二千18年の初詣祈祷(ファーストプリーズ)
呼び鈴を鳴らす。
神社を後にし、僕はあやかの家の前に来ていた。何度も、何度も呼び鈴を鳴らした後、出てきたのは目の周りを真っ赤にしたあやかだった。
「……あれ? かける。……どうしたの?」
「あやか! 病院は行かなかったのか!?」
「うん。やっぱり……、怖くて……」
あやかの声は掠れていた。
きっと、あれから一人で泣いていたんだろう。怖くて、辛くて、寂しくて。
「かける。……悪いんだけど今一人になりたいの。用がないならもう帰ってくれるかな?」
玄関の扉を閉めようとしたあやかに、僕は叫びつけた。
「神林あやかさん! 僕と付き合ってください!!」
玄関前で僕は深々と頭を下げた。
僕があやかに告白するのはこれで三回目となる。
二度ある事は三度ある。そして、これが三度目の正直だ。
「かける。悪いんだけどさ。さっきも言ったよね? それに私が今そんな状況じゃないってかけるは知ってるよ――」
「僕がお前の気持ちを考えてないって言うならおまえはどうなんだよ!!」
僕が急に大声を出したものだから、あやかはビクッと体を震わせた。
「ふざけんなよ! 今ならお前の気持ち全部わかるぞ!! バレバレだ!! 筒抜けなんだよ!!」
「……かける?」
「中学の時、勉強しなかった僕を変える為にあんな事を言ったんだろ!? 今日は壁の事で迷惑をかけると思って僕を突き放したんだろ!? 今でも、僕と一緒に登下校したいって思ってんだろ!? 全部バレバレなんだよ!! 何年一緒にいると思ってんだ!! そんな顔になるまで全部一人で抱え込むなよ!!」
あやかは完璧な優等生だ。人の気持ちを汲み、考え、それに最適な答えを出すことが出来、そしてそれを実行できる程の優しさを持っている。だが、裏を返せばそれはただの自己犠牲。自分の望みをただ押し殺しているだけだった。完璧であるが故に、あやかは不完璧だった。
僕はそれを知っていた。知っていた筈だったんだ。だから、僕が彼女に言うべきはこの言葉だったんだ。
「あやか! 僕はおまえとずっと一緒にいたいって思ってるよ!! じゃあおまえはどうなんだよ!? 自分の希望を言えよ!! 俺が全部叶えてやるよ!! 壁なんて関係ない!! 理由なんて関係ない!! 僕がおまえを好きなのは僕がおまえを好きで居続けたいからだ!! 僕が大好きな神林あやかとずっと一緒にいたいからだ!!」
あやかは俯き、枯れきったはずの瞳から再び涙を流し、静かに、確かに、呟き、僕はただそれを静かに、確かに、聞いた。
結論を言えば、今日は僕が人生三回目の告白をした日であり、そして人生初めての告白をされた日になった。
◇
そんなこんなで、これで、僕とあやかとの15㎝の奇妙な物語は終焉、幕引きである。本来ならば不可侵領域が解けるであろう2018年の元旦までを語りたいところだが、どうやら、残念ながらそれは許されそうにない。
なぜならば、この神社の神が僕や神林あやかに与えたもう15㎝の
だが、きっと、恐らく、多分。
確証なんて微塵もないが、それでも僕とあやかはうまくやっていけると思う。
僕たちは、物理的に近づくことは許されなくても、そんな事には関係なく、お互いの心中を察する事が出来た。察する事が出来ると知れたのだから。
あやかの肌の温もりに酔いしれるのは、その有難みが最大限発揮される人肌恋しい季節、めっきり冷え込むであろう今年の冬休み最大の楽しみとして残しておくことにする。
15千字の不可侵領域 いずくかける @izukukakeru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます