第二話 フィアラ、花嫁に憧れる

其の一

 勇者アランの冒険譚において亜人の活躍する場面は少なくない。

ハーフリング族はグルカ砦攻防戦において水門の鍵に細工をし魔王軍の主力部隊を水責めに遭わせた。

エルフ族は魔王軍に奪われた秘宝・深緑のオーブ奪還の返礼に森の精霊たちにアランを助くよう頼んだ。

ドワーフ族は最古の鉱石から聖剣ガイアカリバーを作り与えた。

獣人の王レイザークローはアランとの一騎打ちを経て和解、獣人族は当初協力関係にあった魔王軍を裏切った。

勇者アランは後に述懐する。


「私は多くの友と呼べる存在に助けられ今日の勝利を得ることが出来た。

そこに人間だ亜人だといった差異はない。皆等しく尊い友人であったと言える。」



 この発言に泡を食ったのは大陸全土を統べる一大宗教・ガリア教の総本山であった。



 その教義の根本は「人間は人間であるというだけで神に祝福された存在である」ということ。裏を返せばそれ以外の生き物はそうではないということである。この極端とも言える人間礼賛によって各地に信徒を増やし、時にはその区別を利用し人民を統制してきた。


 そこにきてこの勇者の発言である。当時16歳の少年にとっては忌憚なき謝意だったのかもしれないが、救世の英雄が実質上の平等を謳ったとなればそれはもう社会の根本をひっくり返しかねない爆弾発言であろう。世論は色めき立ち各所に波及、一時は教会勢力による勇者暗殺計画などという噂も取り沙汰された。最終的には教会側が教義を


「神に祝福された人間とて悪を積めば地獄に行くし、そうでない亜人も善行を積めば天国に行ける

だから生きとし生けるものは種にかぎらず善行を積み続けるべきである」


 という元の通りといえばそうだと言えなくもない、極力当たり障りの無いものへと改めるに至り、これに呼応し国政もまた人間・ハーフリング・エルフ・ドワーフ・獣人の隔たりを減らしていく方針へとシフトした。



 かくしてラグナントでは現在まで「五民平等」が謳われている、少なくとも表向きは―――






シャリ シャリ シャリ


 昼間というのに薄暗い部屋に砥石の音だけが響く。下町に位置し、光が差し込む箇所は入り口の扉のみという極めて閉鎖的な鍛冶場。いかにも人の寄り付かなさそうなこの空間に今二人の男が存在していた。一人は剣を研ぐ店主と思しき職人。背格好は小さく、顔はまさに髭面の老人という面持ちながらも、はちきれんばかりの筋肉質な上半身を晒しながら一心不乱に仕事に没頭している。もう一人の男は使っていない作業台に腰を下ろし、その様子を垂れた瞳でこれまた神妙に伺っている。


 やがて職人の方が立ち上がると、剣についた水気を拭き取り、刃を上向きで水平に構えその上から紙を落とす。薄い紙は空気の抵抗を受けゆらゆらと舞い落ち、やがてその刃に接触するとすぱっと真っ二つに割けた。その普通では信じがたい光景を見ても、二人の男はさも当然のような得心の笑みを浮かべている。


「どうでい、これで文句はねえだろマシュー坊。」

「ああ、やっぱコイツの手入れはガンノス爺さんにしか頼めねェわ。」


 職人の仕事に満足したマシュー・ベルモンドは笑顔で剣を受け取った。州衛士として支給されるブロードソードではない、「仕事」で使うサムライソードを。出自である東国の島国ではこのサムライソードこそが戦士に配られる支給品だと言われているが、ラグナントの人間にはにわかに信じがたいことであろう。叩き切るのではなく「斬る」ことを主眼においた刃の切れ味、そのか細い刀身からはまるで想像もできないほどの剛性―「剣」というものに対する概念の違いから製法の想像がつかないというのもあるし、そうでなくとも根本的な技術力が違うとあって、この国の職人では再現はおろか取り扱うことすらままならないのだから。それこそ鍛冶に適正のあると言われるドワーフ族の中でも一握りの腕っこき以外では如何ともできまい。


 そしてマシューの場合に限っては、下っ端州衛士であるということ、この剣を声を大にして言えない「仕事」に使っているという事情も加わる。サムライソードというこの剣は精妙な割に、いや精妙だからこそ細やかなメンテナンスが必要とされる。手間はかかるが金は無し、扱える職人は極僅か、しかもとてもじゃないが事情は話せないの三重苦。「『WORKMAN』のことを熟知した身内で腕のいいドワーフの職人」でも居ない限りこのサムライソードは朽ちていく一方だろう。



 つまり、このガンノスという老人はそういうドワーフの鍛冶屋なのだ。



「まあ何だな、いかに異国の技術といえど勇者アランのガイアカリバーを打ったことのある俺にかかれば朝飯前ってこったな。」

「またそれかよ、いい加減耳にタコができらァその法螺話は。」

「んだとマシュー坊、俺が460歳だって未だに信じてねぇのかよ。まあ隣の奥さんからも若々しいですねとよく言われるがなぁ。」

「齢の話じゃねーよ、そんな大人物様がこんな場末で裏仕事してるわけねェってことだよ。」


 ドワーフという種は長命である。平均で500、長寿ともなれば6・700歳にも達すると言われている。となればこの老ドワーフが輝世暦以前を体験していても何らおかしいことはない。とはいえ真偽はともかくマシューの指摘はごもっともだが。


「とにかく毎度感謝してるぜ爺さん。」

「…言うほど感謝される謂れは無いけどな」


 ふと、ガンノスの表情が強張った。


「なあ坊よ、いつまでこんな『仕事』続けるつもりだ?全く関係ねえ、成り行きで始めたこの『仕事』をよぉ?二十歳の若い身空だ、足洗って人並みに所帯持って幸せに暮らしてえとは思わねぇのか?」

「はっ!いきなりどうしたよ?わかってんだろ、人の恨みを晴らすだの外道を殺すだのおためごかしても詰まる所はただの殺戮者。そんな奴にガキ作って幸せに暮らしましためでたしめでたしなんて綺麗なオチ許されやしねェって事はよ!爺さんだってそれがわかってて独身なんだろうが?」


 鞘を握る手に思わず力が入る。震える手を見ながらマシューは吐き出すように続けた。


「…俺がこの『仕事』を辞める時ァ、この刃尽きておっ死ぬまでさ。」

「そうは言うがお前にも大切な人の一人や二人いんだろうが―――」


ドンドンドン


 ガンノスの言葉を遮るように唯一つの戸を叩く音が響いた。こんな会話の最中である、すわ役人か何かと警戒してしまうのも無理は無い。マシューはそっといつでも手が届く位置に剣を置き、ガンノスは工具箱を引き寄せる。今日に限って施錠をしていないことを後悔した。戸を叩いた人影が無遠慮にそれを開ける。


ガラッ


「鍛冶屋さーん、頼んでた包丁もう研ぎ終わってるって聞いて来たんですけどー…ってあれ?主様?」


 現れたのはマシューのよく知る、黒髪を両端で結わえたメイドの少女だった。





「あのなフィアラ、下町のほうは治安が悪いから一人で行くなって言わなかったか?」

「だって仕方無いじゃないですか。大通りのほうの鍛冶屋さんはみんな忙しくて仕上がりが遅れそうだったんですもの。もし間に合わなかったら今日の晩御飯どうなっていたことか…」


 大通りを皮鎧の州衛士とエプロンドレスのメイドが並んでぶつくさ言いながら歩いていた。メイドの鞄の中には先程受け取った研ぎたての包丁。州衛士の腰にはブロードソード。突然の身内の到来に、「仕事」で使うほうの剣は置いて帰らざるを得なかったのだ。


