19話

 徹は女を見ていた。


 川上塔子と、升さき江、それと知らないスーツの女。


 強い力を持った女だ。


 今の徹で、勝てるかどうか。微妙なラインかもしれない。しかも、強い力を持っているのは、スーツの女だけではなく、他にも二人いる。


 妖魔攻撃隊。


 この日本を守護する能力者達だ。


 人を喰い、力をつける徹。遅かれ早かれ、彼女達とぶつかるのは分かっていた。しかし、まだ時期尚早だ。


 失敗したか。


 昨日、興奮しすぎて木戸亜希子の頭部を川に捨ててしまった。それがまずかったのだろう。初めてのセックス。泣きはらし、虚ろな表情を浮かべる木戸を、生きたまま喰った。


 食欲と性欲を満たした徹。だが、満たされる事はなかった。徹の体は、体の中に宿る御朗様は、まだ肉を欲していた。


 次の獲物は誰だ。登校した徹は、クラスメイトの塔子に目をつけた。


 彼女は、一般人でありながら他者よりも強い龍因子を持っていた。彼女を喰えば、数人分の龍因子を一気に取り込める。それに、なかなかの美人だ。


 しかし、ここから先は慎重に事を進めるしかない。


 妖魔攻撃隊に見つからず、一人一人、目的の人物を喰っていく。


 これは、ゲームだ。スニーキングをして、一人一人、殺していく。敵を倒してレベルを上げて、妖魔攻撃隊を倒す。彼等を喰らえば、もう誰も自分を止められない。


 徹は目を細めた。三人が分かれる。


 スーツの女、塔子、さき江。


 三人の女性を見つめた徹は、口元に残虐な笑みを浮かべると、その中の一人に当たりをつけた。


「さあ、食事の時間だ」


 舌なめずりをした徹は、空腹と同時に、下半身が熱くなるのを感じた。これから起きることを想像するだけで、男性器が膨張した。




 恵と小一時間ほど話し込んでしまったが、午前中で授業が終わったため、まだお昼を少し回った頃だった。


「恵さん、格好良かったな~」


 さき江は胸元に手を当て、恵を思い出してキャッキャとはしゃいでいる。


「確かに格好良かったけどさ、そこまで?」


「塔子は憧れない? 強くて美人でさ、やり手なキャリアウーマンって感じで。妖魔攻撃隊は完全な実力主義だから、女性だろうと強ければ上へ行けるシステムなんでしょう? 私、そういうのに憧れる」


 さき江は、「塔子は違うの?」と答える。


 問われた塔子は、「う~ん、そうね」と小首を傾げる。


 確かに、小さい頃は男女の差は気にならなかったが、中学、高校と年を重ねるごとに、男女であることの差を感じずにはいられない。


 就職、進学、どちらを選ぶにしても、『男』、『女』の違いが目に見えてくる。進学はまだ良いが、就職ともなると就ける職業に大きな差が出てくる。


 『完全な実力主義』。さき江はそれが素晴らしいと言っていたが、塔子には自信が無い。どんな職に就こうとも、果たして人よりも秀でた能力があるのか、疑問だった。


 さき江は常に前向きで、物事に関してもポジティブな思考の持ち主だった。変わって、塔子はどんな時にもリスクを考えてしまう。失敗したらどうしよう、失敗するかも知れないから、こうしておこう。良いように言えば用心深い性格なのかもしれないが、悪く言えば後ろ向きな性格だ。


 この性格、どうにかしたいと思うが、自分の根底に関わる部分は、なかなか直しようがない。


「あ~あ、私も龍因子が高かったらな~。ハンターになりたかったな」


「ちょっと、さき江、ハンターなんて危険よ?」


「でも、フリーのハンターになれば、大金持ちになれるんでしょう?」


「そうだけどさ、その分、危険なのよ? 命に関わるくらい」


「それは分かってるけど。お金も稼げて、人助けも出来るって素晴らしいわよね」


「……そうだけどね。さき江は、看護師になるんじゃなかったの?」


「そうよ。人助けをするのは、ハンターだけじゃないから。私は私なりのやりかたで、誰かを助けるの。力があったら、看護師じゃなくて、ハンターになりたかったなって事よ」


 上機嫌にさき江は笑っていた。


 彼女なら、きっと地元を離れても大丈夫だろう。大学に行って、きっと素晴らしい看護師になるはずだ。


 大きな交差点で、塔子とさき江は足を止めた。昼間の交差点は、車の通りは少なかった。


「それじゃ、塔子。また学校でね」


「うん。さき江も、気をつけてね」


 「バイバイ」と、手を振りさき江は帰路へ着いた。少しの間、さき江の後ろ姿を見守っていた塔子は、自分も歩き出した。


 これが、生きたさき江を見た最後の姿となった。

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