第4話

「……ん……?」


 捕えられたエルフ――――アレクシアは、目を覚ました。

 未だに頭が覚醒しない中、ゆっくりとあたりを見渡すと、見慣れない部屋が目に飛び込んできた。

 まるで洞窟の中のような空間に、質素なテーブルとランプが一つ置いてあり、アレクシアの寝ているベッドも、ごく普通のものだった。


「こ、ここは……?」

「俺のアジトだ」

「!」


 不意にかけられた声に驚き、すぐさま警戒態勢をとり声の方に視線を向けると、そこには妖艶な笑みを浮かべる男が立っていた。


「アナタは……!」


 その男は、自分がユースティア大帝国の兵士に運ばれているところを襲撃し、文字通り兵士たちのすべてを奪った存在だった。

 そんな経緯もあって、アレクシアはすぐさま天賜を発動させようとするが、発動する気配はない。


「おっと、天賜を使おうとか思わねぇ方がいいぜ? まあ、お前が捕まってた時に装着させられてる、その『封天の腕輪』や首輪でそもそも発動できねぇだろうが」

「くっ!」


 アクレシアに装着されている腕輪や首輪は、『封天』と呼ばれる特殊な技術が使われており、装着された者は天賜を封じられるのだ。

 ゆえに、犯罪者や奴隷などに装着されることが多く、奴隷として運ばれていたアレクシアにもしっかりと装着させられているのだ。


「……アナタは、誰なんですか?」


 男を睨みつけながらそう訊くと、男は余裕の笑みを浮かべたまま答えた。


「俺か? 俺はヴァイス。ま、悪人だよ」


 男――――ヴァイスの言葉を聞いてもなお、アレクシアは警戒を緩めない。


「……何が目的ですか?」

「目的ねぇ……その目的ってのは、とっくに達成されてんだよ」

「え?」


 予想外の言葉に、アレクシアは思わず呆けた表情を浮かべる。

 そんなアレクシアを無視して、男は続けた。


「俺の目的ってのは、ユースティア大帝国の第三皇子――――グシャーノの求めてるモノを奪うことだからな」

「……つまり、私自身が目的だと?」

「いや? 奪う対象は何だってよかった。俺にとって重要なのは、ユースティア大帝国の第三皇子の欲していたモノを奪うことだからな」


 ヴァイスはそういうと、微かに瞳の奥にどす黒い感情を覗かせた。

 アレクシアがそれに気付く前にその感情を抑えると、ヴァイスは再び妖艶な笑みを浮かべる。


「だがまあ、今回はアタリだったな。まさかエルフの姫様を手に入れる事が出来たんだからよ」

「ッ!」


 ヴァイスの言葉に、アレクシアは自分の体を抱きしめる。


「無礼な! 私の体は、神聖なる世界樹のためにあるのです! 下種な人間などに、決して体をゆるしたりなどいたしません!」


 激しくヴァイスを睨みつけると、ヴァイスはそんな威嚇を無視し、アレクシアをいともたやすく組み敷く。


「んなこと知ったこっちゃねぇな。俺は決めたんだ。俺の欲しいものは全て奪う……お前の純潔だろうと。このユースティア大帝国のモノは、例え何であろうが一つも残さずな……」

「え……」


 先ほどよりも明確に、ヴァイスの瞳の奥に渦巻くどす黒い感情を目の当たりにして、アレクシアは呆然とした。

 それは、ヴァイスの瞳の奥に宿る感情が、復讐のモノだとアレクシアは気付いたからだ。

 アレクシアの様子を見て、自分の感情が制御できていないことに気付いたヴァイスは、すぐにアレクシアから離れる。

 そして、どこか不機嫌そうな様子で口を開いた。


「チッ……白けた。せいぜい、自分の純潔をいつ食い散らかされるか、怯えながら過ごすんだな」

「あっ!」


 ヴァイスは、背後で何か言いたそうにしていたアレクシアを無視して、部屋から出ていくのだった。


***


 俺――――ヴァイスは、アレクシアを犯してやろうかと思ったところで、自身の復讐心を隠しきる事が出来ず、その復讐心に気付いたアレクシアを見て、俺の興が冷めてしまった。

 俺が復讐心で突き動かされているのは間違いなく正しいのだが、その感情に操られていると他人に思われたりするのは非常に不愉快なのだ。

 俺の復讐心は、俺のモノだ。

 同情も何もいらない。

 だからこそ、俺の復讐心の一端を垣間見たアレクシアの様子を見て、俺は白けたのだ。


「クソが……感情の制御ってのはどうも性に合わねぇ……」

「ご主人様?」


 俺が悪態を吐きながら歩いていると、美味そうな食事をトレーに乗せて歩いている、クールなメイドの女――――ルディアが、俺を見て不思議そうに首を傾げた。


「どうかなされましたか? 確か、捕らえたエルフの下へ行ったのでは……」

「……まあな。ただ、気が削がれたから戻って来ただけだ」

「……そうでございますか」


 ルディアは、俺の様子に、何かを察したようで深くは訊いてこなかった。

 俺がルディアと出会ったのは、【オムニスの森】にあった、とあるダンジョンだった。

 オムニスの森に入ったばっかりのころは、生きること、強くなることに必死だったが、やがてある程度の実力を手に入れたときに今この俺のアジトとして利用している、ダンジョンを発見したのだ。

 ダンジョンとは、主に洞窟などに出現することの多い、特殊な構造の迷宮で、内部には魔物が蔓延り、倒した魔物はその場に残ることなくアイテムを残して消滅していくのだ。

 他にも、部屋に宝箱が置いてあったり、難易度の高いダンジョンであればあるほど、宝箱から手に入るアイテムは非常に強力なモノが多かった。

 そもそもダンジョンが出現する条件や、内部の魔物やアイテムなどについては、昔から多くの学者が研究しているようだが、詳しいことは分かっていないらしい。

 ただ、オムニスの森に出現していたこのダンジョンは、元々ルディアをするために作られた場所が、ダンジョン化したものだった。

 そう、俺はダンジョンに封印されていたルディアと出会ったのだ。

 ではなぜルディアが封印されていたのか?

 それは、ルディアが『吸血鬼』と呼ばれる種族の、それも真祖……つまり最も強力な吸血鬼で、それを畏れた人間たちに封印されてしまったのだ。

 ルディアは、封印される前は人間との共存を望み、人間たちを愛していたのだが、人間はそれを裏切った。

 悲しかっただろう。

 悔しかっただろう。

 憎かっただろう。

 だが……彼女は優しかった。

 ルディアには、人間を傷つけることが出来なかったのだ。

 そのため、ルディアは本来人間に負けるはずがないのだが、封印される結果となった。

 そんなルディアを、俺はダンジョンを攻略することで封印を解き、主従の契約を結んで、今に至るわけだ。

 俺がルディアとの出会いを思い出していると、ルディアは慈愛に満ちた表情で、俺を見つめた。


「ご主人様。私は、何があろうとご主人様の味方です。ダンジョンに封印され、寂しくて辛い思いをしていた私を、ご主人様は救い出し、癒してくださった……傍にいていいと、そう言ってくださりました。人の温もりを、私に教えてくださったのです」


 確かに、俺はルディアにそう言った。

 長い年月封印されていたことで、人間だけでなく世界にも憎悪していたルディアを、俺は自分自身と重ねたのだ。

 俺はすべてを奪われ、ルディアはすべてに裏切られた。

 同じく復讐の炎に身を焦がす俺たちは、最初こそ俺も人間と言うことでルディアと死闘を繰り広げたのだが、最終的に和解したわけだ。

 和解する際に、俺はルディアの心に空いた穴を埋めるよう、俺がいつでもそばにいる、そばにいてもいいって言ったんだ。

 ……今にして思えばずいぶん恥ずかしいことを口にしたし、何よりあの時の死闘はヤバかった。今は分からないが、当時は本当に死にかけたからな。

 それはともかく、俺が自分自身の言葉を思い出して少し照れていると、その様子を見て何やら得意げな表情を浮かべているルディアに少し思うことがあったので、俺も意地悪なことを口にした。


「まあ、気が遠くなるほど長く生きてたクセに、処女だったことには驚きだったけどよ。年上ぶってたが、一瞬で堕ちたもんな?」

「なっ!? そ、それは言わないでください! ご主人様がすごすぎるんです!」


 俺の言葉に顔を真っ赤に染め上げたルディアは、焦った様子でそう言った。

 軽い意趣返しに満足した俺は、ルディアの手に持っていたトレーについて訊く。


「そう言えば、そのトレーは何なんだ?」

「あ、これですか? あの捕えたエルフに持って行こうかと。あの兵士たちに捕まっていた間に、まともな食事を与えられていたとは思えませんし……」

「そうか。俺はそこまで気が回らなかったからな……まあそこらへんはお前に任せるさ」

「はい、かしこまりました」


 恭しく頭を下げるルディアに軽く応えた後、俺はその場から立ち去るのだった。


***


「あの瞳の奥の感情は一体……」


 私――――アレクシアは、自分を捕えたヴァイスという男の瞳の奥に浮かんだ、感情のことについて考えていた。

 どこまでも激しく、昏い闇のような……それでいて切なく、悲しい瞳。

 どうしようもない悪人だと思っていたのに、瞳に浮かぶ感情には、並々ならぬ背景があるように思えてならなかった。


「失礼いたします」


 ヴァイスという男のことを考えていると、不意に扉がノックされ、一人の女性が入室してくる。

 その女性は、透き通るような白い肌に、キラキラと煌めく白銀の髪。

 そして真っ赤な血の様に妖しい輝きを放つ瞳を持った、どこか冷たい印象を受ける綺麗な方だった。

 彼女のことは、覚えている。

 ヴァイスの後ろに、控えるようにして立っていたメイドの女性だ。

 そのメイドは、トレーに食事らしきものを乗せ、この殺風景な部屋にある、質素なテーブルの上にその食事を置いた。


「こちらをお召し上がりください」

「あ、あの……アナタは?」

「私でございますか? 私はご主人様……ヴァイス様にお仕えする、メイドのルディアです」


 メイド……ルディアさんは、そういうとエルフの中でも王族である私から見ても、驚くほど洗練されたお辞儀をしてみせた。

 お辞儀に思わず見惚れるが、正気に戻った私は、ルディアさんに思い切って訊ねた。


「あ、あの!」

「なんでしょう?」

「その……ヴァイスとは、何者なのですか?」


 私がまだ、エルフの姫として集落にいたころにも、ヴァイスという名は聞いたことがなかった。

 あの人数の兵士を一瞬で倒してしまうほどの実力を持っているのに、その名は一度も聞いたことがないのだ。

 だからこそ、私には気になって仕方がない。

 彼が、どのような存在なのか。

 すると、ルディアさんは悩むようなそぶりを見せると、真剣な瞳を向けてくる。


「……ご主人様は、悪人でございます」

「それは、彼自身も言ってましたが……」

「ええ。ただし……この世界での『正義』であり、ご主人様にとっての『悪』でございます」

「この世界の?」


 ルディアさんの言葉の意味が、私にはよく分からなかった。

 この世界の『正義』に対する『悪』だというのなら、彼は普通の悪人ではないということなんだろうか?

 そんな私の疑問が伝わったのか、ルディアさんは続ける。


「この世界では、力ある者が正義であり、それ以外の権力、金、地位……それらを持たぬ者は、悪とされます。ご主人様は、その世界の『正義』によって、大切なモノを奪われたのです」

「大切なモノ?」

「……ご主人様は、孤児でした。ですが、悪事に手を染めることなく、仲間たちと辛い中でも幸せに暮らしていたのです。それを、孤児というだけでこの世界の貴族に奪われた……ご主人様をいたぶるように、目の前で殺していったのです」