「にしてもだな、あんな一見さんお断りくさい店構えの鍛冶屋に入ろうと思うか普通?職人も難物だし…」

「え?確かに店構えは変でしたけど職人のおじいさんは普通でしたよ?むしろ人当たりよくて優しくて、でもまあちょっとしつこいかなとは思いましたけど。」


 なるほど、こいつが若い女だから喜んで仕事引き受けたんだなあのスケベジジイ。いつもは裏がばれないように表の仕事は極力断っているというのに。そしてファアラと話しているうちに俺との関係を勘ぐってあんな「仕事」やめろだの言い出してきたのだなと。一連の不可解な状況は理解できたマシューだったが、微妙に納得はできずに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「そういう主様こそ、そんな立ち寄り難そうなところに何でいたんですか?どうせまたサボりか何かなんでしょうけど―――」

「ばっ、馬鹿言うな!れっきとした事件の聞き込みで…っておい?」


 途切れた言葉が気になって脇を見ると、隣に居たはずの少女がいない。すわ人攫いか慌ててと振り返れば、彼女は開店前の洋服屋に立ち止まり惚けながら眺めていたのだ。既に店先に並んだ美しい服の数々、とりわけ中央のガラスケースに鎮座ましました純白のウエディングドレスに目を奪われている。その様子に、マシューはバツの悪そうな気分を感じ頭を掻いた。


「…わかってると思うが、うちにそんなもん買う余裕は無いからな。」

「べべべ別に欲しいわけじゃないですよ!たっ只の目の保養であって、その、女の子はこういうのを眺めてるだけでも楽しいんですから!まったく、そういう機微がわかってないから主様は未だに恋人のひとりも作れたことが無いじゃないですか!」

「私の女性遍歴は関係無いだろ!?」


 主従関係らしからぬ言い合いが繰り広げられる前で、洋服屋ではめまぐるしく人が出入りし開店準備が進んでいる。陣頭指揮を取るのは背も高く秀麗な青髪の男性、その傍らには三つ編みの女性が付き添う。表の喧騒に気がついたのか、女性のほうがふと店先で言い争う男女を見つけるとそちらのほうへ駈け出した。


「もしかしてと思ったらやっぱりフィアラじゃないの。どうしたのこんな所で?あ、マシュー様もお久しぶりで。」

「じ、ジーニー!こんな所でどうしたのはこっちの台詞よ!あなたこそ八百屋ほっぽり出して何してんのよ?」


 フィアラに声をかけてきた女性は八百屋の娘のジーニーだった。彼女の実家はベルモンドの屋敷の近所であり、使用人達も買い出しに一番良く利用している。加えて二人は同い年の学友であり関係も深い(ラグナント王国においては全国民に5歳から6年間の学校教育が義務付けられている)。


 そしてそんな仲だからこそ、この娘がこういったお洒落のお店には縁遠いと知っている。だからこそフィアラには彼女がこんなところに居るという画が不思議でたまらなかった。


「実家は大丈夫よパパもママもいるし。それに親の店より自分の店のが大事っしょ。厳密に言えば自分『達』の店だけど」


 斜め上の返答が返ってきた。いよいよもって連想の追いつかない状況に目を丸くさせるフィアラに対し、ジーニーは先程隣に居た美男子を引き連れてきた。


「この人がこのお店のオーナー。で、私達今度結婚するの!つまり私達のお店!」

「ああなるほど、アンタらしくないところで何をしてるのかと思ったら………



って、ええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」



 街の隅にまで聞こえそうなくらいの驚嘆の叫び声が上がった。無理もない、数日前はそんな素振りはまるで見せなかった知人から突然婚約話を聞かされたのだ。しかも十八という若さで、相手は青い長髪をたなびかせる美形の事業主―俗な言い方をすれば金持ちのイケメン―ともなれば尚更であろう。そのイケメンはというと、花嫁の友人への挨拶もそこそこにマシューの方へと寄ってきた。


「あの、こちらの州の州衛士さんでいらっしゃいますか?」

「あっ、ええまあ見ての通り…」

「私、ルザック州の方からこちらに越してきましたライナスと申します。いやー、転居届を出して以来忙しくて州衛士様方へのご挨拶が遅れてしまいまして申し訳ございません。ご覧の通りこちらで商売やらさせていただきますので以後お見知り置きを。」


