6話

 ズキズキと、断続的に頭に激痛が走る。激痛が走る度、フラッシュバックのように脳裏に断片的な記憶が蘇ってくる。


 廃病院の屋上


 眼下に見下ろすマットレス


 感じたことのない浮遊感 恐怖


 空に浮かぶ蒼い月


 空に浮かぶ紅い月


 不吉な月 月 月


「御朗様……」

 全てを思い出した。力の入らない体に鞭を打って、徹はもう一度鏡を見る。

「僕は、死んだ……。御朗様の力で生き返った……」


 汝の願い 聞き入れた


 再び声が聞こえてくる。

 願い? 願いとはなんだ?

 分からない。分からない。


 殺せ 殺せ 殺せ 殺せ


 ころせ ころせ ころせ ころせ


 コロセ コロセ コロセ


 この声が、心の声なのか、外部からの声なのか見当が付かない。


 壊せ 壊せ 壊せ 壊せ


 こわせ こわせ こわせ


 コワセ コワセ コワセ


 スベテヲ ハカイシロ


 徹は洗面台に吐いた。緑色の吐瀉物に混じり、血の塊も吐き出された。胃の中から、体の中から不純な物が、不要な物が吐き出される。吐く度に体が楽になり、活力が体の底から溢れてくる。しばらく吐き続けた徹は、口を拭って顔を上げた。

 鏡に映るのはいつもの冴えない自分ではない。そこに居たのは、初めて見る自分だった。生まれ変わり、人外の力を手にした自分だった。

「殺してやる……殺してやる……。ぼ、ぼ、僕を殺した奴を、殺してやる……。ぼ、僕は……、俺は、生まれ変わった!」

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