「そんな……!?」


 ルディアさんの口から語られた内容に、私は息を呑むことしかできなかった。

 私は奴隷になってしまったとはいえ、そんな過酷な世界で生きてはいなかった。

 それも、仲間たちを目の前で殺されるような目には遭うことなんて……。

 言葉を失う私を置いて、ルディアさんは淡々と続けた。


「だからこそ、ご主人様は決意なされたのです。この世界の正義であり、ご主人様にとっての悪をもって、この世界のすべてを奪うと。ご主人様の『悪』で……この世界の『正義』で『正義』を否定しようとしているのです」

「……」


 私は、ヴァイスの背景にそんな事情があるなんて思わなかった。

 ただ、私をユースティア大帝国の兵士たちから奪い去り、私の純潔を奪おうとするケダモノで極悪人だと思っていた。

 それが、実際は奪われ続けてきたからこそ、その現状が正義である世界に復讐しようとしているとは思わなかったのだ。

 言葉を失う私を前に、ルディアさんは恐ろしいほどの威圧感を発しながら、私に警告した。


「……私はアナタが何をなさろうとも構いません。ですが、ご主人様の邪魔をするようでしたら――――消します。私は、何があろうとご主人様に付き従うメイドであり、ご主人様の敵は、私の敵ですので」

「……」


 ルディアさんは、再び見惚れるような一礼をすると、部屋から出て行った。


***


 ――――ガロン城。

 巨大で見る人々に畏敬の念を抱かせる、ユースティア大帝国の誇る城である。

 ここには、ユースティア大帝国を治める帝王……ジェイド・ルール・ユースティアが住んでおり、日々豪華絢爛な生活を送っていた。

 そんな城の一室で、でっぷりと太った男が荒れていた。


「何故だ何故だ何故だッ! 何故届かん!? 我の所望したモノはまだ届かんのか!?」


 男は、豪華な衣装を身に纏うも、今にもその贅肉で服がはち切れそうであり、様々な宝石の散りばめられた装飾品を体中に身に着けている。

 この男こそ、ユースティア大帝国の第三皇子であるグシャーノ・カカ・ユースティアだった。

 周囲の家具に当たり散らし、部屋は散乱している。

 そんなグシャーノの様子を、上等な鎧を身に纏う一人の女騎士が無言で見つめていた。

 腰まで伸びた真紅の髪に、アメジストのような紫の瞳。

 キメ細かい白い肌には、傷一つ付いていない。

 凛とした表情と、女性にしては高めの背も合わさって、非常に鎧姿が似合っている。

 彼女の名はルオラ・ヴァルハート。

 グシャーノの身辺警護を直接この国の帝王から仰せつかっていた。

 だが、彼女はこのユースティア大帝国の騎士の中でもエリートしか入隊できない、【陽光騎士団】のメンバーだったのだが、元上司であるとある騎士に目を付けられ、グシャーノの身を護る騎士となった。

 第三皇子の身辺警護と言えばある種の近衛騎士と同じであるのだが、無能として有名なグシャーノの騎士に任命されたのは、実質左遷と同じであった。

 それでも、ルオラは文句を言うこともなく、無茶苦茶なグシャーノの警護を忠実に守っていた。


「おい、ルオラ! 一体どういうことだ! 何時になったら東の森のエルフ共の姫が我の手に届くのだ!?」

「……申し訳ありませんが、私にはお答えしかねます」

「ええい、無能な騎士め! 貴様なぞ、その力以外存在価値がないのだぞッ!」

「……申し訳ありません」

「やっと手に入れたエルフの姫……多少歳は食ってはいるが、世界樹に身を捧げる未だ男を知らない処女だ。そんなエルフを無理やり組み敷いて犯すことを愉しみにしていたというのに……! まさか、兵士どもが手を出してるんじゃないだろうな!? もしそうなのなら、そいつらは一家揃って八つ裂きにしてやる! いや、妻がいるのなら、目の前で犯してやる……!」

「……」


 グシャーノは、その場をウロウロしながらブツブツと何かを呟き、やがて何かに気付くと激しい怒りをあらわにした。


「フゥー、フゥー、フゥー……まあいい。ヤツ等も我を敵に回すような真似はしないであろう。エルフの美貌をこの手で歪めるのが愉しみでならぬわ! ……貴様も顔だけはいいが、我は無骨な女を抱く趣味はない。それに、気の強い女を犯すのは好きだが、我より強い女など目障りでしかないからな」

「……」


 散々喚き散らし、一人で勝手に疲れたグシャーノは、ルオラの体を見た後鼻で笑った。

 グシャーノがある程度落ち着いたのを見計らうと、ルオラは一つ耳にした噂を口にした。


「グシャーノ様」

「あ? 何だ?」

「……一つ、気になる噂を耳にいたしまして……」

「噂だと?」


 ルオラの言葉に興味を示したグシャーノは、続きを促す。


「はい。グシャーノ様は【オムニスの森】というのをご存知でしょうか?」

「あの人外魔境の事であろう? それがどうした?」

「……最近、あの周辺を通りかかる商隊や我が国の兵士などが忽然と姿を消す事件が起こっているのです」

「何? 姿を消すだと?」

「姿だけではありません。商品などの持ち物だけでなく、馬や馬車すらも消え、その場に残るのは馬と馬車の通った痕跡のみ……それも、途中で消え、行方が分からなくなっているのです」

「フン……で? それが何だというのだ? この我にそのようなくだらない話をするのだから、何かしら意味があるのだろう?」


 豪華な椅子に座り、ふんぞり返りながらグシャーノはルオラを見下してそう口にする。


「……私見ではございますが、グシャーノ様のお求めになっていたモノも、同じように姿を消したのではないでしょうか?」

「何っ!?」


 先ほどは面白くなさそうに聞いていたグシャーノも、自分の求めていたモノが消えたかもしれないと聞かされ、大きな反応を示す。


「どうして消えるのだ! それに、【オムニスの森】に用はないはずであろう!?」

「ですが、【ローネア大森林】からここ、帝都に帰還するまでの道はオムニスの森付近を通過いたします。オムニスの森は本来危険ではあるものの、周辺に魔物があふれ出ることは今までなかったのですが……」

「ルオラ……貴様は我の所望するモノが魔物風情に奪われたとでも申すのか!?」

「いえ……それにしては、魔物の足跡がなかったことが不自然です。ですが、実は一つの人間の足跡がその地に残っていたのです」

「なにぃ?」

「その足跡は、商隊の人間のものでも、ましてや兵士たちのものでもありませんでした。そこで、現在は警戒しながら巡回の兵を増やし、調査にあたっているそうです」


 ルオラがそこまで言い切ると、グシャーノは顔を真っ赤にして叫んだ。


「ふざけるなッ! この我の物を横取りした人間がいるということか!? 許せぬ……断じて許せぬ! ルオラッ! 貴様も今すぐオムニスの森に行き、その罪人を連れて来い!」

「……グシャーノ様。私はグシャーノ様の身辺警護という仕事が……」

「黙れ黙れ黙れぇ! この我の言うことが聞けないのか!? 貴様の主である我の命令だぞ! 貴様は黙って我の命令に従っていればいいんだ! 言ったはずだ! 貴様には力以外何の取り柄もないとなぁ!? 今こそその無駄な力を使え!」

「……御意」


 ルオラは口の端から唾を飛ばして喚くグシャーノを前に、頭を下げて部屋から退出した。

 オムニスの森は危険であり、おいそれと近づいていい場所ではない。

 だが、ルオラのような実力者はその限りではなく、故にグシャーノもそれだけは理解していたため、ルオラを捜査に出したのだ。

 その結果、自分の身の安全が劇的に下がるのだが、愚かなグシャーノはそこまで頭が回らなかった。

 身支度を整えたルオラは、すぐにオムニスの森に向かって出発する。

 しかも、今回は他の騎士団の中でも問題ばかり起こしている男たちも同行することになった。

 ルオラ自身に問題はないが、同行を命じられた男たちは、実質死刑宣告を受けていることに気付いていない。

 また、男たちはルオラのような女性が、自分たちに指図するのを面白く思っておらず、邪な感情を抱いていることにもルオラは気付いていた。

 それでも、ルオラは自身に与えられた仕事を全うするために動き出す。

 ――――ルオラが運命の出会いを果たすのは、もうすぐの事である。

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