輝世暦前まで遡る。初めの頃は一分の王侯貴族にしか手の出せぬ高級品であった。しかし魔王バルザーグ討伐後、社会の安定に伴う富裕層の増加に伴い需要も増加。王国大陸南部スパーラ州での栽培の成功、パイプを用いない手軽な葉巻煙草の生産などの技術進歩もあり、今では国民の間にも広く浸透することになった。


 ここザカール州は、南からの輸入品の玄関口かつ煙草畑も近い地理とあって、その消費量は大ラグナント13州でも群を抜いている。このように、最下級貴族の成れの果てである州衛士が事あるごとに服用できるくらいには。


 余談だが、現在の大ラグナント王国において煙草の服用に年齢制限は存在しない。ただ「子供には刺激が強すぎる」からということでそれなりの年齢にならないと吸わない、という漠然とした個人の判断に任されている(これについては酒も同様だが)。それというのも、この嗜好品につきまとう副作用が研究されていないからなのだが。



―――もし、我々の知るようにその危険性が判明すれば、いかな事態に発展するのだろうか。今回は、そういうお話。






 8月某日。アグナート病院講堂。とある理由により州一番のラファール医院が凋落してから、一番伸びてきていると言われる医療機関である。そんな日の出の勢いの病院から何やら重大な発表があると聞き、講堂には州議会のお偉方や新聞関係者がごったがえしていた。


 やがて現れたのは種族・年齢・性別もまばらな白衣の三人組。老年の人間男性、中年のハーフリング、そして真ん中に陣取るのはエルフの女性。成人期の長いエルフの生態から行けばそろそろ300歳を超える頃と感じられる容貌ではあるが、美人でないというわけでもない。むしろ眼鏡の奥に光る切れ長の瞳や厳格な表情からは、まさに女医といった空気を醸していた。


「アグナート院長、今回の会見についてですが―――」

「それについてはこの私、内科担当のフィエルがお答えします。」



「今回集まっていただいたのは他でもありません。煙草の服用による害悪、その研究結果が纏まりましたのでご報告させていただきます。」



 傍らの院長への記者の質問に、言うが早いかエルフの女医、フィエルが答える。そして単刀直入に提示された今回の会見内容。傍聴席がにわかにざわつく。


「急な事と思われますが、何分市民にも一秒でも早く知っていただきたいことでしたので。」

「一秒でも早く、と言いますと?」

「ええ、命に係わる事です。結論から言えば、煙草は命を縮めることが判明しました。」


 会場の中にも愛煙家は少なくないだろう。よもやそれが生き死にを分かつ要因になるというのか。少なからず動揺から騒がしくなる列席者に対し、ハーフリングの男は冷静に資料を配っていく。


「ご覧の表は、十年以内で早逝した者と喫煙量をまとめたものです。細かい説明は省きますが、一日の煙草の本数が多いほど死が早まることがおわかりいただけることかと思います。」


 見れば日に十本吸っているような者は、老年期を待たずして亡くなっているというデータが並ぶ。長命種のエルフやドワーフでも100歳を待たずに死んでいるというケースもある。何やら嫌な気分にさせられることこの上ない話ではあるが、フィエルは尚も発表を続けた。


「次に、前述のデータのうち日に三本以上吸っている者の死因を表立てておきました。皆一様に肺、呼吸器の異常を訴えております。つまりは―――」

「ちょ、ちょっと待ってください!このような統計の羅列だけで煙草が悪いと決めつけられても!」

「そ、そうだ!データなど見せ方次第でいかようにも印象付けられる!」


 会場がわっとざわついた。煙草を愛用している者たちだろうか、どうにも喉元に匕首を突きつけられたかのような今の空気に耐え兼ね口々に反論を試みる。しかし、フィエルはそれさえも織り込み済みだったかのように不敵な笑みを浮かべながら彼らに答えた。



「つまり、確固たる証拠があれば納得していただけるということですね?」



 同時に柏手を二回。それに呼応し、ハーフリングの男が密閉された透明なガラスの箱を運んでくる。中にはたっぷりの液体と、黒く煤けた何か。少なくとも無機質ではない、生っぽさを感じさせるものだった。


