復讐編
1話
「オラ! 歩けや!」
怒声と共に、背中に強い衝撃を受けた。
片瀬徹は蹌踉めきながら足を数歩前へ進めた。熊のような大きな体格に似つかわしくない、小さな歩幅でオドオドした歩き方。
「…………」
徹は足下を見て息を飲んだ。
ここは山間にある廃病院。病院と言っても、元々個人院だったのでそれほど大きくはない。二階建ての細長い建物だ。数年前に廃業し、撤去の当てもなくそのまま放置されている。寂れた病院は地元の心霊スポットになり、不良のたまり場にもなっていた。
「ホラ! 飛び降りろよ!」
「え……?」
徹は顔だけで振り返った。瞬間、頬を叩かれた。それほど痛くはないが、胸の奥がズキリと痛む。胃が締め付けられるように苦しくなる。
屋上の縁に立たされた徹は、一〇メートルほど下に置かれたマットレスを見て小さく首を振った。
「む、む、無理だよ……」
「ああ?」
低いドスのきいた声に、徹はビクリと肩を竦めた。彫像の様に固まった徹の腿に蹴りが入った。僅かに身じろぎした徹は、伏せ目がちに蹴った人物を見る。
徹の前には、四人の不良が立っていた。いや、不良とは少し違うかも知れない。学校では比較的真面目な生徒達だが、自分よりも弱い人間を見ると、トコトン追い込み楽しむ陰湿な奴らだ。
彼らの名前は、佐木平治。二階堂健。下田久志。加持陽介の四名だ。何処にでもいる生徒、髪の毛を染めているわけでもなければ、校則に引っかかる制服を着ているわけでもない。大人の目には、何の問題も無い普通の生徒。誰に咎められるわけもなく、彼らの行為は日に日にエスカレートしていった。
「ホラ! 飛べ! 飛べば今日は帰って良いから!」
縁なし眼鏡を掛けた、すかした表情の佐木平治が言った。先ほど、徹を蹴ったのも彼だ。インテリ風な風貌からは想像もできない陰湿な性格の佐々木は、四人の中でもリーダー格で、彼が指揮を執って徹を毎日追い詰めていた。
昨日は上靴と弁当を燃やされ、その前はボンドで髪の毛を固められた。殴る蹴るは日常茶飯事だったが、顔を直接殴られないため、大人は徹がイジメられていることに気が付かない。クラスメイト達は徹の状況を知っているはずだが、皆遠くから眺めているだけで、誰も助けようとする人物はいない。それどころか、クスクスと笑い、彼らをはやし立てることもある。
「ご、ご、ごめんなさい……、ご、ごめんなさい……」
徹は頭を下げた。自分は何も悪くない。だけど、そうでもしなければ彼らは引き下がらない。
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