18話

 一口、冷たい缶ジュースを飲んだ塔子は、ホッと一息ついた。


「学校は、半日休みになったんだね。当分お休みかな?」


「はい。校長先生から話があって、第三種生命体の件が落着するまで外出禁止って言ってました。授業も午前中でおしまいで、帰り道で恵さん達にあったんです」


「うん。まあ、学校の対応としたらそんな所でしょうね。私達の方から、市内の学校や企業に連絡がいっているはずだから。……家にいて安全なら良いんだけど」


 コーヒーを飲みながら、恵は呟く。


 人気のない公園。遊具はブランコと滑り台のみ。公園は大きいのに、遊具はたったの二つだけ。塔子達が子供の頃は、もっと沢山の遊具があったが、最近は危険だからという理由で撤去されているらしい。


 いつ見ても閑散とした公園。隅の方には数台の自動販売機が並び、川に面した場所には三基のベンチが並んでいる。


 塔子達は、そのベンチに腰を下ろしていた。


「私達、初めてです。身近で第三種生命体の事件が起きるの」


 さき江が少し興奮気味に話す。それを見て、恵は「まあ、滅多いないからね」と、困ったような笑みを浮かべる。


「でも、さき江さん、本当に気をつけた方が良いわよ。あの手口を見る限り、相手は捕食成長型。まだ力は弱いけど、どんどん強くなるタイプだから」


「気をつけるって、どうにですか? 私達、戦えませんけど?」


 さき江が同意を求めてくる。塔子は頷きながら、「逃げられるようにも思えません」と返す。


「まずは、出歩かないこと。後は、祈ること」


「祈るんですか?」


 目を丸くしたさき江の言葉に、恵は「まあね」と肩をすくめて見せた。


「第三種生命体と、出会わないように祈るだけよ。確率的には、宝くじに当たるよりも少し多いくらいだから。滅多な事じゃ出会わないけど」


「出会ったら、どうにもならないんですか?」


「流石に、こればかりはね。捕食成長型は、人を喰らい強くなる。彼等の目的にもよるけど、大体は捕食が目的だから。だけど安心して、被害を最小限にするために、私達がいるわけだし」


「はぁ……」


 さき江はがっくりと項垂れた。


 塔子も同じ気持ちだった。


 今まで、『死』についてあまり考えたことがなかった。『死』は『生』と対になっている存在だが、人は死が間近に迫るまで、『死』についてあまり考えない。もちろん、それは高校生である塔子も同じで、人が死ぬことなどテレビや映画の中だけのように錯覚していた。


「第三種生命体の事件は、ニュースにならないだけで、結構あるのよ? このG県だって、週に数件は事件が起こるの」


「そんなに起きているんですか?」


 驚きだった。第三種生命体は、思いのほか身近な存在なのかも知れない。


「そうよ。事件と言っても、人が死ぬ事件だけじゃないわよ。呪いやら幽霊の騒ぎ、その辺も私達妖魔攻撃隊の仕事だから」


「春先に、東京で起こった事件みたいなのだけじゃないんですね」


 以前、ニュースで大騒ぎになった事件だ。さき江はあの事件の時、東京は恐ろしくて行きたくないと、真顔で言っていた。


「ああ、あの事件ね。あれは特別よ。都内全域が非常事態宣言で、外出はもちろん禁止。あらゆる交通機関もストップ。情報統制だってされたんだもの」


 コーヒーを口に含みながら、恵は遠い目をする。


「もしかすると、恵さんも参加したんですか?」


「一応ね。私達、分隊の隊員にも招集が掛かったの。もっとも、私達は市民の避難誘導なんかの、後方支援をしていたわ。メインに動いたのは、一番隊と二番隊ね」


「凄い! やっぱり、一番隊と二番隊は別格なんですね! 東京に出現したのは神クラスの龍神って、ネットで話題になってました。話に寄ると、妖魔攻撃隊本部の一番隊が倒したんですよね?」


 さき江は目を輝かせる。塔子も、急にハンターである恵が有名人に思えてきた。


「龍神と言えば、龍神だろうけど。さき江さんの話が世間に出回っている話だとするなら、政府の情報統制はまずまずだったってことね」


「さき江の言っていた、ネットの話は嘘なんですか?」


「真実と虚偽が入り交じってる感じ。正直、私も詳しくは知らないの。色々と裏のある事件みたいだったから」


「そうなんだ」


 残念そうに、さき江は呟く。


 話が一旦終了したところで、「さて」と、恵は前置きをした。


「それじゃ、話を聞かせてくれる? その、少しおかしなクラスメイトの話」


 塔子とさき江は目を見合わせ、こくりと頷いた。


 ジュースで喉を湿らせた塔子は、片瀬徹の事を話し始めた。

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