「これは…?」

「一日十本服用していた人間男性、その遺体から摘出した肺臓です。」


 会場が今日一番の驚きに包まれた。目の前には人間様の内臓、牛や豚のものとは訳が違う。驚き、騒ぎ、ある者に至ってはその場で吐き出している。


「あ、あんたは人間を解剖したのか!?」

「ちゃんと許可は得ています。こちらが王国医学会、こちらは国教会、何れも本物の解剖許可証です。お疑いなら問い合わせてみますか?」


 ついこの間までは剣と魔法のファンタジー、今でも神への信仰がものをいう世界だ。ここ大ラグナント王国における死者の尊厳は我々が思っている以上に重い。いかな理由とはいえ遺体をさらに傷付ける行為などは外法の行いである。故に遺体解剖などとなれば医療機関・宗教機関共に厳重な審査の下の認可が必要だ。


翻ってこのフィエルという女医は、大病院に勤めているとはいえ立場上は一介の町医者。であるにもかかわらずその認可を得たのだ。この熱意には、彼女に怪訝な瞳を向けていた者たちも舌を巻かざるを得ない。


「さて、わかっていただけたところでもう一度コチラをご覧ください。人の内腑ならば肉の色をしていて然るべきもの。だというのにこの肺臓の黒さはどういうことでしょうか。まるで魔界の瘴気のようではありませんか。」


 フィエルの名調子は続く。確かにピンクの内膜を覆い隠すかのように真黒な何かがこびりついている。魔界の瘴気という喩えもあながち的外れとは思えない。その肺臓を眺める愛煙家たちは、まさか自分もああではないかという疑念に駆られ思わず胸を擦った。


「本日は用意しておりませんが、同様の喫煙者の肺はいくつも確認しております。これが煙草によって冒されたということは疑いようがありません。煙草とはかように邪悪なものなのです!それを気が落ち付くなどという軽率な理由でホイホイ使えるような社会で良いのでしょうか!?」



「私はここに、大ラグナント王国からの煙草の廃絶を訴えるものであります!!」



 フィエルは机をばんっと叩き、熱っぽく謳い上げた。記者たちもその熱意に飲まれるがままメモを走らせる。一通りの演説の後、院長のアグナートが会見の終了を宣言し、場はお開きとなった。恐らく今日の夕刊、明日の朝刊の一面は決まったも同然であろう。






「院長、ターミル殿、ご協力本当にありがとうございました。」


 会見後、フィエルは院長とハーフリングの男ターミルに深々と頭を下げた。


「この私の宿願に賛同してくださったばかりか、色々便宜まで図っていただき、しかも今日はあのような大舞台まで…」

「いやいや礼には及びませんよ。頭を上げてくださいフィエル女史。」


 アグナートは彼女の肩を叩き頭を上げさせた。その表情は温和で優しげであった。そもそもにおいて人が良いと評判の医師である。


「煙草廃絶のために尽力する医師がいると聞き遠くザカールまでやってきた私ですが、そこまで感謝してもらえるなら冥利に尽きるというものですよ。」

「ターミル殿。国教会と医学会の認可の折は本当に感謝してもしきれません。」

「なあに志を同じくする者同士の頼みですから。人脈はこういう時にこそ役立てねば。」


 ターミルは笑った。遺体解剖の許可は彼の尽力によるものが大きいようだ。見た目は痩身の小男、失礼な話そのようなツテがあるような大物には見えないのだが。


「ですがこれはまだスタートラインに立ったに過ぎないのですよ。これからこの州、そして全国を巻き込んでいかねばならないのですから。気合いを入れねばならぬのはこれからですよ。」

「そうですね。ここがゴールでは無いのですよね。あくまでも目標は『この大陸から煙草を廃絶させる』ことなんですから。」






 実際のところ、フィエルが煙草を嫌う理由は健康上の問題ではない。


 彼女の出身はスパーラ州の山岳地帯。清閑な森に囲まれた集落にて、薬草の調合を仕事としていた。やがてエルフ狩りに際し集落は壊滅、からがら逃げ延びた後は前職の知識を生かし医者へと転職した、という経歴の持ち主だ。


 そして彼女はその集落にいた頃から、精霊信仰・自然信仰の敬虔な徒であった。国教のガリア教に帰依せずそれらのみを信じる者も今日び珍しい。ターミルがいなければ、国教会から解剖の認可が下りたかどうかも怪しいところだ。


 さて、前述したとおり煙草はこの王国大陸においては外来種である。暗黒大陸から流れてきた植物が、この地に必要とされのうのうと生えている。この土地本来の自然を信望する者にとって、それは耐え難い事だろう。フィエルのヒステリックなまでの煙草への嫌悪は、つまるところ彼女の宗教観からきているのだ。


 しかし原因が何であれ、彼女の狂信的なアピールにより煙草の害悪が判明した。そしてその新情報は、彼女のヒステリックな態度と合わせてあっという間にザカールへと広まっていくのだった。