 ライナスと名乗る男は腰を低くしながら名刺と、それに隠した金子を差し出した。マシューはそっとそれらをポケットに仕舞う。


「いやいやこちらこそ。しかしルザックって言ったら北のほうじゃないかい?ずいぶん遠くから来たもんだねー、ってアンタ、ひょっとして…」

「何です?」

「その耳、もしかしてエルフかい?」


 マシューの指摘通り、その耳は人間よりも横に長かった。耳の長さそのものには気づいていないわけでもなかったのだが、エルフで男性という概念を失念していたので気が付かなかったのだ。何しろエルフの出生率は男女比9:1とも言われ見かけるのはほぼ女性ばかりである。しかも就ける職など数限りあるとも言われる中で男のエルフが青年実業家をしているなどなればなおさらイメージが結びつかないのも仕方がないことであろう。


「おかしいですか?私のようなエルフがファッションの店を出すということが。輝世暦以前ならともかく、五民平等が謳われる今となればいかなる職に就くのも自由、何らおかしいことではないと思いますが?」

「ああ、いや、そういう変な意味で言ったわけじゃないんだ。どちらにせよ気を悪くしたんならすまない、謝るよ。」

「いえいえ、こちらこそ勘ぐり過ぎました。ところでこの州の税制で聞きたいことが―――」



「―――でね、野菜を落として慌てて拾ってる私の手をとってこう言うのよ。『働き者のいい手ですね。あなたのような方がビジネスパートナーなら心強い。そして人生のパートナーとしても―――』ってね!こんな事言われたらそりゃもうね!運命感じちゃうわよね!!」

「あ、うん…」


 男達がお固い話をしている横で、女達は浮ついた話をしていた。話をしていたというよりは片方が一方的に惚気話をまくし立てていただけと言ったほうが正しいか。その様子は声の大きさには定評のあるフィアラですら圧倒されるほどであった。


 ジーニーの語るところによればお互いに一目惚れだったということらしい。とはいえ学生時代から所謂肉食系というかがっつきこそすれ、見た目の野暮ったさからだいたい男運の悪かった友人である、あまりにできすぎてるような気がしないでもなかったが、やっかみと思われるのも癪なので大人しく黙って話を聞いていた。


「あのウエディングドレスも結婚式で着る予定なんだ。何でも50年前のヴィンテージもののドレスらしいよ。」

「え!?やっぱりそんなすごいドレスだったんだ…いいなぁ…」


 流し気味に話を聞いていたフィアラだったが、あのひときわ心奪われた純白のウエディングドレスの話となれば別である。歴史ある逸品であり、しかもそれを着られるとなれば羨望の眼差しを向けざるを得ない。フィアラは勝ち気な彼女らしからぬ表情で学友を眺めていた。


「式の方はだいたい一ヶ月後ぐらいですかね。店のほうが落ち着いてからということで。その時には招待状もお出ししますので是非妻の晴れ姿を見に来て下さいな。」


 話が終わったのかライナスが割って入ってきた。


「いやしかし、招待してもらえるのはいいとして着ていく服がねぇ。新婦があれほどのドレスを着るというなら最低限釣り合いの取れる服装で行かないと恥ずかしいでしょうに、うちの台所事情じゃ厳しいもんですよハッハッハ。」


 マシューのジョークに婚前夫婦が笑う。フィアラは渋い顔をしていた。このように四人はしばし談笑していると



ぎろり



 マシューは遠方から何か殺気めいたものが飛んできていることに気がついた。「仕事」柄そういうものには人一倍敏感な男だからこそ感知できたのであり、他の三人は何ら滞り無く会話を続けている。悟られぬよう辺りを見回すと、曲がり角の建物の陰から見知らぬ老婆がこちらの一団を睨みつけていた。乞食めいた服装に鬼婆のような形相、なるほどおよそ市井で平凡に生活している人間のそれではない。となれば標的は誰なのか。ジーニーか、ライナスか―――さもなくば自分かフィアラか。自分の腰にはブロードソードがぶら下がっているのみ。だとしたらもし今仕掛けられたのならば自分に身を守る術も大切な家族を守る術はない。こんなことならば多少怪しまれてでもサムライソードを持ち帰るべきだったか。握った拳にじわりと汗がにじむ。