 翌日、正午を迎えた州衛士屯所。ごーんごーんと中央広場の鐘が聞こえると、ある者は大きく背を伸ばし、ある者は思わず大あくびをしてしまう。そして隊員の数人は、机から紙束を丸めたものを取り出し、燭台に近付け火をつけようとする。昨日と何ら変わりのない日常、しかし、この日はここからが違った。



ふうっ



燭台の火が消えた。これでは昼の一服ができないではないか。隊員たちはどうしたことかと辺りを見回すと、別の隊員たちの一団がこちらを睨んでいた。どうやら灯りを消したのも彼らのようで、わけもわからず苛立ちながら州衛士隊一の愛煙家ダンエルが詰め寄る。


「ちょっとカーナさん、何で火を消しちゃうんですか?これじゃあ煙草が吸えないじゃないですか。」

「ダンエルさん、そして皆さん。今朝の新聞はお読みになられました?」


 今朝の新聞の一面は予想通り、各社何れもアグナート病院の研究発表で統一されていた。フィエルの熱に浮かされた記者たちは、こぞってその前面に煙草の害悪を書き吊られている。そしてその熱は無論、読んだものへまで伝播した。


「市民の安全を守る州衛士が、自分から健康を壊しに行ってどうするんですか!?」

「いやそりゃ私も読みましたしそう思うところもありますが、気にし過ぎじゃないですかね?」

「その安易な考え、ダンエルさんあなた州衛士の自覚が足りないんじゃないですか?」


 州衛士たちは基本、仲間内で角を立てる真似を避ける。それこそ自他ともに認める怠け者のマシューへのいびりや嫌味がいいところ。そんな穏健な連中が、次第に声を荒立てて喫煙者の勤務態度を罵り出す。ある種の異様な光景に、外野のベアは目を丸くした。


「じゃあもう自覚が足りないって事でいいですから、吸わせてくださいよ。自分たちが不健康になるだけなんですから、貴方がたには関係ないでしょ?」

「やっぱり新聞を読んでいないようですねダンエルさん。煙草を吹かして出る煙、あれも周囲に同様の健康被害を及ぼすんですよ!」

「不真面目な貴方がたのせいで、真面目な我々まで巻き込まれたらたまったもんじゃないですから。」

「えっ!?」


 先進的というか偏執的というか、フィエルの研究は副流煙被害についても及んでいた。となれば、吸う人間だけが不健康になればいいというだけの話ではない。周囲に喫煙者がいる人間は、皆ナーバスにならざるを得ないところだろう。


「おわかりになられましたか?では私たちの迷惑にならぬよう、外で吸ってきてくださいな。」

「う、ぐう…」


 新聞の該当箇所を突きつけられた喫煙隊員たちは、外食に行くでもなくすごすごと外へと退散していった。そして、元より煙草は吸わないマシューは、自分以外の隊員が不真面目を責め立てられる姿を初めて目の当たりにするのだった。






 比較的波風を立てない傾向にある州衛士隊ですらこうなのだ。他所での様相は推して知るべしだろう。健康を盾に、多くの喫煙者が野外に追い立てられ、人気の無い裏道でひっそりと煙草を吸う羽目になっていた。いくら気の安らぐ嗜好品とはいえ、かように強く責められ目の敵にされたまま吸うのでは、いかほどの効果があったものだろうか。その日からの煙草は不味かったに違いない。


 しかし喫煙者も迫害されてばかりでは無かった。反撃の狼煙が上がったのは三日後の事。ザカール公会堂にて程なく始まる舞台演劇の挨拶の席でのことだった。新聞記者も集まる中、主演とヒロインの挨拶が滞りなく進む。そして助演俳優たちの番が回って来た時にその事件は起きた。



 なんと、今舞台にて敵役を演ずるドワーフの役者に挨拶の番が回って来るや否や、その男は煙草に火をつけ吸い出したではないか。



 ただでさえこのような場で煙草を吸うことは非常識な行動。しかも今のこのご時世だ。当然、列席者からは避難轟々。しかしこのドワーフの俳優はそんな声などどこ吹く風、強面で一服すると、口から大きな煙を吐いた。


「何でぇ、俺からも煙草コレを取り上げるつもりかよ。」


 白煙の靄の中、男はドスの利いた声で言う。そのあまりの胴に言った姿は、非難の声を塞き止めるに十分すぎるほどの説得力を湛えていた。


 男の名はザッカルス。その風貌の通り、悪役を専門とする役者である。その渋みがかった演技は州内外からも評価が高く、また私生活でも洒落者として知られ大人の男かくありたいものという理想を体現している。ハードボイルドの見本として、異性よりも同性の支持を集める役者。そして同時に、ヘビースモーカーでもあった。


「劇中でも煙草を吹かすシーンがあるんだが、よもやそれも飴玉に変えろ、なーんて言うつもりじゃねえだろうな?」

「い、いや…そんな滅相も無い!」

「そうだろうよそうだろうよ。煙草コレでなきゃ、男の年輪は表現できゃしねえよ。舞台の中でも、外でもな。この煙が、男の輝きを渋く燻してくれるってもんさ。」


 いっとうに喫煙を非難した記者も、ザッカルスのあまりの迫力にただ首を縦に振っていた。彼が語るいぶし銀の魅力、それはまさに目の前のザッカルス本人によって証明されている。会場にいる誰もがその姿に心を奪われていた。


「何でも世間じゃ、エルフの女医に煽動されて煙草コイツが健康に悪いだ何だと騒いでるようだが、俺から言わせりゃちゃんちゃらおかしいぜ。」

「と、言われますと?」

「そもそも男にゃ外に七人の敵がいるんだ。何時そいつらとの戦いに敗れて野垂れ死んでもおかしくねえ、それが男ってもんよ。そしてその永劫の戦いから僅かに癒してくれるのが煙草コレってもんだ。」


「だのに、健康を害して死にたくねえから煙草を止める止めさせる、だなんて本末転倒過ぎて臍が茶を沸かすぜ。エルフ女のヒステリーに乗せられて命が惜しくなるなんざ男じゃねえ。煙草コイツぁ男が男の戦いを生き抜くための一本だ。わかったか?」


 そんな彼の理論に説得力を持たせたのは、彼自身のたたずまいであった。会見はそれ以降も白い煙の中で執り行われ、無事終了した。そして先日のフィエルの発表会と同様に、この場の熱に浮かされた記者たちは社に帰るなりその筆を走らせるのだった。






 翌日、州衛士屯所。今日も今日とて正午を告げる鐘が聞こえる。瞬間、愛煙家たちは席を立つなり燭台に向かい、嫌煙家たちが行く手を阻んだ。二者の間には、言いようのない緊張感が走っている。


「ダンエルさん。先日も申した筈です。煙草は我々に煙が及ばぬところで吸ってもらいたいと。さもなくば、いっそお止めになってしまわれては?」

「こりゃお笑いだ。カーナさんは州衛士としての自覚が足りないらしい。」


 昨日までならすごすごと外に退散していた愛煙家たちだが、この日からは違った。ダンエルは先日の意趣返しのような言葉を吐き、愛煙家仲間はそれを嗤った。思わぬ反撃に、嫌煙家たちが狼狽えた。


「ど、どういうことですかそれは!?」


「州衛士は市民の安全のために命を投げ出す覚悟を持ってこそ。それを命が惜しいから煙草は勘弁などとは、不覚悟も甚だしい。」

「いやあダンエルさん。彼らにザッカルス殿のようなハードボイルド論を説いても無駄でしょう。」

「ですな。あのエルフの女医に去勢された連中に理解を求めるのも酷な話ですよ。」


 愛煙家たちはげらげらと笑い声を上げた。今朝の新聞の一面を飾ったのはザッカルスのあの舞台挨拶の一部始終。傾奇者にも程のある言動だが、それが虐げられた愛煙家たちにどれ程の勇気を与えただろうか。その記事を錦に御旗に、彼らは抗ったのだ。


 しかしいかんせん調子に乗り過ぎた感もある。それは、嫌煙家を説き伏せるよりも今までの仕返しといった趣が強すぎた。完全に神経を逆撫でされた禁煙家たちは、売り言葉に買い言葉で語を荒げていく。


「い、言うに事欠いて去勢ですと!?」

「我々はただ、任務以外で無駄死にする気は更々無いというだけです!何せ妻子を養っていかねばならない身ですからね!」

「未婚のアンタらには分からん話でしょうが!!」



「なんだと!喧嘩売ってんのか!?」

「上等だ!!」



「ちょっと貴方たち!何やってるんですか屯所の中で!!」


 いつしか口論で済む段は過ぎ、小競り合いが始まった。敬語も忘れ生の感情をむき出しに、押し合いへし合いの大乱闘。幸い刃物を抜く者はいなかったが、それでも結構の大げんかである。隊長のベアが止めに入るが完全にヒートアップした隊員たちを止めるには至らない。結果、昼の休憩時間だというの、心も体も休まる者はいない結果となった。



ただひとり、こっそり外に抜け出し弁当を広げたマシュー・ベルモンドを除いて。



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