 などと後悔していると、いつの間にか老婆は消えていた。よくよく考えれば今の自分は見た目からして州衛士、幸運なことに白昼堂々警察のいる前で襲いかかるような愚を犯すほどあの老婆も狂ってはいなかったようだ。一安心して胸を撫で下ろす。しかし油断は禁物だ。


「では私はこの辺りで公務に戻りますので。よしじゃあフィアラ帰るぞ。」

「え?ちょっと主様なんで私まで…ってじゃ、じゃあジーニーまた今度ねー!」


 まだ話し足りなさそうなフィアラの手を取り、マシューは一旦家路についた。念には念を入れて安全な家まで送り届けようということなのだが相手にその意図が伝わることはなかったようで(伝わっても問題なのだが)、家についた頃には怒っているのか何なのかフィアラは顔を真赤にしてマシューを睨みつけている。マシューは極力目を合わせないように見回りの仕事へと戻っていくのだった。





「あらまあ~八百屋のジーニーちゃんがもう結婚だなんてね~」


 夕食後のお茶を淹れながら、フィアナが驚きの声を漏らす。主と妹が微妙にぎくしゃくしている様子を見て事の経緯を尋ねたのだが、やはり彼女にとってもジーニーの婚約は意外なことだったようだ。


「びっくりですよねー。私ももっと色々お話聞きたかったのに、主様が…」

「いいじゃねえかどうせ聞いててもやっかむだけで面白いことでもあるまいに。」


 カップに砂糖をひとさじ加えながらマシューはフィアラのあてつけに言い返した。どうやら彼女も図星だったらしく皮肉の言葉も詰まる。


「うぐっ!そ、そりゃまあ先越されて悔しいとか羨ましいとか思わないこともないですけど…それでも結婚式のお話はもっと聞きたかったですよ。」

「結婚式?」

「そうですよ、式の予定について。あれだけ綺麗な衣装が用意されてるんですもの、それ以外のこともきっとすごい事になってるんじゃないかって。純白のドレス、素敵な教会、絢爛な披露宴、祝福の声…ああ、いいなぁって…」

「いやそれこそ絵に描いた餅じゃないか。」

「ほんとデリカシー無いですね主様。結婚式って女性にとって一番の憧れ、一世一代の檜舞台なんですから。話を聞いて『いつか私も…』って想像するだけでも十分楽しいんですよ。」


 幼い頃から使用人として働いているとはいえまだ18の少女である。年齢相応の結婚への憧れを持っているのは当然なのだが、15の頃に人を斬って以来生臭い裏社会に足を踏み入れ人間の汚い部分をこれでもかと見てきたマシューにとっては、その純粋なまでの憧憬が眩しすぎて堪らなかった。そして、この輝きをいつまで守り抜けるのかと思うと不安に襲われた。そんな気持ちをごまかすように、マシューは精一杯の皮肉を口にする。


「…憧れるのもいいけどその前にまず相手探せよ。」

「あっ、主様にだけは言われたくないですよその台詞は!!深刻度で言えばお世継ぎ作らなきゃいけない主様のほうがよっぽどじゃないですか!!」

「お前、人が忘れてた痛いところを掘り返しやがって…!」




(結婚式もお世継ぎも、今すぐにでもどうにかできないでもないんだけどな~)


 目の前で始まってしまった口喧嘩のせいで、言わんとする提案を飲み込まざるを得なかったフィアナであった。





 ベルモンド邸でそんなことが繰り広げられてる頃、婚前の二人は州の中央公園にいた。昼間は市民の憩いの場ではあるが、夜にはもっぱら恋人たちの逢瀬に使われるデートスポットである。日中の仕事を終えた青髪のエルフと三つ編みの女は、周囲のカップルたち同様並んで座りながら愛の言葉を呟く。


 しかし、ふとその愛の囁きのうちに不穏な言葉が混じった。




「ジーニー、すまないが僕らの未来の為に、500万ギャラッドほど貸してくれないか…?」


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